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Jリート市場の分配金は今後5年間で5%減少の見通し-シナリオ別の分配金レンジは「▲18%~+7%」となる見通し
基礎研REPORT(冊子版)5月号[vol.326]

金融研究部 不動産調査室長 岩佐 浩人
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1―J-REIT市場は弱含みで推移
2―今後のDPU成長率を試算する
三鬼商事によると、東京都心5区のオフィス空室率(2024年3月)は5.47%となり、2022年9月(6.49%)をピークに改善基調にある。また、平均募集賃料についても前月比でプラスに転換し底打ち感が広がる。このように、コロナ禍を契機に悪化したオフィス市況は調整局面を脱しつつあるようだ。一方、J-REIT保有ビルの収益は減少が続いている。継続比較可能な物件を対象に保有ビルのNOIの推移を確認すると、2021年から前年比マイナスに転じ、2023年上期は▲4.3%、下期は▲1.4%となった[図表3]。
また、保有ビルの賃料ギャップ(市場賃料と継続賃料のかい離率)は全体で▲1%と推計され、現状、市場賃料が継続賃料を下回る状態にある。
住宅系REIT(主要5社)の開示資料によると、テナント入替時の賃料変動率は+3.7%(2023年下期)となり上昇率が拡大している。この要因の1つに、東京23区への人口回帰が挙げられる。住民基本台帳人口移動報告によると、2021年はコロナ禍を受けて▲1.5万人の転出超過となったが、2022年は+2.1万人、2023年は+5.4万人の転入超過となった。こうした良好な市場環境を踏まえて、賃貸マンションのテナント入替時の賃料上昇率について+3%を想定する。
J-REIT各社の開示資料をもとにコロナ禍によるホテルの減収金額(2019年対比)を推計すると、2023年下期は▲12億円となり、ホテル収益のダメージは一巡したと考えられる。宿泊旅行統計調査によると、2024年2月の延べ宿泊者数は2019年同月対比+10.6%とコロナ禍前の水準を上回った。今後についてもインバウンド需要の拡大を背景にホテル収益の改善が期待される。こうした市場環境やホテル系REIT(主要2社)の業績見通しを参考に、ホテルのNOIは2024年下期に50億円増加(市場全体の経常利益を+1.6%押し上げ)し、その後は横ばいでの推移を想定する。
物流系REIT(主要12社)の開示資料によると、テナント更新時の賃料変動率は+4.2%(2023年下期)となり、契約更新時において賃料増額を実現できている。EC市場の拡大や企業の物流効率化・サプライチェーン見直しに伴う賃貸ニーズは旺盛であり、物流施設のテナント更新時の賃料上昇率は+4%を想定する。
市場金利が上昇し新規の借入利率が既存の利率を上回るなか、J-REIT各社は借入期間の短縮や変動金利の比率を高めるなどして財務負担の軽減を図っている。2023年にJ-REITが発行した投資法人債の平均利率は0.81%、発行期間は5.8年となった[図表5]。
ニッセイ基礎研究所の中期経済見通しによると、「日本銀行によるYCC撤廃やマイナス金利政策解除を受けて金利上昇圧力が高まる一方、国債買入れの効果などもあり、10年国債利回りは1%程度の水準に留まる(当初5年間、メインシナリオ)」としている。この金利見通しを利用して、『財務戦略』のDPUへの寄与度(今後5年間)を計算した。結果は、メインシナリオで▲5%となり、借入金利の上昇がDPUにマイナス寄与する見通しである。
最後に、上記で設定したシナリオをもとに今後5年間のDPU成長率を試算した[図表7]。結果は、オフィス賃料(標準シナリオ)と金利(メインシナリオ)を組み合わせた場合、DPU成長率は▲5%となった。内訳は「内部成長」が+2%、「外部成長」が▲2%、「財務戦略」が▲5%で、2024年はプラス成長を維持するものの、2025年から減配に転じる見通しである。また、楽観シナリオとして、オフィス賃料上振れと金利低下を組み合わせた場合、DPU成長率は+7%、悲観シナリオとして、オフィス賃料下振れと金利上昇を組み合わせた場合、DPU成長率は▲18%となった。
(2024年05月09日「基礎研マンスリー」)
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03-3512-1858
- 【職歴】
1993年 日本生命保険相互会社入社
2005年 ニッセイ基礎研究所
2019年4月より現職
【加入団体等】
・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター
・日本証券アナリスト協会検定会員
岩佐 浩人のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
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