2024年05月09日

中国、20代の未婚化、出生率低下が顕著

基礎研REPORT(冊子版)5月号[vol.326]

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 片山 ゆき

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1―止まらない少子化、人口減少

中国の国家統計局は1月17日、2023年の総人口、出生数が前年に続き減少していることを発表した。2023年の総人口は14億967万人で、2022年から208万人減少し、2年連続の減少となった。また、2023年の出生数は902万人と、こちらも2022年から54万人減少している。

中国における出生数の減少について、国家統計局はその要因を挙げている。それは、(1)出産適齢期の女性人口の減少、(2)結婚や出産年齢などの上昇、(3)養育や教育費用の高騰による若年層の子育てに対する意欲の低下や考え方の変化、(4)新型コロナウイルスの感染拡大による出産控えである。本稿ではその中でも(1)出産適齢期の女性人口の減少、(2)結婚や出産年齢などの上昇に注目し、その様相を概観したい。

2―出生率の高い20代の女性人口が大幅に減少。

中国では1979年に一人っ子政策が開始されたが、その後も労働力として、また伝統的な‘孝’の概念によって男児の出産優先の伝統は残り続けた。澤田(2018)は、とりわけ農村部では人民公社が解体されて以降、家庭ごとの生産責任制が実施され、農地の請負面積が世帯の労働力に比例して配分されたので、家族の人数が多いほど広い土地を持つことができた点を指摘している。経済単位としての「家」が重要となったことから、後継ぎになる男子の価値が上昇し、女児の中絶や遺棄が増大したとした。一人っ子政策によって人口はある程度コントロールされ経済成長も果たしたが、当時の諸政策の整合性がとれていなかったため、人口性比の均衡が崩れ、その結果として将来母となる女性の数がアンバランスに減少するという事態を招いてしまったのだ。

国連の人口推計によると、生産年齢人口(15-64歳)が減少し始めた2011年に、その足並みを揃えるように女性の出産年齢にあたる15-49歳の人口も減少している[図表1]。また、15-49歳の男性も同様に減少しているが人口性比をみると2011年時点で女性100に対して男性が106.4、2021年では109.7と広がっている。女性人口が男性人口と比べて大幅に少ない状態にあることが分かる。

また、15-49歳の女性人口は2011年から2021年の10年間で、4,500万人も減少している(男性は4,000万人減)。政府が出産に最も適齢と考える20-34歳の女性人口は10年間で1,777万人減少している。出生率の最も高い25-29歳(後述)は10年間で877万人減、次いで20-24歳は2,149万人減と大幅に減少している。

人口のステージが少産少死(多産ではない)にある現在の中国において、母となる女性の数そのものが大幅に減少すれば生まれて来る子どもも同様に減少してしまうのは当然の帰着と考えられよう。
[図表1]15-49歳・男女別人口の推移

3―20代の未婚率の上昇が顕著。

一方、未婚率の上昇についてはどうであろうか。

図表2、図表3は5歳年齢区分別の人口に対してその未婚者数の割合(未婚率)の推移(男女別)を示したものである。
[図表2]男性・年齢区分の未婚割合の推移(2021年-2021年)
[図表3]女性・年齢区分の未婚割合の推移(2021年-2021年)
この20年間をみると、男性、女性とも20代の未婚率の上昇が顕著で、30代前半においても上昇している。20-24歳の女性については、2019年の新型コロナ禍以降、未婚率が急激に上昇しているのも1つの特徴であろう。

20代の未婚率の上昇の背景にはまず、近年、政府の強力な後押しによる大学・大学院進学率の向上があろう。20代の大半を学生として過ごす若年層が増加していると考えられる。また、この20年間の経済の高度成長、都市化の進展によって働き方や生き方が多様化している点も挙げられる。それと同時に、16-24歳の若年層の失業率は統計が開始された2018年1月時点では11.2%であったが、2023年6月には最高の21.3%を記録している。

当局は2023年7月以降、調査方法を見直すとして16-24歳の失業率の発表を停止し、2024年1月に再開、2023年12月時点での失業率は14.9%とした。新たに発表された失業率には仕事を探している学生を除いて算出されているが、失業率は相変わらず高い状況にある。若年層の失業率の上昇が所得の不安定化、将来の生活への見通しに影を落とし、それが未婚率の上昇、更には出生率の低下につながる可能性もある。

4―出生率の低下―特に新型コロナ以降、20代前半の出生率が急速に低下。

一方、晩産化の状況はどうであろうか。年齢別の出生率の推移からその状況を確認してみたい。図表4は、15-49歳の年齢別の出生率について、2001年、2011年、2021年の10年ごとに比較したものである。それによると、中国はこの20年ほどで出生率が低下し、次いで晩産化が進行しつつある点をうかがうことができる。

2001年時点では出産のピークは概ね20代前半で、出生率が最も高いのは25歳であった。次の10年間(2002-2011年)では、出産のピークの年齢層は2001年から大きな変化はないものの、出生率がおよそ半分にまで低下している。

直近の10年(2012-2021年)では出産年齢のピークが20代後半に移っており、出生率が最も高いのは28歳であった。また、20代後半の出生率が20代前半の出生率を上回っている。更にこの20年間における年代別の出生率の変化をみると、20代の出産が減少し、それに替わって30代前半の出産が増加している点にある。つまり晩産化は、政策的に出産への緩和が徐々に開始された時期に進んでいることがうかがえる。
[図表4]年齢別(15-49歳)出生率の推移
中国政府は一人っ子政策を堅持しながらも、2000年代には緩和の動きも見せている。各地域が状況を鑑みた上である程度の緩和措置をとることが可能となり、例えば少数民族、夫婦とも一人っ子、農村部で第1子が女児の場合などについては第2子の出産を認めた。2013年には夫婦のどちらかが一人っ子の場合、第2子までの出産が正式に容認されている。加えて、2015年には第2子まで( 適用は2016年から)、2021年には第3子までの出産が容認された。

このような緩和策の効果は、20代後半、30代前半の出生率の上昇に現れている[図表5]。図表5から2016年、2017年の出生率の上昇は第2子出産容認による効果と推察されるが、特に25-29歳、30-34歳の出生率が急上昇しており、当該年齢層による貢献が大きいと考えられる。20‐24歳も上昇しているが25-29歳、30-34歳ほどではなく、加えて、2019年以降出生率が急降下している。

この点からも昨今の出生数の急減については、特に20-24歳の出生率の急減が大きな影響を与えたと推察することができる。2019年以降、新型コロナウイルス禍、中国と米国間の貿易摩擦や世界的な情勢から経済の低成長が続き、特に20代前半については就職難、失業率の上昇、所得の不安定化と社会情勢や経済状況の影響を最も受けやすい世代とも言える。20代前半の失業率の上昇、未婚率の上昇、それが出生率の低下につながっている点をうかがうことができる。
[図表5]2001-2021年の年齢区分別の出生率の推移
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保険研究部   主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

片山 ゆき (かたやま ゆき)

研究・専門分野
中国の社会保障制度・民間保険

経歴
  • 【職歴】
     2005年 ニッセイ基礎研究所(2022年7月より現職)
     (2023年 東京外国語大学大学院総合国際学研究科博士後期課程修了) 【社外委員等】
     ・日本経済団体連合会21世紀政策研究所研究委員
     (2019年度・2020年度・2023年度)
     ・生命保険経営学会 編集委員・海外ニュース委員
     ・千葉大学客員准教授(2023年度~) 【加入団体等】
     日本保険学会、社会政策学会、他
     博士(学術)

(2024年05月09日「基礎研マンスリー」)

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