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他国との再保険の監督に関する留意事項の検討(欧州)-EIOPAの声明

保険研究部 主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任 安井 義浩
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1――再保険の活用
ところでこの再保険も、通常の(元受)保険同様に、様々なリスクにさらされていることには変わりないので、保険会社(再保険会社をも含む。この文章中、特段断りのない限り以下同様)が、再保険リスクの軽減、リスクへの対応策の準備などに取り組んでおり、それを各国の保険監督者も、常時チェックしている。
特に、再保険専門会社は世界的に広く活動している会社が多いこともあって、再保険取引は自国内に限らないものになることも多い。この時、リスク管理手法や評価基準が国や地域により異なるとすれば、その取扱いをどうすべきか、あるいは早急に考え方や実務基準を統一すべきか等について整理しておく必要がでてくる。
今回は、EU内の取り扱いの中で、そうした「第三国」(ここではEU以外の国という意味)の再保険を利用する場合(すなわち、元受がEU内の保険会社、出再先がEU外の保険会社の場合)の監督方針について、EIOPA(欧州保険・企業年金監督機構)から、加盟各国の保険監督者に向けた声明が、2024年4月4日に公表された1ので、その内容を紹介する。
1 SUPERVISORY STATEMENT ON REINSURANCE CONCLUDED WITH THIRD COUNTRY INSURANCE AND REINSURRANCE UNDERTAKINGS (EIOPA 2024.4.4)
https://www.eiopa.europa.eu/document/download/b3a4fdee-9c4c-40cb-9371-9c59842e2219_en?filename=EIOPA-BoS-24-075_Supervisory%20Statement%20on%20the%20supervision%20of%20third-country%20reinsurance.pdf
(報告書の翻訳や内容の説明は、筆者の解釈や理解に基づいている。
2――再保険のリスク管理の留意点
例えば、米国については、相互に同等性を認めることにつき、EU-米国間で協定がむすばれており、監督や再保険契約、リスク管理の面で手続きを簡素化できる。その他の国についてもEUとの間に特に協定がある場合などは、それに基づいて監督が行われる。
そうした協定がない場合は、各国それぞれの監督の中で、監督に必要な経営情報の要求、再保険協約などの事前の承認、あるいはEU内の加盟国における支店の開設を求めて監督下に置くなど、各国それぞれが、独自に方針を決めることができるが、手続きが繁雑になる面もでてくる。
今回の声明は、こうした同等性がまだ認められていない国が関わる、再保険契約のあり方やリスク管理方針などについて、基本的な考え方や必要項目についてのEIOPAの方針である。これらの方針は、これまでの個々の会社や各国監督の経験に基づくものである。
なお、再保険の活用は、基本的には大いに奨励されているのであって、この声明やのちに公表予定のガイダンスにより、再保険の活用をことさら制限しようとするものではない。再保険の活発な利用を前提とするからこそ、一層質の高いリスク管理や保険監督を行おうとしているものである。
再保険の活用には、その利点として、
・現在の各種リスクを分散できる
・ひいては保険引受能力を向上させることができる
・資本要件の充足、あるいは損益の変動の抑制
といったものがある一方で、
・カウンターパーティに関するリスクが発生すること
・再保険料の支払いといった新たなコスト負担が生じること
といった懸念点あるいは負荷の発生がある。
これらを総合的に考慮して、再保険戦略を決定し実施することは個々の保険会社の責任であり、それらを監督することは各国保険監督者の責任である。また各保険会社の保険数理機能(担当者)も再保険の適切性について意見を表明する責任がある。
保険会社によるリスク削減技術の利用については、保険会社と監督者とが対話する必要があるが、既に、その重要性やプロポーテョナリティ2に応じて、対話は実施されてきている。またとくに重要なリスク(取引先のデフォルトリスクや大きな生命保険引受リスクなど)が想定される場合には、再保険協約を締結する前に、保険会社と監督者が対話することもある。また大きな変更がある場合にも、その都度、対話することが重要である。
2 「プロポーショナリティ」は日本語に訳しにくい単語であるが、要は「会社が比較的小規模だったり、リスクが小さいかあるいは単純だったりする時には、大会社のようなフル対応は必要なく、簡略な対応が認められること」といったニュアンスか。
再保険協約を結ぶための基本的な前提条件(再保険事業の免許、自国で再保険を展開できる許可)を満たしているかどうかはもちろん、再保険のリスク管理については、以下の点を考慮すべき
1.戦略、プロセス、報告手順について、継続的にリスクを特定、測定、監視、管理するために適切なものであるかどうか。(特に居住地の違い)
2.第三国との再保険協約において、法律が異なることから生じるコンプライアンスリスクや、カウンターパーティリスクを認識すること
3. 再保険会社を選定するにあたり、再保険会社の多様性や、信用力などを適切に評価すること
1.2.に関しては、経営上問題のない再保険会社であること、地理的な分散がなされること、公正な行動や適切なガバナンスが行われていること あるいは万一、再保険金を受け取れない事態になった場合の、破産法上の取扱い(担保の取扱いを含む)などを考慮する必要がある。
3.については、再保険の相手国の資本体制の強さ、相手再保険会社の資本の質の強さ、相手再保険会社の信用力のモニタリング体制、ほかに担保、分離勘定の設定などのリスク軽減策があるか、などを考慮する必要がある。
対象となる保険種類などによって、重大なエクスポージャーが生じる場合には、さらに慎重かつ詳細な評価が必要である。また相手先の経営情報の情報源としては、個々の再保険会社から直接得るものに加えて、外部格付を利用した動向の把握など、様々な情報源を活用することが期待される。
リスク管理という視点からは、何か不都合な事態が起きた場合に、再保険協約の中でどう取り扱うことになっているかを検討することが必要である。例えば再保険の解除条件、追加条件、終了条項、解約の権利などである。またさらに広く、第三国の再保険会社の支払能力不足や法律違反、財務状況の悪化、格下げ、規制当局の指導などの動向により、再保険がどう取り扱われることになっているか、あるいは第三国の会計基準における財務状態の評価の変化などにつき、支障となるようなことはないかという点もチェックする必要がある。
そのほかにリスク削減の方策としては、
・特定の第三国へのリスクエクスポージャーをあらかじめ制限すること
・万一の場合に確実に事業が継続できるように、閾値による契約削減条項(ある指標が一定の値を超えたら自動的に再保険が解約できたり削減できたりすることのことか)などの記載も考えられる。
3――おわりに
EIOPAの年次活動計画にもあるように、各国監督への最終的なガイダンスを2024年中に公表する段取りとされている。
(2024年04月23日「基礎研レター」)

03-3512-1833
- 【職歴】
1987年 日本生命保険相互会社入社
・主計部、財務企画部、調査部、ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)(2007年‐2010年)を経て
2012年 ニッセイ基礎研究所
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
・日本証券アナリスト協会 検定会員
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