2024年04月12日

貸出・マネタリー統計(24年3月)~都銀の貸出増加が顕著に、今後は貸出金利の動きにも注目

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

文字サイズ

1.貸出動向:貸出の増勢が強まる

(貸出残高)                                                                  
4月10日に発表された貸出・預金動向(速報)によると、3月の銀行貸出(平均残高)の伸び率は前年比3.61%と前月(同3.36%)から上昇した(図表1)。伸び率は10カ月ぶりの高水準となり、銀行貸出の増勢が強まった。円安が進んだことで、外貨建て貸出の円換算額が嵩上げされた影響もあるが、実勢としても経済活動再開に伴う運転・設備資金需要、原材料価格の高止まりに伴う資金需要、M&A・不動産向けの資金需要などが複合的に寄与する形で伸びていると考えられる。

業態別では、都銀の伸びが前年比4.21%(前月は3.76%)、地銀(第2地銀を含む)の伸びが同3.10%(前月は3.02%)と都銀の伸び率は3年ぶりの高水準に拡大している(図表2)。都銀では、外貨建て貸出の嵩上げに加え、M&Aなどに絡む大口案件の寄与がうかがわれる。
(図表1) 銀行貸出残高の増減率/(図表2) 業態別の貸出残高増減率/(図表3) ドル円レートの前年比(月次平均)/(図表4)貸出先別貸出金
(図表5)国内銀行の新規貸出平均金利 (貸出金利)
2月の新規貸出金利については、短期(一年未満)が0.336%(前月は0.459%)、長期(1年以上)が0.979%(前月は0.931%)となった。

当統計は月々の振れが大きいため、移動平均で均してトレンドを見ると(図表5)、短期貸出金利は2020年以降低位で底這いの一方、長期貸出金利は2021年以降、国債利回りの上昇などを受けて緩やかな上昇基調にある。

日銀は3月にマイナス金利政策を解除、YCC(長短金利操作)も撤廃したが、これを受けた主要行は短期プライムレートの据え置きを決定し、10年国債利回りも今のところ小動きに留まっている。従って、貸出金利への影響は限定的と考えられるが、Tiborなど一部市場金利に上昇がみられるため、今後の動向を注視したい。

2.マネタリーベース:国債買入れ正常化で伸び鈍化

4月2日に発表された3月のマネタリーベースによると、日銀による資金供給量(日銀当座預金+市中に流通する紙幣・貨幣)を示すマネタリーベース(平残)の伸び率は前年比1.6%となり、前月(同2.4%)から低下した(図表6)。コロナオペの資金回収という特殊要因が終わったことで伸び率は昨年8月以降前年比プラスを維持しているが、10月(前年比9.0%)以降は5カ月連続で低下している。

そして、この伸び率低下の主因はマネタリーベースの約8割を占める日銀当座預金の伸び率低下である。長期金利の上昇圧力が一服したことを受けて、日銀が長期国債の買入れ額を金利上昇圧力が高まる前の2021年の水準(6兆円弱)に減少させたことで、マネタリーベースの伸びが鈍化した(図表7)。

季節性を除外した季節調整済み系列(平残)で見ても、3月のマネタリーベースは前月比2.0兆円増と小幅な伸びに留まっている(図表9)。
(図表6)マネタリーベースと内訳(平残)/(図表7)日銀の国債買入れ額とコロナオペ(月次フロー)
(図表8)マネタリーベース残高の伸び率/(図表9)マネタリーベース残高と前月比の推移
その他の内訳では、貨幣流通高の伸びが前年比▲1.8%(前月も▲1.8%)日銀券発行高の伸び率が同▲0.8%(前月は▲0.6%)とともに前年割れとなっており(図表6)、マネタリーベースの増勢鈍化に繋がっている。キャッシュレス化の進展に加え、紙幣ではインフレによるタンス預金の目減り懸念等により、一部で現金離れが進んだものと考えられる。

3.マネーストック:市中通貨量の伸びは堅調に推移

4月11日に発表された3月分のマネーストック統計によると、金融部門から市中に供給された通貨量の代表的指標であるM2(現金、国内銀行などの預金)平均残高の伸び率は前年比2.51%(前月は2.45%)、M3(M2にゆうちょ銀など全預金取扱金融機関の預貯金を含む)の伸び率は同1.82%(前月は1.79%)と、ともに若干上昇した(図表10)。M2は2.5%前後、M3は2%弱で安定した伸びが継続している。
(図表10) M2、M3、広義流動性の伸び率/(図表11) 現金・預金の伸び率
M3の内訳では、最大の項目である預金通貨(普通預金など・前月4.5%→当月4.5%)の伸びが横ばいとなる中、準通貨(定期預金など・前月▲1.9%→当月▲1.8%)、CD(譲渡性預金・前月▲12.9%→当月▲12.8%)のマイナス幅が若干縮小し、全体の伸び率上昇に寄与した(図表11・12)。一方で、キャッシュレス化の波を受ける現金通貨(前月▲0.4%→当月▲0.5%)の伸びがマイナス幅を拡大したことが、全体の伸びを抑制した。
(図表12)投信・金銭の信託・準通貨の伸び率 一方、広義流動性(M3に投信や外債といったリスク性資産等を加算した概念)の伸び率は前年比2.06%(前月は2.23%)とやや下落した(図表10)。

内訳では、既述の通り、M3の伸びが上昇した一方で、規模の大きい金銭の信託(前月3.2%→当月2.7%)、投資信託(私募やREITなども含む元本ベース、前月1.3%→当月▲1.1%)、国債(前月2.4%→当月1.8%)、外債(前月17.0%→当月16.6%)の伸び率が軒並みやや低下し、全体の伸びを抑制した(図表12)。

ただし、広義流動性の伸びも昨年半ば以降は2%強で安定して推移しており、緩やかな増勢が続いている。
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
Xでシェアする Facebookでシェアする

経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

(2024年04月12日「経済・金融フラッシュ」)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【貸出・マネタリー統計(24年3月)~都銀の貸出増加が顕著に、今後は貸出金利の動きにも注目】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

貸出・マネタリー統計(24年3月)~都銀の貸出増加が顕著に、今後は貸出金利の動きにも注目のレポート Topへ