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保険会社の再建と破綻処理等の制度構築の動き(英国)-PRAが「ソルベント・イグジット」の導入について意見募集中

保険研究部 主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任 安井 義浩
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英国においては、保険会社の再建と破綻処理のあり方について検討中であり、破綻ではないが広い意味ではソルベント・イグジットもそのひとつの方策といえる。この協議文書において、PRAが通常業務のひとつとして、必要に応じてソルベント・イグジットを実行できるように、その発動条件や適用対象となる保険会社の範囲、事前準備すべき計画などの一部を提案している。
これにより、保険会社の(広い意味での)破綻の際、市場の混乱を最小限に抑え、秩序を保ちつつ市場から撤退できるようにして、破産や破綻処理といった政府による最終手段に頼ることのないようにする。そうすれば税金投入の回避も含めた社会全体のコスト面においても有益だと見込んでいる。
1 Solvent exit planning for insurers (2024.1.23 PRA)
https://www.bankofengland.co.uk/prudential-regulation/publication/2024/january/solvent-exit-planning-for-insurers-consultation-paper
(報告書の翻訳や内容の説明は、筆者の解釈や理解に基づいている。)
1――今回提案の概要
(事前に準備すべきこと)
対象となる保険会社は、平常時の企業活動のひとつとして、ソルベント・イグジットの計画を準備しておく必要があり、計画は文書化しておかなければならない、といった規則を設けること
ソルベント・イグジットが他の方策に比べて合理的であるという状況は、何らかの基準に基づき判断して、そうした時のみ適用されるべきこと、PRAサイドでも実行計画を準備し、平時から状況を監視し管理してくこと
(破綻ではなく、支払い能力のあるうちに処理するということ)
この協議文書における提案は、保険会社がソルベント・イグジットを順調に実行できる可能性を高めることを目的としている。支払不能に陥ってから破綻処理するよりも、効率的で費用対効果が高く、保険契約者への影響も小さく済むとPRAが考えていることによる。そのためには、ソルベント・イグジットに向けた準備方法をあらかじめ明確にしておいた方が、よい良い整合的な結果をもたらすと考えられる。
(意図・目的)
ソルベント・イグジットを制度として確立し、それに対して保険会社が準備を強化しておくことは、PRAの目的(=健全性の維持)に合致し、保険業界と、さらに広く市場全体に利益をもたらすだろう。またソルベント・イグジットがうまくいけば、支払能力を失った後で行う破綻処理よりも、金額的な面で保険契約者保護が最大化されるだろう。存続が困難な保険会社は、比較的容易に撤退できるようにすることで、PRAの介入の可能性・必要性を減じることができる。
ただし、その手続きや手順、行きつく先が不透明なままでは、市場全体のリスクをかえって高めることにもなる。当初ソルベント・イグジットの予定が結局は破綻処理となってしまい、関連コストの増大や保険契約者、債権者その他の利害関係者へのリスクを高めることにならないよう、制度を構築しておく必要がある。
(障害となる点の、事前の洗い出し)
現時点では、生命保険会社・損害保険会社とも、何がソルベント・イグジットの障壁になるかについて経験が乏しいため、やってみないとわからないという面が強い。今回の協議の目的は、事前にそうした障害となる点を分析することでもある。ソルベント・イグジットに対する障壁は、例えば保険会社の性質、事業内容、市場に占める位置などに応じて、複雑で多面的なものになることが想定される。分析を踏まえて、存続可能性、事業譲渡の可能性、売却の可能性などの制度の改善または調整に必要な項目の特定に役立つことも期待できる。
こうした検討を通じて、PRAが「実際に制度が実行可能である」という確信を強く持つことができれば、処理実行中にPRAがいちいち関与する必要が少なくて済む。
(他業態の同様な処置との整合性)
この提案は、先に行われた、非システミックな銀行や住宅金融組合向けの提案と、できるだけ整合性を保つようにしている。しかし、当然のことながら、事業内容の違いや規制の違いにより異なるアプローチをとる面もある。保険会社の場合、特に負債は長期にわたり、簡単に譲渡・交換などができないという面が、預金と比べて処理に求められる要求事項や影響が異なると考えられる。
また、銀行や住宅金融組合の場合は、破綻の際の手続きがある程度存在していたものを拡張できたのだが、保険会社の場合既存のものはなく、あらたに構築する必要がある。
2――対象範囲
・英国のソルベンシーII対象および非対象企業
ソルベンシーIIの対象となる保険会社は当然含まれるが、小規模であるために非対象である保険会社も、むしろ撤退リスクが高いと考えられるので、対象とすることとしている。
・ロイズと代理店への適用
ロイズとその代理店は損害保険市場で大きなシェアを占めているので撤退計画が必要であると考えている。
・IAIGs(国際的に活動する保険グループ)への適用
IAIGs(国際的に活動する保険グループ)とみなされる保険会社は、IAIS(国際保険監督者協会)のもとでの破綻処理計画が存在するはずなので、おおむねそちらに従うことで問題ないが、意思決定に必要な経営指標など、把握すべき追加情報が生じる可能性はある。
・保険グループへの適用か、単体保険会社への適用かという問題
ソルベンシーII対象の保険会社は、ソルベント・イグジット計画を立てる際には、グループ全体のリスクや影響を考慮する必要がある。しかしグループ全体の計画を立てることは想定していない。そうしたい単体保険会社は、PRAの事前の合意が必要である。
・相互会社等への適用
保険相互会社や共済組合については、ガバナンス面等別途考慮すべき点はあるが、事業撤退の際のリスクについては株式会社と同様なので対象とする。
・ランオフ事業者への適用
ランオフ事業者については、新規契約を獲得するという意図はないとしても、(既存契約群団を引き取るという意味では)保険市場から撤退するつもりはないと考えられるため、対象とすることを提案している。
・「消極的な」ランオフ事業者への適用
ランオフ事業者への適用の考え方は上記のような方針とはいえ、完全に保険金支払のみに特化しているランオフ事業者は、これ以上有効な撤退計画を立てられないと思われるので対象としないことを提案している。
・海外保険会社の英国支店への適用
本店が破綻しない限り、支店だけが破綻することはないと考えられる。もし支店だけの計画を立てるとすれば、海外の本店も含めた全体の状況を考慮する必要があるが、PRAが、本国の保険監督にまで効力を及ぼす規定を作るのは、過剰な対応と考えられるため、海外保険会社の英国支店は対象とはしないことを提案している。
3――おわりに
もちろんそうでなければソルベント・イグジットの有効性がないので、事前に充分な検証が望まれるが、上にもあるように、実際に障壁になるものは、現時点では不透明な点もあり、同時に検討していく必要がある。
(2024年03月19日「基礎研レター」)

03-3512-1833
- 【職歴】
1987年 日本生命保険相互会社入社
・主計部、財務企画部、調査部、ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)(2007年‐2010年)を経て
2012年 ニッセイ基礎研究所
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
・日本証券アナリスト協会 検定会員
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