2024年02月26日

米国財政と24年度予算審議-3月1日の暫定予算の期限が迫る中、連邦政府機関の一部閉鎖リスクが高まる

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.はじめに

米国の財政状況はコロナ禍に伴う累次に亘る経済対策もあって20年度以降大幅に悪化した。現行政策の継続を前提としてベースライン予想では34年度にかけても引き続き財政状況の大幅な悪化が見込まれている。

23年10月からスタートした会計年度の24年度は本決算が成立しておらず、暫定予算で凌ぐ状況が続いている。与野党の上下院指導部は1月7日に24年度の裁量的経費の合計額で合意したものの、歳出法案はまとまっておらず、暫定予算の期限となる3月1日に向けて審議日数が限られる中、期限切れに伴う連邦政府機関の一部閉鎖リスクが高まっている。

本稿は米国の財政状況について確認した後、24年度の予算審議の動向について今後の注目点も含めて論じている。24年度予算審議では前述のように暫定予算の期限切れに伴う連邦政府機関の閉鎖リスクが高まっている。今後の注目材料としては24年度予算編成の動向に加え、3月11日に予定されている25年度の予算教書でバイデン大統領がどのような予算案を提示するのかも注目される。

2.米国の財政状況

2.米国の財政状況

(07年度~23年度実績)コロナ禍に伴う経済対策などから20年度以降に財政状況は大幅に悪化
米国の財政赤字(GDP比)は金融危機に伴い09年度に▲10.7%をつけた後、景気回復に伴い財政収支の改善が続き15年度には▲2.6%まで縮小した(前掲図表1)。しかしながら、トランプ政権時代の大型減税に伴い歳入が減少したことに加え、大幅な歳出増加から19年度には▲4.7%まで赤字幅が拡大した。

さらに、20年初からのコロナ禍に伴う景気悪化と経済対策として累次に亘る大型の経済対策が実施された結果、歳出が大幅に増加し20年度には▲14.8%と赤字幅が戦後最大となった。21年度は一部経済対策の期限切れに伴って歳出が減少に転じたほか、景気回復に伴う歳入増加から財政赤字は縮小したものの、依然として▲11.9%と戦後2番目の高さに留まった。
(図表2)財政政策の成長率寄与度 実際にコロナ禍の経済対策に伴い、財政政策の成長率寄与度は20年4-6月期には+14.1%ポイントと金融危機時に比べても大幅な成長押上げとなったほか、成長率寄与度の4四半期移動平均では21年4-6月期まで成長率を押し上げた(図表2)。このため、大型の経済対策がコロナ禍に伴う景気の落ち込みを軽減した一方、財政状況の大幅な悪化を招いたことが分かる。

22年度以降の財政赤字は、景気回復に伴う歳入増加や経済対策の期限切れに伴う歳出減少によって財政赤字の縮小は継続しているものの、22年度が▲5.4%、23年度が▲6.3%といずれもコロナ禍前の▲3%台を大幅に上回っている。

一方、債務残高(GDP比)は金融危機前の30%台から金融危機後の09年度に52.2%に急増した後、前述の大型経済対策の影響もあって増加ペースがさらに加速し、23年度は97.3%となった(前掲図表1)。
(24年度~34年度見通し)34年度にかけて財政状況は一段と悪化の見込み
24年1月3日時点の予算関連の現行法が今後も継続した場合(ベースラインシナリオ)の財政収支、債務残高の議会予算局(CBO)による見通しでは、財政赤字(GDP比)は24年度が▲5.3%と23年度の▲6.3%から小幅な低下が見込まれているほか、29年度には一時▲5.0%まで縮小することが見込まれている(図表3)。しかしながら、その後は増加に転じて34年度が▲6.2%となるなど、24年度~34年度平均でも▲5.7%と依然としてコロナ禍前に比べて高水準が続くと予想されている。

また、債務残高(GDP比)は23年度の97.3%から34年度に116%へ増加することが予想されている。

一方、債務残高の増加に加え、FRBによる大幅な金融引締めに伴い米国債金利が上昇した結果、利払い費の急激な増加がみられている。実際に、利払い費から利息収入を引いた純利払い費は20年度の3,455億ドルから23年度は6,593億ドルと2倍弱に増加した(図表4)。また、CBOの推計では24年度は8,700億ドルに一段と増加し、公的医療保険制度であるメディケアやメディケイドに加え、国防費も上回ることが見込まれている。さらに、今後10年間の純利払い費は高齢化に伴い大幅な増加が見込まれるメディケアには及ばないものの、メディケイドや国防費を大幅に上回ることが見込まれており、今後の利払い負担が財政政策の制約となる可能性が高い。
(図表3)財政収支・債務残高見通し/(図表4)純利払い額と主要な歳出項目比較

3.24年度予算編成の動向

3.24年度予算編成の動向

(暫定予算の概要)農業など4分野の期限が3月1日に到来
24年度予算編成作業では、歳出削減と引き換えに2年間の債務上限非適用を盛り込み23年6月に成立した「財政責任法」により24年度の裁量的経費の歳出上限額を国防関連で8,863億ドル、非国防関連で7,037億ドルの合計1兆5,900億ドルとすることが与野党で合意された。このため、24年度開始前までに本予算成立が期待された。しかしながら、年度開始時点までに議会が本予算で合意できなかったため、議会は暫定予算の成立を余儀なくされた。

また、1月7日には与野党の上下院指導部が24年度の裁量的経費の総額について財政責任法が定める1兆5,900億ドルとすることで合意したことから、本予算成立への期待が高まったものの、各省庁に予算を配分するための歳出法案はまとまっておらず、現状では3本目となる暫定予算で凌ぐ状況が続いている。
(図表5)24年度暫定予算の歳出内訳 1月18日に成立した暫定予算は農業、エネルギー・水資源、軍事建設・退役軍人等、運輸・住宅投資開発省(HUD)向けの4分野の予算措置の期限が3月1日に、残りの8分野が3月8日の期限に設定された(図表5)。

暫定予算の歳出規模は基本的に23年度の統合予算法で決まった歳出額を踏襲しており、年率換算で国防関連予算が8,598億ドル、非国防関連予算が7,767億ドルの合計1兆6,365億ドルがベース予算として設定された。このほかに災害対策予算が535億ドル盛り込まれた結果、災害対策なども含んだ予算規模は1兆6,900億ドルとなっている。

一方、一部共和党下院議員が新たな暫定予算の策定に消極的なほか、歳出法案成立に目途が立たない中、議会は26日まで休会となっている。このため、休会明けには3月1日の期限まで1週間しか残されておらず、予算審議の期限切れに伴う、連邦政府機関の一部閉鎖リスクは高まっている。
(強制歳出削減の概要)4月30日までに本予算が成立しない場合に歳出額の▲1%削減が発動
財政責任法には本予算の成立を促す仕組みとして24年4月30日時点で本予算が成立しておらず、暫定予算で凌ぐ状況が続いている場合には、財政責任法が規定する24年度の裁量的経費1兆5,900億ドルではなく、23年度実績から▲1%の削減水準である1兆5,862億ドルへ減額される強制歳出削減の条項が含まれている(図表6)。
(図表6)24年度裁量的経費上限比較 強制歳出削減では国防関連予算が財政責任法で規定された24年度の8,864億ドルから8,498億ドルに▲4.1%減額される一方、非国防関連予算では同7,037億ドルから7,365億ドルに+4.7%の増額となる。

歳出削減を目指す下院共和党の一部議員には本予算の成立を意図的に遅らせ、暫定予算を継続することで強制歳出削減に抵触させることを目指しているとの指摘もあり、24年度の予算審議を複雑にさせる要因となっている。
(追加予算)ウクライナ支援を盛り込んだ国家安全保障法の下院審議は不透明
24年度の歳出法案審議と並行して喫緊の課題となっているウクライナの軍事支援を含む追加予算審議では、上院でウクライナやイスラエルに対する軍事支援を法案に盛り込む一方、下院共和党が求める国境警備を除いた予算規模およそ950億ドル規模の「国家安全保障法」が2月13日に賛成70票対反対29票の超党派の合意によって成立した。
(図表7)「2024年国家安全保障法」の概要と歳出増加額試算 同法案ではウクライナの軍事支援として601億ドル、イスラエルの軍事支援として141億ドルが盛り込まれたほか、ウクライナ、イスラエル、ガザへの人道支援、台湾を含むインド太平洋地域への資金提供などが盛り込まれた(図表7)。

同法案は下院に送られたものの、ジョンソン下院議長はトランプ前大統領がウクライナ支援に反対していることや国境警備が除外されたこともあって審議の遡上に載せていない。ウクライナ支援について、下院共和党内の意見集約はされていないものの、同法案が審議されれば下院でも超党派の賛成を得て成立するとみられているが、審議の目途はたっておらず下院で成立する見通しは立っていない。

ジョンソン下院議長は暫定予算、歳出法案や国家安全保障法に関して下院共和党内の一部の保守強硬派を無視して、民主党からの賛成を得て超党派で成立させることは可能とみられる。しかし、その際には財政責任法を超党派で成立させた結果解任されたマッカーシー前下院議長の前例のように保守強硬派の反発から解任されるリスクを負うとみられる。このため、ジョンソン下院議長は保守強硬派に配慮して法案の成立を遅らせるか、保守強硬派を切り捨てて解任リスクを負うか難しい舵取りを迫られている。
(歳出法案審議の行方と今後の注目点)
24年度の歳出法案審議では12本の歳出法案のうち、現時点で下院が国防総省、エネルギー・水資源、国土安全保障、内務・環境保護、立法府、軍事建設・退役軍人等、外交・国務等の7本を可決させているほか、上院では農業、軍事建設・退役軍人等、運輸・住宅都市開発省の3本を可決している。もっとも、上下院で合意された歳出法案はゼロとなっている。

前述のように米議会は26日まで休会となっており、歳出法案審議は事実上ストップしている。休会明けでは3月1日の4本の暫定予算の期限切れまで1週間程度しか残されていないため、議会が上下院で歳出法案を成立させる可能性は低いとみられる。一方、ジョンソン下院議長は下院共和党内で意見集約できていないこともあって歳出法案審議の方向性について、新たな暫定予算を提出するのか、統合予算の成立を目指すのか明確な方向性を打ち出していない。また、一部の下院共和党議員は短期的には連邦政府機関の閉鎖を招くとしても新たに暫定予算を提出することに反対しており、暫定予算の期限切れに伴う連邦政府機関の一部閉鎖リスクが高まっている。

一方、予算編成の今後の注目点としては24年度について暫定予算や歳出法案の動向予に加え、3月11日にはバイデン政権による25年度の予算教書の発表が予定されており、24年度の予算審議が滞っている中、同政権がどのような予算案を提示してくるのか注目される。
 
 

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2024年02月26日「Weekly エコノミスト・レター」)

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