2024年02月26日

ドイツの責任準備金評価用最高予定利率を巡る最近の動き-DAV(ドイツ・アクチュアリー会)が2025年からの0.25%から1.00%への引き上げを推奨-

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1―はじめに

ドイツの責任準備金評価用の最高予定利率(Höchstrechnungszinses:HRZ)を巡る動向については、これまで何回かの保険年金フォーカスで報告してきていたが、直近では、保険年金フォーカス「ドイツの責任準備金評価用最高予定利率が2022年から0.25%に-BMF(財務省)の決定内容と関係団体の反応-」(2021.6.1)において、財務省が0.9%から0.25%への引き下げを決定したことを報告した。これを受けて、2022年1月1日からの最高予定利率が0.25%に引き下げられたが、その後はこの水準が維持された形になっている。

その後、2022年に入ってから、欧米でのインフレ率の高まり等を受けての金利の上昇により、現在のドイツ10年国債の利回りは2%を超える水準にある。今回のレポートでは、こうした状況下での、ドイツの責任準備金評価用の最高予定利率を巡る最近の動きについて、報告する。

2―責任準備金評価用最高予定利率設定ルール等の現状

2―責任準備金評価用最高予定利率設定ルール等の現状

1|責任準備金評価用最高予定利率
責任準備金評価用の最高予定利率については、これまで通常の生命保険契約に対しては「(ECB(欧州中央銀行)によって公表される欧州のAAA格付けの)10年国債利回りの過去の平均の60%」等をベースとして決定されてきた。ただし、米国の標準責任準備金法が定める最高予定利率の場合には、利率設定ルールが明確に定められており、基本的に自動的に利率水準が決定されるが、ドイツの場合、自動的に利率水準が決定されるわけではない。

ドイツの保険監督官庁であるBaFinは専門家団体であるDAV(ドイツ・アクチュアリー会)の推奨等も参考にしながら、改定の必要性の有無や改定する場合の水準等について、独自の評価を行い、最終的にはBMF(財務省)が決定し、改定する場合には責任準備金命令の改正を行っている。

この意味で、その時々の監督当局の意図や判断等がより反映される形で水準が決定されている。改定日については、保険会社の事情等も考慮して、最近は毎年1月1日からになっているが、これもルールとして決まっているわけではない。
(参考)「責任準備金命令(DeckRV)」における最高予定利率に関する規定
(2024年1月1日時点)
 

a.ユーロ建契約 2022年1月1日以降については0.25%
b. 保険期間8年以下の一時払契約:残存期間が保険期間に対応する国債利回りの前月値の85%
c. 解約返戻金のない年金保険契約:年金開始後8年間について、及び責任準備金のうち継続的な年金支払いに割り当てられる部分については、残存期間が1年から8年の国債利回りの前月平均値の85%

(参考)最高予定利率の推移(ユーロ建契約の場合)
2|責任準備金評価用最高予定利率の意味合い
この責任準備金評価用最高予定利率は、追加責任準備金であるZZR(Zinszusatzreserve)とは異なり、その変更は既契約に対して適用はされず、あくまでも(日本における標準利率と同様に)変更後の新契約から適用されていくことになる。全ての保険会社は、この最高予定利率という規制要件の枠内で、各社の評価利率等を個別に決定していくことになる。
3|直近の金利の状況
直近の「ドイツ国債の利回り」や「ユーロスワップレート」の推移は、次ページの図表の通りとなっている。長期にわたって金利低下傾向にあり、2019年以降、2年間程度、10年の国債利回りやユーロスワップレートはマイナス領域で推移していたが、2022年に入ってからは、金利が急激に反転して、現在は2%を超える水準を維持している。

これによれば、先の最高予定利率の推移の図表が示しているように、単純に金利水準との関係で見た場合には、現在の2%程度の金利水準では、過去における最高予定利率の水準は0.90%から1.75%の水準だったことになる。
ドイツ国債利回り・ユーロスワップレート(10年)の推移(%)
ドイツ国債利回り・ユーロスワップレート(30年)の推移(%)

3―DAV(ドイツ・アクチュアリー会)の対応

3―DAV(ドイツ・アクチュアリー会)の対応

1|DAVの推奨
こうした状況下で、DAV(ドイツ・アクチュアリー会)は、2023年11月30日にポジション・ペーパーを公表1して、最高予定利率の水準を引き上げることを推奨した。

DAVは、2022年12月5日にも、最高予定利率水準に関する推奨を行っている2が、この時の推奨では、2024年においても最高予定利率水準を0.25%に維持することを主張し、この推奨をBMFとBaFinに提出していた。

今回のDAVの2023年の推奨では、この2年間の金利上昇環境を反映して、(2025年からの)1.00%への引き上げを主張している。これは、BMFが設定する上限金利が1994年以来初めて引き上げられることを意味している。

DAV会長のMax Happacher博士は、インフレ圧力は少なくとも中期的には継続すると予想されるとの観測から、「これは、2021年までの期間と比較して、中長期的に金利の上昇に反映されるだろう。現時点では長期国債利回りもECBのインフレ目標である2.0%を上回る水準にとどまると考えられる。」と述べている。

また、DAVは、現在のモデル結果と経済見通しを考慮すると、新契約に対して提案されている最高予定利率が中期的に安定的に維持できると想定される、と述べている。
2|DAVの最高予定利率の設定方法
以前の保険年金フォーカス「ドイツの責任準備金評価用最高予定利率を巡る最近の動き-DAV(ドイツ・アクチュアリー会)が0.9%から0.25%への引き下げを推奨-」(2021.2.12)で説明したように、DAVが推奨する最高予定利率の設定方法については、2019年の推奨から、以下の通りとなっている。

(1) 生命保険会社の将来の現実的に達成可能なリターンを考慮
DAVは、2019年の推奨から、変化する状況を考慮してその方法論を適応させている。過去においては、推奨金利は、主に欧州のAAA格付け国債の過去の利回りに基づくものだったが、現在のDAV勧告は、資本市場で新たに締結される契約について、生命保険会社の将来の現実的に達成可能なリターンを考慮に入れている。

(2) 保守的な投資戦略を持つ生命保険会社の代表的な新しい投資ポートフォリオをモデル化
これを計算するために、保守的な投資戦略を持つ生命保険会社の代表的な新しい投資ポートフォリオがモデル化されている。これは基本的に、国債、政府保証債、担保付債券、社債、及び株式や不動産などのバリュー株のごく一部で構成されている。

(3) 将来の5年間の平均リターンの予測に対して、40%の割引を適用
様々な金利の動向を想定して、この投資ポートフォリオから得られる平均リターンは将来に向けて予測される。平滑化の目的で、これらのリターンの算術平均が5年間にわたって計算される。

さらに、「欧州の保険監督制度であるソルベンシーIIが導入されるまで、立法者の要求に応じて、安全バッファーとして40%の割引が含まれていた。」ことから、最高予定利率に関するこの要件が適用されなくなった場合でも、DAVは分析でこの安全割引を引き続き適用している。

(4) 少なくとも0.4%ポイントの安全割引を適用
十分な安全性水準を確保するために、低金利の段階でも安全割引は常に少なくとも0.4%ポイントでなければならない。
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中村 亮一

研究・専門分野

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