2024年02月05日

半導体の国内製造強化方針に伴い製造業の建設支出が大幅増加

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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米国では大幅な金融引締めに伴う長期金利上昇などの逆風にもかかわらず、製造業関連施設の建設支出が大幅に増加している。
 
図表1:実質製造業建設支出
図表1は民間建設支出のうち、実質ベースで製造業関連の建設支出1(項目別)を示している。実質製造業建設支出は2021年12月の1,000億ドルから23年11月が2,063億ドルと倍増した。項目別の内訳をみると全項目で増加しているものの、とりわけ、コンピューター・電気・電子関連が同期間で236億ドルから1,141億ドルに急増して全体を押し上げたことが分かる。これまで建設支出に占める同項目のシェアは低かったことから、2022年以降の増加が際立っている。
 
2022年以降にコンピューター・電気・電子関連の建設支出が急増した要因として、半導体の国内製造強化を目指す米国の産業政策が奏功し、半導体関連施設の建設支出が大幅に増加したことが指摘されている。米国では近年の米中対立を背景として経済安全保障分野において半導体が戦略物資として認識されており、2020年から巨額の補助金を活用した半導体の国内製造強化策が検討されてきた。
 
この結果、米連邦議会は半導体の製造設備に対する投資インセンティブとして、対象事業者に1件当たり原則として最大30億ドルの補助金を支給する枠組みを盛り込んだCHIPS for Americaを2021会計年度国防授権法(NDAA2021)の一部として2021年1月に成立させた。また、CHIPS for Americaで規定された補助金を支給するための予算手当を行うために半導体分野に5年間で527億ドルの拠出を盛り込んだCHIPS and Science ACT(CHIPSと科学法)を
2022年8月に成立させた。同法では前記の補助金の財源として390億ドルが確保された。
 
実際に、これらの産業政策は半導体関連企業の意思決定に大きな影響を与えている。世界最大の半導体メーカーである台湾のTSMCは2020年5月にアリゾナ州で120億ドルを投じて最先端の半導体工場を建設する計画を発表したが、決定の決め手となったのが巨額の補助金を前提としたトランプ前政権の積極的な誘致とされている。
 
図表2:今後10年間の主要な半導体関連投資計画(2020年5月~2023年12月発表分)
さらに、TSMC以外にも多くの半導体関連企業が積極的な投資計画を発表している。図表2は米国の半導体工業会(SIA)が集計している2020年5月から2023年10月にかけて発表された今後10年間の半導体関連投資計画のうち、投資金額が100億ドルを超えるものをまとめている2。TSMCが2022年12月に新たに第2工場として追加で280億ドルの投資を発表し総額400億ドルとしたほか、テキサス・インスツルメンツ、インテル、マイクロン、サムスン電子などが新工場建設に100億ドルを超える投資計画を発表している。
 
また、SIAによれば、図表2以外にも新設工場に加え、既存工場の拡張や半導体チップの製造に使用される材料や製造装置を供給する施設、研究開発拠点の建設など70を超える新規の半導体関連の計画が発表されており、国内製造能力増強の民間投資は22州で2,200億ドルに達していることが示されている。
 
これらの半導体関連投資計画の一部では既に工場建設が開始されており、早ければ2024年末にも生産が開始される予定になっているが、TSMCの第2工場をはじめ多くの投資計画はこれから建設が本格化するため、今後も数年間は、半導体関連主導で製造業建設の堅調な状況が見込まれる。
 
 
1 名目ベースの民間部門の建設支出(季調済)を生産者物価指数の建設中間需要素材・部品価格を用いて実質化したもの。2022年基準米ドル。
2 投資金額順。NY CREATESはニューヨーク州に価値の高いハイテク企業を成長させるための研究開発、イノベーションハブ、商業化ファシリテーター。IBM、マイクロン、アプライドマテリアルズ、東京エレクトロンがパートナー。
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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2024年02月05日「ニッセイ年金ストラテジー」)

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