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- ECB政策理事会-金利据え置きを決定、利下げ議論は時期尚早
2024年01月26日
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1.結果の概要:政策金利の据え置きを決定
1月25日、欧州中央銀行(ECB:European Central Bank)は政策理事会を開催し、金融政策について決定した。概要は以下の通り。
【金融政策決定内容】
・政策金利の据え置きを決定
【記者会見での発言(趣旨)】
・利下げ議論は時期尚早というのが理事会のコンセンサス
・経済に関する新しいデータは、総じて12月に示した中期的な見通しをほぼ辿っている
2.金融政策の評価:利下げ議論は時期尚早が理事会コンセンサス
ECBは今回の会合で、市場予想通りとなる3会合連続での政策金利の据え置きを決定した。
質疑応答では、ラガルド総裁がダボス会議において、夏の利下げの可能性に言及したことから、夏より前の利下げも含めてその時期を探る質問が多かった。また、ECBが注視する賃金データに関する質問もいくつか見られた。
ラガルド総裁は、利下げ議論は時期尚早というのが理事会のコンセンサスであり、データの動向を見つつ、会合毎に決定するという原則は不変であるとの見解を強調している。また、夏の利下げは否定しなかったが、フォワードガイダンスではないと念押ししている。賃金データについては、今後数か月で多くの情報が得られることに言及し、それまでは情報が十分に揃わないことも示唆した。市場では4月会合までの利下げを予想する参加者もいるが、早期利下げ期待をけん制する内容が多かった。
ただし、ユーロ圏では実際のインフレ率が大きく低下しており、ECBも、直近12月のインフレデータが予想よりも弱かったと評価した。また、先物価格を前提にすれば、物価が下振れるリスクがあるとも言及している。ECB自身は前回理事会以降のデータは、総じて見れば、12月にしめした中期的な見通しに沿っていると評価しているが、今後も見通しよりも弱いインフレデータが続くようであれば、早期の利下げ期待が根強く残る可能性もあるだろう。
質疑応答では、ラガルド総裁がダボス会議において、夏の利下げの可能性に言及したことから、夏より前の利下げも含めてその時期を探る質問が多かった。また、ECBが注視する賃金データに関する質問もいくつか見られた。
ラガルド総裁は、利下げ議論は時期尚早というのが理事会のコンセンサスであり、データの動向を見つつ、会合毎に決定するという原則は不変であるとの見解を強調している。また、夏の利下げは否定しなかったが、フォワードガイダンスではないと念押ししている。賃金データについては、今後数か月で多くの情報が得られることに言及し、それまでは情報が十分に揃わないことも示唆した。市場では4月会合までの利下げを予想する参加者もいるが、早期利下げ期待をけん制する内容が多かった。
ただし、ユーロ圏では実際のインフレ率が大きく低下しており、ECBも、直近12月のインフレデータが予想よりも弱かったと評価した。また、先物価格を前提にすれば、物価が下振れるリスクがあるとも言及している。ECB自身は前回理事会以降のデータは、総じて見れば、12月にしめした中期的な見通しに沿っていると評価しているが、今後も見通しよりも弱いインフレデータが続くようであれば、早期の利下げ期待が根強く残る可能性もあるだろう。
3.声明の概要(金融政策の方針)
今回の政策理事会で発表された声明は以下の通り。
(政策金利、フォワードガイダンス)
(資産購入プログラム:APP、パンデミック緊急資産購入プログラム:PEPP)
(資金供給オペ)
(その他)
- 理事会は、本日、3つの主要な政策金利を据え置くことを決定した
- 最新情報は総じて、前回の中期的なインフレ見通しの評価を裏付けるものとなった
- エネルギー関連のベース効果による押し上げを除けば、基調的インフレ率の低下傾向は継続しており、過去の利上げは引き続き資金調達環境へ強力に伝達されている(経済へ(to the economy)から資金調達環境へ(into financing conditions)に修正)
- 資金調達環境の引き締まりは需要を抑制し、インフレ率の押し下げに寄与している
- 理事会は、確実にインフレ率を速やかに中期的に2%という目標に戻すと決意している
- 現在の評価に基づき、理事会は3つの主要な政策金利が、これが十分に長い期間続けば、インフレ率が目標達成に重要な貢献をする水準にあると考えている
- 理事会の将来の決定について、政策金利が必要とされる期間にわたり十分に制限的な水準に設定されるよう保証する
- 理事会は、制限的な水準と期間に関して適切に決定するため、引き続きデータ依存のアプローチを続ける
- 特に、理事会の金利決定は、最新の経済・金融データに照らしたインフレ見通しの評価、基調的なインフレの動向、金融政策の伝達状況によって決定する
(政策金利、フォワードガイダンス)
- 政策金利の維持(変更なし)
- 主要リファイナンスオペ(MRO)金利:4.50%
- 限界貸出ファシリティ金利:4.75%
- 預金ファシリティ金利:4.00%
(資産購入プログラム:APP、パンデミック緊急資産購入プログラム:PEPP)
- APPの元本償還分の再投資(変更なし)
- APP残高は償還分を再投資しておらず、秩序だった予測可能なペース(measured and predictable pace)で削減している
- PEPP元本償還分の再投資実施(変更なし)
- 理事会は、PEPPの元本償還について、24年上半期は全額の再投資を続ける
- 24年下半期にはPEPP保有残高を月額平均75億ユーロ削減する予定である
- 理事会はPEPPの再投資を24年末で終了する予定である
- PEPP償還再投資の柔軟性について(変更なし)
- 理事会は引き続きPEPPの償還再投資について、コロナ禍に関する金融政策の伝達機能へのリスクに対抗する観点から、柔軟性を持って実施する
(資金供給オペ)
- 流動性供給策の監視(変更なし)
- 銀行が貸出条件付長期資金供給オペ下での借入額の返済を行うなか、理事会は条件付貸出オペと現在実施されているその返済が金融政策姿勢にどのように貢献しているかを定期的に評価する
(その他)
- 金融政策のスタンスとTPIについて(変更なし)
- インフレが2%の中期目標に戻り、金融政策の円滑な伝達機能が維持されるよう、すべての手段を調整する準備がある
- 加えて、伝達保護措置(TPI)は、ユーロ圏加盟国に対する金融政策伝達への深刻な脅威となる不当で(unwarranted)、無秩序な(disorderly)市場変動に対抗するために利用可能であり、理事会の物価安定責務の達成をより効果的にするだろう
4.記者会見の概要
政策理事会後の記者会見における主な内容は以下の通り。
(冒頭説明)
(経済活動)
(インフレ)
(冒頭説明)
- (声明文冒頭に記載の利上げとスタッフ見通しへの言及)
- 経済とインフレ率の状況をどう見ているかの詳細と金融・通貨環境への評価について述べたい
(経済活動)
- ユーロ圏経済は23年10-12月期には停滞したと見られる
- 最新情報には、引き続き短期的な弱さの兆候がある
- しかしながら、いくつかの将来に関する調査指標は先行きの改善を示している
- 労働市場は引き続き堅調である
- 失業率は11月に6.4%とユーロ発足以来の最低水準に低下し、より多くの労働者が労働市場に参入している
- 同時に労働需要は低下しており、求人数が減少している
- 政府は、引き続き中期的なインフレ圧力が加速しないようエネルギー関連支援策を終了させるべきである
- 財政政策、構造政策は我々の経済をより生産的にし、競争力を向上させ、高い公的債務を段階的に削減させるように計画されるべきである
- ユーロ圏の供給能力を強化させる、次世代EUプログラムの完全な実行によっても支えられている構造改革や投資は、中期的な物価上昇圧力の削減に寄与するとともに、グリーンやデジタルへの移行を支援するだろう
- EUの経済統治枠組み(economic governance framework)の改革に関連し、最近のECOFINによる合意に続き、遅延なく新しい規則が実施されるよう、立法手続きを迅速に完了させるべきである
- 加えて、資本市場同盟へ向けた進展や銀行同盟の完了が加速されるべきである
(インフレ)
- インフレ率は12月に、前年比で過去のエネルギー価格上昇の影響を和らげるための財政政策が見て終了したことで2.9%まで上昇したが、上昇は予想よりも弱かった
- ベース効果を除くと、総じてインフレ率の低下基調は続いている
- 食料インフレは12月に6.1%まで低下した
- 財インフレが2.5%まで低下したことを受けて、エネルギーと食料品を除くインフレ率は3.4%まで低下した
- サービスインフレは4.0%で横ばいだった
- インフレ率は過去のエネルギーショック、供給のボトルネック、コロナ禍後の経済再開といった効果が解消し、金融引き締めが需要の重しになるため、今年はさらに鎮静化すると見られる
- ほとんどすべての基調的なインフレ率は12月にさらに低下した
- 賃金上昇率の高さと労働生産性の低下によって域内価格圧力の高さが維持されているものの、これも緩和され始めた
- 同時に単位利益の低下が単位労働コスト上昇のインフレへの影響を緩和しはじめている
- 短期のインフレ期待の指標は大幅に低下しているが、長期のインフレ期待については概ね2%近くにある
(リスク評価)
(金融・通貨環境)
(結論)
- 成長率に対するリスクは引き続き下方に傾いている
- 金融政策の効果が予想以上に強く生じれば成長率が低下する可能性がある
- 世界経済のさらなる低迷や世界貿易の更なる減速もまた成長率の重しになり得る
- ロシアの正当化されないウクライナとの戦争、および中東での悲劇的な紛争は地政学的リスクの主要要因である
- これは企業や家計の将来への景況感を低下させ、また世界的な貿易が混乱することで、成長率がさらに鈍化するかもしれない
- 実質所得の上昇が予想以上に支出を増加させること、世界経済が予想以上に強く成長することが成長率を押し上げる可能性がある
- インフレ率の上方リスクには、特に中東における地政学的緊張の高まりがエネルギー価格や運送費用を短期的に上昇させ、世界貿易を妨害させることが含まれる
- インフレ率はまた、賃金が予想以上に上昇し、利益率がより強固になることで押し上げられる可能性がある
- 対照的に、インフレ率は金融政策が予想以上に需要を低下させること、もしくは、予想外に世界経済が悪化することで低下する可能性がある
- 加えて、市場が予想する石油・ガスの将来価格が低下しているため、インフレ率は、エネルギー価格がこれらの動きに沿えば、より早く低下する可能性がある
(金融・通貨環境)
- 市場金利は前回の会合以降、概ね横ばいで推移している
- 我々の金融引き締めは引き続き、広範囲の資金調達環境に強く伝達されている
- 貸出金利は、企業向けがやや低下して11月に5.2%となる一方、住宅ローン金利はさらに上昇して4.0%となった
- 最新の銀行貸出調査によれば、高い借入金利と投資計画や住宅購入の縮小に関連して、信用需要は10-12月期にさらに落ち込んだ
- 企業は家計に対する信用基準の厳格化がやや緩和したが、引き続き厳しく、銀行は彼らの顧客が直面するリスクに対して懸念している
- これらを背景に信用動向はいくぶん改善したが、総じて引き続き弱い
- 企業に対する貸出は、短期貸出の月次フローについては反発しており、前年と比較して10月に縮小した後に11月には停滞した
- 家計向け貸出は、前年比0.5%の弱い伸びだった
(結論)
- (声明文冒頭に記載の決定に再言及)
(2024年01月26日「経済・金融フラッシュ」)
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03-3512-1818
経歴
- 【職歴】
2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
2009年 日本経済研究センターへ派遣
2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
2014年 同、米国経済担当
2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
2020年 ニッセイ基礎研究所
2023年より現職
・SBIR(Small Business Innovation Research)制度に係る内閣府スタートアップ
アドバイザー(2024年4月~)
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 検定会員
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