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中国の不動産バブル-日本のバブル崩壊の経験だけで類推するのは危険
基礎研REPORT(冊子版)1月号[vol.322]
![](https://www.nli-research.co.jp/files/user/images/common/dummy_person.jpg?v=1705642362)
三尾 幸吉郎
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こうした中国不動産市場の現状はバブル崩壊に見舞われた1990年代の日本と似ている面がある。第一に住宅が一般庶民の手に届かない水準まで高騰したことである。東京都発行の「東京の土地」によれば、東京都区部の住宅価格は1989年に年間所得の15.8倍と高騰していたが、上海市の住宅価格も中国国家統計局が発表したデータを元に筆者が推計したところ年間所得の17.2倍(2019年)に達している。第二に政府が住宅高騰を止めるべく「総量規制」を導入したことである。日本政府は1990年に、中国政府は2021年にそれぞれ発動した。第三に増加傾向にあった住宅需要が減少に転じたことである。住宅主要取得層を25~49歳とした場合、その人口は日本では1980年代前半に、中国では2010年代後半にそれぞれピークアウト、1990年代の日本がそうだったように、現在の中国も住宅需要が減少し始めている。そして不動産デベロッパーが経営危機に陥っていることも共通している。
他方、日本のバブル崩壊とは違う面も少なからずある。第一に住宅価格の値動きである。当時の日本では大都市でも周辺都市でも一気に半値以下に急落したが、最近の中国で急落したのは地方都市で大都市(上海や北京など)の下落幅は小さい。その背景には中国政府による価格統制もあるが、当時の日本ほどレバレッジ投資をしていた一般法人・個人が多くないこともある。ちなみに当時の日本国債(10年)の金利は一時8%近くに達し、高金利で借りて不動産投資していた一般企業は本業が黒字なのに倒産、個人の自己破産も増えた。第二に株価の水準である。当時の日本では住宅価格に加えて株価もPER(株価収益率)で60倍を超える高値圏にあったが、中国の代表的株価指数である上海総合のPERは13倍前後と低迷、日本のように「ダブル崩壊」とはなりにくい。第三に銀行の不良債権処理状況である。当時の日本では「総量規制」を導入した直後に信用収縮が起き、それを契機に不良債権が増えていくこととなったが、中国では2020年以降3年連続で3兆元の不良債権を処理してきたため、銀行経営は苦しかったものの不良債権比率は1%台にとどまっている。第四に一人当たりGDPの水準の違いである。当時の日本は米国よりも一人当たりGDPが高い豊かな国だったが、現在の中国は米国の6分の1ほどと豊かになり切れていない。その半面、中国経済には国際的な価格競争力を伸ばす余地がまだ残っていると見ることもできる。
一方、中国には西側諸国と異なる商慣習があり、その特殊性に由来するリスクもある。不動産デベロッパーの負債構成を見ると、契約者から預かった前受金(購入代金)や、建設会社などに対する買掛金の多さが目立ち、借入金はそれほど多くないことが分かる。例えば、碧桂園のケースを見ると、借入金は1千5百億元余り(日本円換算で約3兆円)と少なくないものの、負債総額に占めるシェアは12%に過ぎず、前受金(44%)と買掛金(33%)の多さが目立つ。恒大集団も似たような負債構成となっている。したがって、経営危機に陥った不動産デベロッパーを放置すると、前受金を支払ったのにいつまで待っても住宅が建たない一般庶民の不安はつのり、財・サービスを提供したのに買掛金が現金化できない建設会社の不安も払拭されず、経済活動を停滞させてしまう。中国政府は「保交楼(不動産の引き渡し保証)」と呼ばれる政策を推進して、社会不安の解消に尽力している。しかし、債務超過の不動産デベロッパーがそれを完遂できるかは予断を許さない。いずれ経営危機から抜け出せない不動産デベロッパーから資産(建設中の物件など)と負債(前受金や買掛金など)をセットで引き継ぐ「受け皿会社」を設けるなど、外科手術が必要となる時期が来るだろう。
このように中国における不動産不況には日本のバブル崩壊と似た面があるものの、違う面も少なからずあり、西側先進国と異なる商慣習に起因するリスクもあることから、日本のバブル崩壊の経験に基づいて類推するのは危険だ。SNS普及で自ら情報を収集する時代になっただけに、自らの思い込みを正当化する情報だけでなく、それに反する情報も吟味するよう心掛けたいと思う。
(2024年01月11日「基礎研マンスリー」)
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