2023年12月13日

ASEANの貿易統計(12月号)~10月の輸出は減少幅縮小、プラス転換が目前に

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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2023年10月のASEAN主要6カ国の輸出(ドル建て、通関ベース)1は前年同月比0.5%減(前月:同7.8%減)の1,301億ドルとなった。8カ月連続の前年割れだが、減少幅が大きく縮小した(図表1)。輸出の基調は昨年半ばまでコロナ禍からの経済活動の回復や商品市況の高止まりにより好調が続いたが、その後は欧米を中心とした外部環境の悪化や資源価格の軟化により増勢が鈍化し、昨年11月以降は前年比で減少傾向にある。輸出額は今年に入って底入れしており、今後は中国の景気回復の加速や米国の底堅い消費需要を背景に前年同月を上回るとみられるが、世界的な金融引き締めの影響も見込まれるため、輸出の持ち直しの動きは緩やかなものとなりそうだ。

ASEAN6カ国の仕向け地別の輸出動向を見ると、東アジア向けが同3.2%減(前月:同5.9%減)、東南アジア向けが同0.7%減(前月:同13.6%減)、北米向けが同3.9%減(前月:同6.2%減)、EU向けが同9.4%減(前月:同10.1%減)となり、それぞれ減少幅は縮小している(図表2)。
(図表1)アセアン主要6カ国の輸出額/(図表2)アセアン主要6ヵ国仕向け地別の輸出動向
ベトナムの10月の輸出額(通関ベース、確定値)は前年同月比5.7%増(前月:同2.1%増)の322億ドルとなり2カ月連続で前年同月を上回った(図表3)。輸出の基調は昨年後半から海外需要の鈍化や一次産品価格の下落により減少傾向にあるが、足元では電子部品の出荷が増えるなど持ち直しの動きがみられる。また輸入額も前年同月比6.0%増(前月:同0.3%増)の295億ドルとなり増加した。結果として貿易収支は+27.3億ドルの黒字となり、黒字幅は前月から5.3億ドル拡大した。

輸出を品目別にみると、輸出全体の約2割を占める電話機・同部品が前年同月比1.2%減(前月:同0.8%増)となり2ヵ月ぶりに減少したものの、コンピュータ、電子製品・同部品が同6.7%増(前月:同5.5%増)となり増勢が加速した(図表4)。アパレル関連については履物が同10.9%減(前月:同25.5%減)、織物・衣類が同5.6%減(前月:同6.2%減)とマイナス幅が縮小したものの減少した。農林水産物を見ると、コーヒー(同28.0%減)と水産物(同6.8%減)、天然ゴム(同6.3%減)が減少した一方、野菜(同99.8%増)やカシューナッツ(同37.1%増)、コメ(同19.4%増)が増加するなど、品目によってばらつきが見られた。

輸出を資本別に見ると、全体の7割を占める外資系企業が同2.4%増(前月:同1.2%減)となり、8ヵ月ぶりに増加した。また地場企業は同15.6%増(前月:同12.9%増)と2ヵ月連続の二桁増となった。
(図表3)ベトナムの貿易収支/(図表4)ベトナム輸出の伸び率(品目別)
タイの10月の輸出額(通関ベース)は前年同月比8.0%増(前月:同2.1%増)の235億ドルとなり、3ヵ月連続で増加した(図表5)。輸出の基調は昨年後半から海外需要の鈍化や一次産品価格の下落により減少傾向が続いたが、足元では中国向け輸出が回復して持ち直しの動きがみられる。また輸入額は前年同月比10.2%増(前月:同8.3%減)の244ドルとなり、8ヵ月ぶりの増加に転じた。結果として、貿易収支が▲8.3億ドルとなり、前月から29.3億ドル減少した。

輸出を品目別にみると、全体の約7割を占める工業製品が同4.0%増(前月:同1.7%減)と2ヵ月ぶりに増加した(図表6)。製造品の内訳を見ると、石油化学製品(同2.1%減)が減少したものの、自動車・部品(同7.6%増)と金属・鉄鋼(同3.3%増)、機械・装置(同3.2%増)、電子製品(同1.0%増)、家電製品(同0.4%増)がそれぞれ増加した。また鉱業・燃料は同60.7%増(前月:同14.6%増)となり、石油製品(同61.9%増)を中心に3ヵ月連続で増加した。このほか、農産物・同加工品は同7.1%増(前月:同7.7%増)と連続で増加した。農産物・同加工品の内訳をみると、天然ゴム(同5.4%減)やゴム製品(同23.1%減)は減少したものの、コメ(同37.7%増)とドリアン(同178.1%増)、加工食品(同2.4%増)など総じて増加した品目が多かった。
(図表5)タイの貿易収支/(図表6)タイ輸出の伸び率(品目別)
マレーシアの10月の輸出額(通関ベース、ドル換算)の伸び率は前年同月比5.4%減(前月:同16.3%減)の265億ドルとマイナス幅が縮小したものの、8カ月連続の前年割れとなった(図表7)。輸出の基調は昨年半ばまでコロナ禍で停滞した経済活動の再開や電気電子製品、石油ガス製品の需要拡大を追い風に増加してきたが、その後は世界的な需要減退と商品価格の下落により伸び悩み、年明けから減少傾向が続いている。また輸入額も前年同月比1.2%減(前月:同13.7%減)の238億ドルと減少した。結果として、貿易収支が+27.1億ドルの黒字となり、黒字幅は前月から27.1億ドル縮小した。

輸出を品目別にみると、全体の約4割を占める機械・輸送用機器は同1.8%減(前月:同8.4%減)と、主力の電気・電子製品(同3.3%減)を中心に3ヵ月連続で減少したが、マイナス幅は縮小した(図表8)。また鉱物性燃料は同25.6%減(前月:同36.8%減)となり大幅な減少が続いた。鉱物性燃料の内訳をみると、石油製品(同25.3%減)と天然ガス(同35.5%減)、原油(同23.1%減)が揃って減少した。このほか、コロナ特需が終息したゴム手袋(同11.9%減)や化学製品(同6.9%減)が低迷した一方、動植物性油脂(同1.1%増)は1年2ヵ月ぶりに増加した。
(図表7)マレーシア貿易収支/(図表8)マレーシア輸出の伸び率(品目別)
インドネシアの10月の輸出額(通関ベース)は前年同月比10.4%減(前月:同16.2%減)の221億ドルとなり、5ヵ月連続で減少した(図表9)。輸出は昨年後半から海外経済の減速や石炭およびパーム油などの主要商品価格の下落により鈍化し、今年3月から減少傾向が続いている。また輸入額も前年同月比2.4%減(前月:同12.5%減)の186億ドルとなり、5ヵ月連続で減少した。結果として、貿易収支が+34.8億ドルの黒字となり、黒字幅は前月から0.7億ドル拡大した。

輸出を品目別にみると、全体の9割を占める非石油ガス輸出は同11.4%減(前月:同17.7%減)、と大幅な減少が続く一方、石油ガス輸出は同6.6%増(前月:同11.6%増)と2カ月連続で増加した(図表10)。非石油ガス輸出では動植物性油脂(同30.0%減)や鉱産物(同21.9%減)、電気機械(同15.1%減)、機械(同11.7%減)、自動車同部品(同7.4%減)、織物類(同3.8%減)、プラスチック・ゴム製品(同2.6%減)など減少した品目が多かった。一方、鉄・鉄鋼製品(同6.6%増)と真珠・貴石・半貴石(同106.3%増)については増加した。
(図表9)インドネシア貿易収支/(図表10)インドネシア輸出の伸び率(品目別)
シンガポールの10月の輸出額(石油と再輸出除く、通関ベース、ドル換算)は前年同月比0.4%増(前月:同10.0%減)の108億ドルとなり、小幅に増加した(図表11)。輸出の基調は昨年後半から電子製品、非電子製品が振るわず減少が続いたが、10月は負のベース効果(前年の水準が高かったこと)が和らぎ1年2カ月ぶりに前年同月を上回った。

総輸出額は同6.9%増(前月:同9.6%減)の424億ドル、総輸入額が1.5%増(前月:同9.0%減)の379億ドルとなり、それぞれ増加した。結果として、貿易収支は+45.4億ドルの黒字となり、黒字幅は前月から5.1億ドル拡大した。

輸出(石油と再輸出除く)を品目別にみると、まず全体の約2割を占める電子製品は同1.9%減(前月:同8.3%減)と15カ月連続の減少となったが、マイナス幅は縮小した(図表12)。電子製品の内訳を見ると、PC(同25.6%増)とディスクメディア(同2.6%増)が増加した一方、主力のIC(同14.4%減)は大幅な減少が続いた。また全体の約3割を占める化学品は同6.1%増(前月:同16.6%減)となり6カ月ぶりに増加した。化学品の内訳を見ると、石油化学製品(同7.5%増)と医薬品(同6.1%増)がそれぞれ増加した。
(図表11)シンガポール貿易収支/(図表12)シンガポール輸出の伸び率(品目別)
フィリピンの10月の輸出額(通関ベース)は前年同月比17.5%減(前月:同6.3%減)の63億ドルとなり2ヵ月連続で減少した(図表13)。輸出の基調は今年5月以降、電子製品の出荷が底入れして上向きつつあるが、9~10月は前年同月の出荷が好調だったため減少幅が拡大している。また輸入額も前年同月比4.4%減(前月:同14.1%減)の105億ドルとなり12カ月連続の前年割れとなった。結果として、貿易収支は▲41.7億ドルの赤字となり、赤字幅が前月から5.9億ドル拡大した。

輸出シェア上位10品目をみると、まず輸出全体の6割近くを占める電子製品が同28.9%減(前月:同9.4%減)となり、減少幅が大きく拡大した(図表14)。電気製品の内訳を見ると、主力の半導体デバイス(同34.0%減)と電子データ処理機(同18.8%減)が揃って落ち込んだ。その他9品目については生鮮バナナ(同19.7%減)とココナッツオイル(同16.9%減)、その他鉱業品(同10.4%減)、機械・輸送用機器(同3.6%減)が減少した一方、精錬銅(同60.3%増)と化学品(同46.2%増)、その他製造品(同13.2%増)、イグニッションワイヤーセット(同8.6%増)、金属部品(同2.5%増)が増加するなど、総じて増加した品目が多かった。
(図表13)フィリピンの貿易収支/(図表14)フィリピン 輸出の伸び率(品目別)
 
1 シンガポールは地場輸出の値を用いて算出。
 
 

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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

(2023年12月13日「経済・金融フラッシュ」)

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