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2023年12月01日
(中心的なシナリオとリスク)
以上、来年の主な注目材料を取り上げてきたが、最後に主な材料と市場の行方について、中心的なシナリオを考えたい。その際、最も重要な材料は今年の市場を大きく左右した米国の経済・物価情勢と金融政策の行方となる。
これまで、米国経済は堅調な推移が続いてきたが、支えになってきたコロナ禍での強制貯蓄は既に枯渇しており、コロナ禍で猶予されてきた学生ローンの返済も10月から再開されている。既往の急速な利上げの効果も顕在化してくると考えられることから、今後の米経済は景気後退こそ避けられるものの減速に向かい、来年年初にかけて低迷すると予想される。来年春以降は、利下げの織り込みに伴って金融環境が緩和することもあって、景気が緩やかに持ち直すと見ている。
この間の物価上昇率は景気の減速などを通じて、緩やかな低下基調を辿り、FRBは春に利下げを開始、以降緩やかに利下げを継続すると見込んでいる(具体的な見通しは11頁の表に記載)。
日銀の金融政策については、来春闘での高めの賃上げ実現を確認したうえで、来年4月に正常化へ舵を切ると見ている(詳細は8頁に記載)。その際には、YCCの解除とともに、マイナス金利政策を撤廃し、無担保コールレート誘導目標を0~0.1%で復活すると予想している。
ただし、日銀が大幅な金利上昇を促すほど経済・物価について自信を強めることは想定しづらいため、あくまで極端な緩和策を取りやめる措置に留めるだろう。長期金利の上限目途(1.0%)や指値オペの枠組み、国債買入れは継続するとともにゼロ金利政策の継続を強調することで、市場金利の過度の上昇を抑えて緩和的な金融環境を継続させる役割を担わせると想定している。
以上、来年の主な注目材料を取り上げてきたが、最後に主な材料と市場の行方について、中心的なシナリオを考えたい。その際、最も重要な材料は今年の市場を大きく左右した米国の経済・物価情勢と金融政策の行方となる。
これまで、米国経済は堅調な推移が続いてきたが、支えになってきたコロナ禍での強制貯蓄は既に枯渇しており、コロナ禍で猶予されてきた学生ローンの返済も10月から再開されている。既往の急速な利上げの効果も顕在化してくると考えられることから、今後の米経済は景気後退こそ避けられるものの減速に向かい、来年年初にかけて低迷すると予想される。来年春以降は、利下げの織り込みに伴って金融環境が緩和することもあって、景気が緩やかに持ち直すと見ている。
この間の物価上昇率は景気の減速などを通じて、緩やかな低下基調を辿り、FRBは春に利下げを開始、以降緩やかに利下げを継続すると見込んでいる(具体的な見通しは11頁の表に記載)。
日銀の金融政策については、来春闘での高めの賃上げ実現を確認したうえで、来年4月に正常化へ舵を切ると見ている(詳細は8頁に記載)。その際には、YCCの解除とともに、マイナス金利政策を撤廃し、無担保コールレート誘導目標を0~0.1%で復活すると予想している。
ただし、日銀が大幅な金利上昇を促すほど経済・物価について自信を強めることは想定しづらいため、あくまで極端な緩和策を取りやめる措置に留めるだろう。長期金利の上限目途(1.0%)や指値オペの枠組み、国債買入れは継続するとともにゼロ金利政策の継続を強調することで、市場金利の過度の上昇を抑えて緩和的な金融環境を継続させる役割を担わせると想定している。

以上の想定を基に来年の相場展開を考えると、まず、日本の長期金利は来年春に日銀のYCC撤廃とマイナス金利政策解除に伴って上昇するものの、既述の通り、日銀は緩和的な金融環境を継続するために金利の抑制姿勢を続けるだろう。
さらに、後述の通り、FRBは来年春から段階的な利下げを開始するとみられ、米長期金利が低下に向かうことも、連動性の高い日本の長期金利にとって抑制材料となる。具体的な水準としては、一時的に1%を超える場面も想定されるものの、年末にかけて1%を若干下回る水準を中心に推移すると予想している(具体的な予測値は11頁の表に記載)。

ただし、FF金利先物市場では、足元において既に来年の利下げが4回強(1回当たり0.25%換算)も実施されることを前のめり的に織り込んでいるため(9月FOMCのドットチャートでは2回の利下げが示唆されていた)、当面はドルが高止まりしやすいだろう。一時的には揺り戻し的なドル高の発生もあり得る。その後、春に向けて利下げが現実味をもって市場で織り込まれていくことで、ドルが緩やかに下落していくイメージだ。利下げ開始後も先々の利下げを織り込む形で米長期金利の低下が進み、緩やかなドル安基調が続くと見ている。
なお、日銀が春に金融政策の正常化に舵を切ることも円高圧力になるものの、既述の通り、日銀は金利の抑制姿勢を続けると見られるため、影響は限定的になる。
これらの結果、来年末時点の水準は1ドル136円前後になると見込んでいる(具体的な予測値は11頁の表に記載)。
2.日銀金融政策(11月)

11月はもともと金融政策決定会合が予定されていない月であったため会合は開催されず、必然的に金融政策は現状維持となった。次回会合は、今月18日~19日にかけて開催される予定となっている。
なお、11月6日に植田総裁が名古屋市で講演を行い、国内の経済・物価情勢と日銀の金融政策運営について説明がなされた。内容は基本的に10月MPM(金融政策決定会合)後の総裁会見の内容を踏襲したもので、物価目標の達成に関しては、「現時点では、物価安定の目標の持続的・安定的な実現を十分な確度をもって見通せる状況には、なお至っていない」としつつも、「2%の物価安定の目標に向けた見通し実現の確度が少しずつ高まってきている」と改めて表明した。
そのうえで、今後、物価目標達成のカギとなる「賃金と物価の好循環が強まっていくか」の見極めのポイントして、「先行きも賃上げが続き、社会に定着していくか」と「企業が賃金等の上昇を念頭に置きながら販売価格を設定するスタンスが強まるか」という2点を挙げた。
講演後の質疑応答では、物価目標達成が見通せる時期やマイナス金利政策とYCCの撤廃順序について問われたが、植田総裁は10月MPM後と同様、具体的な言及を避けた。
その後、11月9日には、10月MPMにおける「主な意見」が公表された。
政策委員の意見として、「賃金と物価の好循環を通じた2%目標の達成には未だ距離があるため、金融緩和の継続を通じて賃上げのモメンタムを支え続けることが重要である」、「物価上昇を上回る賃上げが実現するかはまだ不透明であり、このタイミングでイールドカーブ・コントロールを修正すると、金融引き締めと受け止められる可能性がある」など、ハト派的な意見も依然として見受けられる。
しかしながら、「来年の賃上げ率は本年を上回る蓋然性が高い。物価安定の目標の実現が視野に入ってきた」、「2%の物価安定の目標の持続的・安定的な実現の確度は7月の会合時点と比べ一段と高まっている」、「金利の存在する世界への準備に向けた市場への情報発信を進めることが重要である」など、物価目標達成への自信を強めていることがうかがわれる発言が明らかに目立ってきている。
(今後の予想)
今後の金融政策について、植田日銀は物価目標の持続的・安定的達成への自信を強めつつあり、近い将来における大規模緩和の正常化を指向していることも明白だ。
問題はそれがいつかなのだが、しばらくはデータを見極める時間帯になる。来年4月には、完全ではないにせよ、来春闘での高めの賃上げ実現がデータとして確認できるため、そのタイミングで正常化へと舵を切ると見ている。
日銀は金融政策正常化の手順を明らかにしていないが、このタイミングで、YCCの解除(現在「ゼロ%程度」としている長期金利操作目標を取り下げ)とともに、マイナス金利政策を撤廃、無担保コールレート誘導目標を0~0.1%で復活すると予想している。
日銀による前向きな情報発信が最近増加している点、来春闘での賃上げが従来想定していたよりも進む可能性が高まってきた点を踏まえ、マイナス金利撤廃の予想時期を従来より1年前倒しした。
ただし、米経済は今後減速に向かい、来年4月の段階ではまだ十分な持ち直しが確認できていない可能性が高い。また、来春闘での賃上げがどれだけ物価に波及していくかにも不透明感が残っているだろう。物価上昇率が先行き2%から下振れするリスクも相応に高い。従って、正常化へと舵を切るものの、あくまで極端な緩和策を取りやめる措置に留めるだろう。長期金利の上限目途(1.0%)や指値オペの枠組み、国債買入れは継続するとともにゼロ金利政策の継続を強調することで、市場金利の過度の上昇を抑えて緩和的な金融環境を継続させる役割を担わせると想定している。
今後の金融政策について、植田日銀は物価目標の持続的・安定的達成への自信を強めつつあり、近い将来における大規模緩和の正常化を指向していることも明白だ。
問題はそれがいつかなのだが、しばらくはデータを見極める時間帯になる。来年4月には、完全ではないにせよ、来春闘での高めの賃上げ実現がデータとして確認できるため、そのタイミングで正常化へと舵を切ると見ている。
日銀は金融政策正常化の手順を明らかにしていないが、このタイミングで、YCCの解除(現在「ゼロ%程度」としている長期金利操作目標を取り下げ)とともに、マイナス金利政策を撤廃、無担保コールレート誘導目標を0~0.1%で復活すると予想している。
日銀による前向きな情報発信が最近増加している点、来春闘での賃上げが従来想定していたよりも進む可能性が高まってきた点を踏まえ、マイナス金利撤廃の予想時期を従来より1年前倒しした。
ただし、米経済は今後減速に向かい、来年4月の段階ではまだ十分な持ち直しが確認できていない可能性が高い。また、来春闘での賃上げがどれだけ物価に波及していくかにも不透明感が残っているだろう。物価上昇率が先行き2%から下振れするリスクも相応に高い。従って、正常化へと舵を切るものの、あくまで極端な緩和策を取りやめる措置に留めるだろう。長期金利の上限目途(1.0%)や指値オペの枠組み、国債買入れは継続するとともにゼロ金利政策の継続を強調することで、市場金利の過度の上昇を抑えて緩和的な金融環境を継続させる役割を担わせると想定している。
(2023年12月01日「Weekly エコノミスト・レター」)
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03-3512-1870
経歴
- ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
・ 2007年 日本経済研究センター派遣
・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
・ 2009年 ニッセイ基礎研究所
・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)
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