2023年11月24日

実質賃金上昇の罠-生産性格差のもとでインフレによって賃金を決定することの問題

大阪経済大学経済学部教授 ニッセイ基礎研究所 客員研究員 高橋 亘

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■要旨
 
日本経済では「インフレと賃金の好循環」が政策課題になっている。過去1年半、インフレを契機に賃金が上昇してきたものの、賃金上昇率がインフレ率に追いつかず実質賃金(名目賃金上昇/インフレ率)が下落を続けていることから、実質賃金の上昇が焦点となってきている。

先行きについては、来年度後半にはインフレのピークアウトから、賃金上昇率がインフレ率を上回り実質賃金が上昇に転じることが展望されているが、いまだ不確実である。

日銀は、賃金上昇が持続する下でインフレが安定的に2%を持続することを目指している。安定したインフレの下で実質賃金が持続的に上昇するためには、持続的な高付加価値化の実現や生産性の上昇が必要となる。しかし生産性の上昇などは産業セクター間や企業間では一律とはならない。このとき仮に経済全体でインフレ率に合わせて、生産性上昇の大きいセクターと同じように賃金を上昇させれば、いわゆる生産性格差インフレが生じて、インフレは加速し安定しない。賃金上昇とは、本来は各企業の業績に応じて決まるべきであるが、インフレと賃金の好循環を意識して、インフレ率のみを基準に一律に賃金上昇が行われればインフレは安定せず加速してしまう。業績に応じて決められるべき賃金を、インフレを基準に決定すると問題が生じてしまうのである。

以下では、生産性とインフレの関係を簡単な数値例でみていく

■目次

1――はじめに
2――インフレ率と賃金の悪循環
3――高付加価値化や生産性上昇により賃金上昇によってもインフレ率は安定
4――生産性格差がある場合の賃金上昇とインフレの加速
5――結語
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