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2024年度の年金額の見通しは2.6%増だが、2年連続の目減り (後編)-年金額改定の見通しと注目点
保険研究部 上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任 中嶋 邦夫
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2 ―― 2024年度改定の注目点:(1)増額改定、(2)実質目減り、(3)本来改定率が物価上昇率を下回る
第1のポイントは、今年の物価上昇を反映して、年金額が2年連続で増額される点である。2022年3月には、物価が上昇する中で2022年度の改定率が-0.4%となったことを背景に、与党から年金生活者等を対象にした5000円程度の「臨時特別給付金」の支給が提言され、結局は見送られた。高齢世帯の平均貯蓄額は2000万円程度(うち流動性のある預貯金が500万円程度)であることを考えれば全員一律に給付する必要性はそれほど高くなかったが6、4月以降の2%を超える物価上昇に家計は苦しんできた。約1年遅れにはなるが、2023年度と同様に物価上昇が年金額改定に織り込まれ、2年連続の増額改定となるのは、高齢世帯にとって朗報と言えよう。
6 総務省統計局「2019年全国家計構造調査」によると、65歳以上の無職の世帯員がいる世帯のうち65歳以上の夫婦のみの世帯の平均では、金融資産残高が1920万円、うち通貨性預貯金が473万円、となっている。
一方で、第2のポイントは年金額の実質的な価値が、2年連続で目減りする点である。前述した粗い見通しでは、前年(暦年)の物価上昇率が+3.1%、賃金上昇率(名目手取り賃金変動率)が+3.0%という状況下で、調整後の改定率は+2.6%にとどまる。名目の年金額は増えるものの、物価や賃金の伸びには追いついていないため、実質的な価値が目減りすることになる。
年金受給者にとって厳しい内容であると同時に、当年度の年金額は次年度以降の年金額のベースとなるため、この目減りは将来世代にも厳しい内容と言える。しかし、調整率(いわゆるマクロ経済スライド)という形で少子化や長寿化の影響を吸収して年金財政を健全化させ、将来世代の給付水準のさらなる低下を抑えることで世代間の不公平をなるべく縮小する、という制度の意義を理解して、受け入れる必要があろう。
第3のポイントは、マクロ経済スライドの調整率を差し引く前の本来の改定率が、物価上昇率(+3.1%)よりも低い賃金上昇率(+3.0%)になる点である。現在の制度では、67歳以下の本来の改定率は64歳までの賃金上昇を反映するために常に賃金上昇率が使われる一方で、68歳以上の本来の改定率は物価上昇率と賃金上昇率のいずれか低い方が使われる。このため、2024年度の見通しのように物価上昇率よりも賃金上昇率が低い状況では、67歳以下でも68歳以上でも、本来の改定率が物価の伸びに追いつかない形になる。
マクロ経済スライドの影響を除いても年金額の伸びが物価の伸びに追いつかないのは、公的年金が収入の大半を占める高齢層にとって厳しい仕組みと言える。しかし、このような経済状況では、現役世代も賃金の伸びが物価の伸びに追いつかない状況で生活している。つまり、現在の制度は、賃金の伸びが物価の伸びに追いつかない厳しい経済状況において、現役世代と高齢世代で同じ痛みを分かち合う形になっている、と言える。
3 ―― 総括:2年連続の目減りを機に、現役世代と高齢世代の相互理解を期待
現役世代は、少子化や長寿化が進む中で負担する保険料(率)が固定され、高齢世代が物価や賃金の伸びを下回る年金の伸びを受け入れることで将来の給付水準の低下が抑えられることに、思いをはせる必要があるだろう。一方で高齢世代は、これまでの物価や賃金の伸びが低い状況では年金財政の健全化に必要な調整が先送りされ、将来の給付水準のさらなる低下につながっていたことを理解する必要があるだろう。両者の相互理解が進むことを期待したい。
(2023年11月17日「基礎研レポート」)
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03-3512-1859
- 【職歴】
1995年 日本生命保険相互会社入社
2001年 日本経済研究センター(委託研究生)
2002年 ニッセイ基礎研究所(現在に至る)
(2007年 東洋大学大学院経済学研究科博士後期課程修了)
【社外委員等】
・厚生労働省 年金局 年金調査員 (2010~2011年度)
・参議院 厚生労働委員会調査室 客員調査員 (2011~2012年度)
・厚生労働省 ねんきん定期便・ねんきんネット・年金通帳等に関する検討会 委員 (2011年度)
・生命保険経営学会 編集委員 (2014年~)
・国家公務員共済組合連合会 資産運用委員会 委員 (2023年度~)
【加入団体等】
・生活経済学会、日本財政学会、ほか
・博士(経済学)
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