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2024年度の年金額の見通しは2.6%増だが、2年連続の目減り (後編)-年金額改定の見通しと注目点
保険研究部 上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任 中嶋 邦夫
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1 年金額の改定は、前年(1~12月)の物価上昇率が発表される日(原則として1月19日を含む週の金曜日)に公表される。
2 より詳しい仕組みや経緯は、拙稿「年金額改定の本来の意義は実質的な価値の維持」「将来世代の給付低下を抑えるため少子化や長寿化に合わせて調整」を参照。
1 ―― 2024年度の見通し:前年度比+2.6%の見通しだが、実質的には目減り
物価上昇率は、2024年度の改定に影響する2023年(暦年)の動向のうち、9月までは実績が判明している。1月は前年同月比で+4.3%だったが、2~9月は+3.2%前後で推移した(図表1左)。10-12月については、弊社の経済見通し(2022年9月8日公表版、四半期ごと)に沿って+2.5%で推移すると仮定した。これを平均した結果から、2023年(暦年)の物価上昇率を+3.1%と仮定する。
賃金上昇率は、年金額改定に用いられる賃金が年金保険料や年金額の計算に使う標準報酬であることに加え、性別や年齢構成等の変化による影響や厚生年金の適用拡大による影響を除去して上昇率が計算されるため、正確な把握が難しい。標準報酬の構成要素の大部分を占める標準報酬月額は、通常は4~6月の給与をもとに9月に定時改定される。2022年度の標準報酬月額(共済以外)の動向を見ると、定時改定前の4-8月は前年同月比+1.6%前後で推移したが、定時改定後の9月は前年が上昇だった影響で+1.3%に低下した。10月以降は、厚生年金の適用拡大で短時間労働者が加入したことにより、厚生年金加入者全体の上昇率は+0.8%前後で推移した。
しかし、前述したように、年金額の改定では適用拡大の影響は除去される。公表されている資料では2022年10月に拡大された影響を直接には把握できないが、2022年10月以前に厚生年金が適用されていた方も含む短時間労働者全体を除いて賃金上昇率を計算すると、4-9月は厚生年金加入者全体と近い水準で推移し、10月以降は+1.1%前後で推移した。この結果から、短時間労働者全体を除いた賃金上昇率を2022年10月の適用拡大の影響を除いた賃金上昇率とみなすこととした3。また、標準報酬のもう1つの構成要素である標準賞与(共済以外かつ短時間労働者以外)は、対象者数が特に多い6・7・12月の加重平均で前年同期比+3.3%となった(図表非掲載)。
この2要素(標準報酬月額(共済以外)と標準賞与(共済以外))以外に共済年金分や性年齢構成等の変化の除去も考慮する必要があるが、現時点の資料では把握できないため、ここでは前述の2要素から2022年度の標準報酬の変動率を+1.4%と仮定する4。この+1.4%は名目の変動率であるため、2022年(暦年)の物価上昇率+2.5%で実質化した-1.1%を、2022年度の実質標準報酬の変動率と仮定する。
3 短時間労働者を除いた厚生年金加入者数は、2022年9月の4068万人が同年10月には4086万人に増えている。この大幅な増加は、同年10月に厚生年金の対象となる個人事業所の業種に士業が追加された影響と考えられる。
4 2021年度末の厚生年金加入者4065万人のうち共済年金(公務員共済と私学共済)の加入者は472万人であるため、共済年金を考慮しなくても大きな影響は生じない。2021年度の実質賃金変動率は、この方法で計算した値が+1.4%、実績が+1.2%だった。
公的年金の加入者数(共済以外)は、2022年4月の前年比-0.4%から徐々に減少傾向が弱まり、10月には厚生年金の適用拡大が影響して増加に転じ5、3月には+0.4%に達し、年度平均では+0.1%となった(図表1右)。共済年金の状況は現時点の公表資料では把握できないため、2022年度の公的年金加入者数の変動率を+0.1%と仮定する。
5 適用拡大の対象者のうち、20~59歳は厚生年金適用前も公的年金加入者(国民年金加入者)に含まれているのが基本であるため、公的年金加入者の増加に影響するのは60歳以上が中心である。
まず、本来の改定率の計算過程を確認する(図表2の上段の2024年度の列)。物価変動率(図表2上段の①の列)は、前述した+3.1%(仮定)である。実質賃金変動率(図表2上段の②の列)は、4年度前(2020年度)が新型コロナ禍の影響で下落した-0.5%(実績)、3年度前(2021年度)がその反動で上昇した+1.4%(実績)、2年度前(2022年度)が前述した-1.1%(仮定)であるため、3年平均は-0.1%となった。3年平均を使うことで、急激な変動が回避されている。可処分所得割合変化率は2017年に保険料の引上げが終わりゼロ%であるため、本来の改定率の指標となる賃金上昇率(名目手取り賃金変動率)は、物価変動率と実質賃金変動率を合計した(厳密には掛け合わせた)+3.0%となる。
本来の改定率は、法定されたルールに従い、67歳以下(厳密には67歳到達年度まで)は賃金上昇率の+3.0%、68歳以上(厳密には68歳到達年度から)は賃金上昇率(+3.0%)と物価上昇率(+3.1%)のうち低い方である+3.0%となり、67歳以下も68歳以上も同じ値となる(図表2上段の④の列)。
次に、年金財政健全化のための調整率(いわゆるマクロ経済スライド)を確認する(図表2の下段の2024年度の列)。当年度分の調整率は、公的年金加入者数の変動率から高齢世代の余命の伸びを勘案した率(0.3%)を差し引いた(厳密には掛け合わせた)率となっている。公的年金加入者数の変動率(図表2下段の⑤の列)は、4年度前(2020年度)は0.0%(推計した実績)、3年度前(2021年度)は-0.3%(推計した実績)、2年度前(2022年度)が前述した+0.1%(仮定)であるため、3年度の平均は-0.1%となる。ここから、長寿化に対応するために高齢世代の余命の伸びを勘案した一定率(0.3%)を差し引いた-0.4%が、2024年度の当年度分の調整率となる。前年度からの繰越分(図表2下段の⑦の列)はゼロ%(67歳まで/68歳からとも)であるため、当年度分の-0.4%が2024年度に適用すべき調整率となる。
実際に適用される改定率は、本来の改定率に、年金財政健全化のための調整率(いわゆるマクロ経済スライド)が図表3の特例ルールを考慮した上で適用されて決まる(図表4)。2023年度の改定率における調整の適用は、67歳まで/68歳からともに本来の改定率が適用すべき調整率(の絶対値)を上回っているため、適用すべき調整率がすべて適用される(図表3の原則に該当)。この結果、実際の年金額に反映される調整後の改定率は67歳以下と68歳以上の双方で+2.6%となり、翌年度へ繰り越す調整率は67歳以下と68歳以上の双方でゼロ%となる(図表2下段の最右列)。
(2023年11月17日「基礎研レポート」)
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03-3512-1859
- 【職歴】
1995年 日本生命保険相互会社入社
2001年 日本経済研究センター(委託研究生)
2002年 ニッセイ基礎研究所(現在に至る)
(2007年 東洋大学大学院経済学研究科博士後期課程修了)
【社外委員等】
・厚生労働省 年金局 年金調査員 (2010~2011年度)
・参議院 厚生労働委員会調査室 客員調査員 (2011~2012年度)
・厚生労働省 ねんきん定期便・ねんきんネット・年金通帳等に関する検討会 委員 (2011年度)
・生命保険経営学会 編集委員 (2014年~)
・国家公務員共済組合連合会 資産運用委員会 委員 (2023年度~)
【加入団体等】
・生活経済学会、日本財政学会、ほか
・博士(経済学)
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日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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