2023年11月09日

米国におけるAM(合算法)の開発を巡る状況-2023年9月の暫定AMの概要報告等-

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1―はじめに

米国におけるグループ資本規制に関しては、NAIC(全米保険監督官協会)とFRB(連邦制度準備理事会)が、国内及び国際的なその他の関係する管轄区域と協力して、AM(合算法)を開発している。米国は、AMが、IAIGs(国際的に活動する保険グループ)に対して適用するためにIAIS(保険監督者国際機構)が開発しているICS (保険資本基準)と同等の結果を生み出す代替手法となることを目指している。

このAMの具体的内容については、これまでも2020年にレベル1のドキュメント1がリリースされる等してきたが、今一つ一般的に衆知のものとはなってこなかったように思われる。今回、NAICは、2023年9月に、暫定AMに関する資料2を公表して、(1)AMアプローチの原則、(1)IAISの同等性評価においてICS候補との比較の基礎となる暫定AM、(3)AMの2終化に向けての計画されたステップ、について説明している。

今回のレポートでは、この資料に基づいて、AMの開発状況について報告するとともに、併せて、それに対する各種団体の反応等について報告する。

2―AM開発に関するこれまでの経緯

2―AM開発に関するこれまでの経緯

2017年11月のクアラルンプールにおけるIAIS会合で、IAISは、年次AMデータ収集を通じて、米国及び他の関心のある管轄区域におけるAMの開発を支援するために、グループ全体の監督当局(GWS)の選択により、米国を拠点とするIAIGs及び他の意欲的な管轄区域/ボランティアからデータを収集することに合意した(クアラルンプール合意)。そうすることで、IAIS は、モニタリング期間終了時までに、AM がICSと同等な、すなわち実質的に同じ結果をもたらすかどうかを評価し、もしそうであれば、AMがPCR(規定資本要件)としてICSを実施するための結果同等のアプローチとみなされることになる。

2019年11月のIAIS会合で、IAISは同等な結果の定義と、ハイレベル原則(HLP)及び基準の策定の指針となる包括的アプローチに合意した。IAISはまた、この会合で、2020年から2024年までの5年間のモニタリング期間に移行し、その間、グループ全体の監督当局の裁量でAMの任意報告を認めることに合意した。その結果、ワークプランに、「同等性評価の作業をサポートするため、毎年AMのデータ収集が行われる予定であり、そのタイミングはICSの秘密報告と同様となる」と規定された。

2023年3月、IAISは同等性評価に用いる最終的なHLPと基準を公表3した。これらは、「AMがグループ資本を測定するためのICSと結果同等のアプローチとして、当初から排除されるものでも、フリーパスが与えられるものでもない」ことを確実にするため、2回の協議を含む慎重なプロセスを経て策定された。2023年のAMデータ収集パッケージには、同等性評価に関連するデータを報告するための更新されたスケジュールが含まれた。同等性評価の結果は2024年に発表される予定となっている。

なお、AMのデータ収集については、2018年に開始されて以来、現在は6年目を迎えており、これは5カ国からの21グループを含むように拡大してきている。米国の全てのIAIGsが参加し、米国の非IAIGsのボランティアグループも含まれている、とのことである。

3―AMの設計原則

3―AMの設計原則

1|概要
AMは、各法人のソルベンシーを確保するために設計された実績のある資本制度に基づいて構築されている。そのため、AMはグループ資本についてのレンズを提供し、監督当局がグループレベルでの資本金額を分析、特定し、対処することを可能にする。また、現地(ローカル)法人レベルで欠陥が存在する可能性がある場合も同様である。各法人が保有する資本リソースに関する情報は、法人レベルの報告から得られる。グループの資本リソースと要件は、法人レベルの報告の集計から得られる。
2|AM概念の指針
・企業構造に影響を受けない:グループ内の法人のポジション及び/又はグループ内取引は、グループレベルの結果に影響を与えない。

・適切な資本制度の反映:既存の資本制度の下での保険/金融事業体に対する差別化された取扱いと、非保険事業体に対する適切な代替案の適用。これは 、既存のソルベンシー枠組みとリスクに対する国・地域ごとに最適なアプローチを活用するものである。

・透明性:リスクがどこに存在し、資本がどこに保有されているかを明確に把握できる。グループ内の法人レベルでのリスク評価のための情報を監督当局に提供する。

・比較可能性:グループレベルの実績は、事業体の実績のスケーリングを通じて、比較可能なリスクレベルを反映している。
3|AMの構成要素
AMの計算には、以下の5つの構成要素がある。

・インベントリー及びグループ財務
・調整
・自己資本規制
・資本リソース
・集計
4|AMの開発
これらの原則とAMデータ収集からの情報を用いて、米国と他の関係管轄区域は、IAISの同等性評価における、ICS候補との比較の基礎となる暫定AMを開発した。AMの最終版は暫定AMと同じ設計に従うが、最終的には、年次データ収集のさらなる分析と同等性評価の結果に基づいて、一部のパラメーター(特にスカラー)が変更される可能性がある。また、収集したデータを用いて様々なパラメータを適用し、AMのバックテストを行うことも可能となる。

ComFrame(国際的に活動する保険グループのための共通の枠組み)に導入される場合、グループ全体の監督当局に対するIAIGの資本報告、及びその内容、粒度、頻度を含む公表要件は、AMの最終版にも適用される。実施された資本基準の結果(テンプレート、利用可能資本、必要資本を含むが、これらに限定されない)は、グループ全体の監督当局に報告される。資本基準の文書化(仕様、テンプレート、尺度など)は公表され、適宜更新される。

4―暫定AMの具体的内容-5つの構成要素の概要

4―暫定AMの具体的内容-5つの構成要素の概要

暫定AMの5つの構成要素の概要を説明する。

1|インベントリーとグループ財務
(1)範囲
AMの出発点は、連結持株会社又は相互保険会社の場合は支配的保険会社である。定義された保険(又は金融)グループ内の全ての事業体が含まれる。これは、ICS 候補の算定範囲と整合的であり、IAISのICP(保険基本原則)23 「グループ全体の監督」とも整合的である。

AMは、法定(又は現地)事業体レベルの規制報告に基づいている。

殆どの法人は個別に報告されるが、簡素化のため、特定の法人をグループ化又は「スタック(積み重ねる、まとめる)」することができる。

報告された各事業体は、IAIG によって事業体区分にマッピングされる。事業体区分は、集計前に事業体をグループ化するために使用される。事業体区分内の各事業体は、同じ方法でAM必要資本を決定される。非規制対象及び規制対象の事業体区分がある(ここでいう「規制対象」とは、資本要件の対象となる事業体を意味する)。規制対象事業体の場合、事業体区分は特定の資本制度に対応している。非規制対象事業体は、「非保険持株会社」、「アセットマネジメント」、「その他非保険/非金融」、「その他金融」などの区分にマッピングされ、AMの仕様に従って必要資本を計算する。

事業体のカテゴリは53ある。これによれば、米国の保険会社は、RBCファイリング対象(生命保険、損害保険、健康保険)とRBCファイリング非対象の4区分、EUと英国の保険会社は、ソルベンシーII対象で、それぞれ生命保険と損害保険の2区分、日本の保険会社は、生命保険、健康保険、損害保険の3区分となっている。

(2)現地の評価、資本リソース、資本要件の使用
利用可能資本は、企業の種類に応じて、現地のGAAP又は現地の資本制度に基づいて、各企業について報告される。AMの下では、グループ又は連結の貸借対照表は報告されない。

非規制対象事業体については、利用可能資本は現地GAAP報告に基づいている。

規制対象事業体については、未調整利用可能資本及び未調整必要資本は、関連する現地の資本制度に基づく報告金額となる。現地の未調整利用可能資本は、現地の資本制度が要求する全ての除外と調整を反映する。現地の未調整必要資本は、PCRの介入レベル又はそれに最も近い同等レベルとする(例えば、PCRは、EUの子会社では、ソルベンシーIIのSCRの100%、日本の子会社ではソルベンシー・マージン比率200%)。
2|調整
事業体が集計される前に、報告された利用可能資本及び必要資本の数値が調整され、ダブルカウントが削除される。調整後、事業体の利用可能資本及び必要資本は、子会社の資本及びリスクではなく、自身の資本及びリスクのみを反映する。
3|自己資本規制
AMの必要資本は、グループレベルで集計されたリスクを反映している。AMは、管轄区域分析のための別のレベルの粒度を提供するグループの範囲内の各事業体からの必要資本の貢献も提供する。リスクのグループレベルの内訳は、事業体の種類(例えば、事業体区分、地域別事業体)別である。

(1)エクスポージャー
総必要資本に対する各法人の寄与度は、特定のエクスポージャー尺度を乗じた係数に等しい。エクスポージャー尺度は、事業体区分ごとに指定される。それぞれの区分内の全ての事業体は、同じ係数とエクスポージャー尺度を使用する。規制された金融機関(銀行及び保険を含む)の場合、エクスポージャー尺度は現地の必要資本(ダブルカウントの調整後、指定されたPCR相当の介入レベル)である。これらの規制対象事業体では、係数は 「スカラー」 と呼ばれる。

(2)分散効果、代替性
AMは、現地資本要件に既に含まれている分散効果を反映している。AMは、異なる法人間でのさらなる分散効果を認めないため、グループ内の資本代替性の制限を認識している。

(3)スカラー方法論
暫定AMは、ダブルカウント以外の追加調整なしのPCR(又は同等) レベルでの現地資本要件という、スケーリングされていない方法論を使用している(即ち、全てのスカラーは100%)。

異なるスカラー方法論が同様の兆候をもたらすことがある。たとえば、AMデータ収集によれば、暫定AMの結果は、「99.5% Value at Riskスカラー方法論」からの結果と類似している。多くの追加のスカラー方法論オプションが分析されている。最終的なAMに実装されるスカラー方法論は、テストされた方法論のいずれか、又は検討中のオプションの範囲内にある組み合わせ/バリエーションのいずれかになる。
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中村 亮一

研究・専門分野

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