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- ECB政策理事会-予想通り政策金利の据え置きを決定
2023年10月27日
1.結果の概要:金利据え置きを決定
10月27日、欧州中央銀行(ECB:European Central Bank)は政策理事会を開催し、金融政策について決定した。概要は以下の通り。
【金融政策決定内容】
・変更なし
【記者会見での発言(趣旨)】
・今回の会合ではPEPP、最低準備への付利に関する議論はしていない
・政策金利がピークに達したと判断するつもりはない(データ次第である)
・今回の決定は全会一致だった
2.金融政策の評価:予想通りの据え置き決定
ECBは今回の会合で、政策金利の据え置きを決定した。前回会合で追加利上げ余地が小さいことが示唆されていたこともあり、市場予想通りの結果だった。ECBは前回9月会合まで10回連続で利上げを実施しており、金利据え置きは22年6月以来の決定となる。なお、今回の会合では、24年末まで実施予定とされているPEPPの再投資の前倒し終了といった議論がされていないことが質疑応答を通じて明らかになった。
経済環境については、前回の会合以降、パレスチナのイスラム組織ハマスがイスラエルに大規模な攻撃を仕掛けたことをきっかけに中東の地政学的な緊張が高まっている。ECBは、地政学的リスクが経済に影響を及ぼし得ると言及したが、中期的なインフレ見通しについては前回9月時点と概ね変更がないと評価している。不確実性は増しているものの、金融政策運営を取り巻く環境は大きく変わっていないと言える。
引き続き先行きの不確実性が高いため、今後もマクロ経済統計の結果が注目されるが、見通し通りインフレ率が低下基調を維持すれば、ECBは当面、政策金利を維持するものと見られる。
経済環境については、前回の会合以降、パレスチナのイスラム組織ハマスがイスラエルに大規模な攻撃を仕掛けたことをきっかけに中東の地政学的な緊張が高まっている。ECBは、地政学的リスクが経済に影響を及ぼし得ると言及したが、中期的なインフレ見通しについては前回9月時点と概ね変更がないと評価している。不確実性は増しているものの、金融政策運営を取り巻く環境は大きく変わっていないと言える。
引き続き先行きの不確実性が高いため、今後もマクロ経済統計の結果が注目されるが、見通し通りインフレ率が低下基調を維持すれば、ECBは当面、政策金利を維持するものと見られる。
3.声明の概要(金融政策の方針)
10月26日の政策理事会で発表された声明は以下の通り。
(政策金利、フォワードガイダンス)
(資産購入プログラム:APP、パンデミック緊急資産購入プログラム:PEPP)
(資金供給オペ)
(その他)
- 理事会は、本日、3つの主要な政策金利を据え置くことを決定した
- 最新のデータは概ね前回の中期的なインフレ見通しの評価を追認するものだった
- インフレ率は引き続き高い水準に長期間とどまると予想され、域内の価格上昇圧力は依然として強い
- 同時にインフレ率はベース効果などで9月に大幅に低下し、多くの基調的なインフレ率は緩和を続けている
- 理事会の過去の利上げは引き続き強力に資金調達環境に伝達されている
- これは需要をさらに抑制し、インフレ率の押し下げに寄与している
- 理事会は、確実にインフレ率を速やかに中期的に2%という目標に戻すと決意している
- 現在の評価に基づき、理事会は3つの主要な政策金利が、これが十分に長い期間続けば、インフレ率が目標達成に重要な貢献をする水準にあると考えている
- 理事会の将来の決定について、政策金利が必要とされる期間にわたり十分に制限的な水準に設定されるよう保証する
- 理事会は、制限的な水準と期間に関して適切に決定するため、引き続きデータ依存のアプローチを続ける
- 特に、理事会の金利決定は、最新の経済・金融データに照らしたインフレ見通しの評価、基調的なインフレの動向、金融政策の伝達状況によって決定する
(政策金利、フォワードガイダンス)
- 政策金利の維持(変更なし)
- 主要リファイナンスオペ(MRO)金利:4.50%
- 限界貸出ファシリティ金利:4.75%
- 預金ファシリティ金利:4.00%
(資産購入プログラム:APP、パンデミック緊急資産購入プログラム:PEPP)
- APPの元本償還分の再投資(変更なし)
- APP残高は償還分を再投資しておらず、秩序だった予測可能なペース(measured and predictable pace)で削減している
- (23年6月末まで平均月額150億ユーロのペースで削減すること、7月にAPPの償還再投資を停止することの説明は削除)
- PEPP元本償還分の再投資実施(変更なし)
- PEPPの元本償還の再投資は少なくとも2024年末まで実施(変更なし)
- 将来のPEPPの元本償還(roll-off)が適切な金融政策に影響しないよう管理する(変更なし)
- PEPP償還再投資の柔軟性について(変更なし)
- 理事会は引き続きPEPPの償還再投資について、コロナ禍に関する金融政策の伝達機能へのリスクに対抗する観点から、柔軟性を持って実施する
(資金供給オペ)
- 流動性供給策の監視(変更なし)
- 銀行が貸出条件付長期資金供給オペ下での借入額の返済を行うなか、理事会は条件付貸出オペと現在実施されているその返済が金融政策姿勢にどのように貢献しているかを定期的に評価する
(その他)
- 金融政策のスタンスとTPIについて(変更なし)
- インフレが2%の中期目標に戻り、金融政策の円滑な伝達機能が維持されるよう、すべての手段を調整する準備がある
- 加えて、伝達保護措置(TPI)は、ユーロ圏加盟国に対する金融政策伝達への深刻な脅威となる不当で(unwarranted)、無秩序な(disorderly)市場変動に対抗するために利用可能であり、理事会の物価安定責務の達成をより効果的にするだろう
4.記者会見の概要
政策理事会後の記者会見における主な内容は以下の通り。
(冒頭説明)
(経済活動)
(インフレ)
(リスク評価)
(冒頭説明)
- (ストゥルナラス・ギリシャ中銀総裁とそのスタッフへの感謝の言葉)
- (声明文冒頭に記載の利上げとスタッフ見通しへの言及)
- 経済とインフレ率の状況をどう見ているかの詳細と金融・通貨環境への評価について述べたい
(経済活動)
- ユーロ圏経済は引き続き弱い
- 最近の情報は、製造業生産が低下を続けていることを示唆している
- 冴えない域外需要と資金調達環境の引き締まりにより、投資と個人消費への重しが強まっている
- サービス部門もさらに軟化している
- これは主に製造業活動の弱さが他部門に波及したこと、経済再開による押し上げ効果が解消され、高い政策金利の影響が広がっていることによる
- 今年いっぱいは、引き続き経済の弱さが継続する見込みである
- しかし、インフレ率がさらに低下し、家計の実質所得が回復し、ユーロ圏の輸出が上向くにつれ、今後数年の経済活動は強まるだろう
- 経済活動はこれまでのところ、労働市場の強さによって支えられている
- 失業率は8月に6.4%で歴史的な低水準に留まっている
- 同時に労働市場にも軟化の兆しが見られる
- 新規雇用はサービス業も含めて減速しており、経済活動の低下が次第に雇用にも波及している
- エネルギー危機の解消に伴い、政府は引き続き関連する支援策を終了させるべきである
- これは中期的なインフレ圧力が加速し、さらに強力な金融政策で対応することを避けるために重要である
- 財政支援策は、我々の経済をより生産的にし、高い公的債務を段階的に削減させるよう計画されるべきである
- ユーロ圏の生産余力を強化させる、次世代EUプログラムの完全な実行によっても支えられている構造改革や投資は、中期的な物価上昇圧力の削減に寄与するとともに、グリーンやデジタルへの移行を支援するだろう
- そのためにも、EUの経済統治枠組み(economic governance framework)の改革は年末までに迅速に結論を出し、また資本市場同盟へ向けた進展や銀行同盟の完了が加速されるべきである
(インフレ)
- インフレ率は8月の水準から9月にはほぼ1%ポイント低下し、4.3%となった
- 短期的にはさらに低下が進むと見られるが、昨年秋のエネルギー価格と食料価格の高騰には前年比の比較から外れていく
- 9月の低下は広範囲にわたっている
- 食料インフレは、歴史的な水準よりも依然として高いものの、再び減速した
- エネルギー価格は前年比で4.6%落ち込んだが、直近では再上昇しており、地政学的な緊張により、予測が困難になっている
- エネルギーと食料品を除くインフレ率は8月の5.3%から9月には4.5%に低下した
- この低下は、供給制約の改善とエネルギー価格下落の転嫁が進んだこと、金融引き締めの影響が需要や企業の価格設定力に及んできたことによる
- 財とサービスのインフレ率はそれぞれ4.1%と4.7%と大幅に落ち込み、サービスインフレはベース効果による押し下げが見られた
- 観光や旅行関連の価格上昇圧力も軟化している
- 多くの基調的なインフレ指標は低下を続けている
- 同時に、賃金上昇の重要性が高まっていることを反映し、域内物価の上昇圧力は依然として強い
- 長期のインフレ期待に関する多くの指標は、現在は2%付近にある。
- しかし、いくつかの指標は引き続き上昇しており、注視が必要である
(リスク評価)
- 成長率に対するリスクは下方に傾いている
- 金融政策の効果が予想以上に強く生じれば成長率が低下する可能性がある
- 世界経済のさらなる低迷もまた成長率の重しになり得る
- ロシアの正当化されないウクライナとの戦争、およびイスラエルに対するテロ攻撃を発端とする悲劇的な紛争は地政学的リスクの主要要因である
- これは企業や家計の景況感の低下と将来に対する不確実性を上昇させ、成長率がさらに鈍化するかもしれない
- 逆に、労働市場の強さが予想以上に続けば、実質所得が上昇し、家計や企業の景況感がより改善し支出を増加させる可能性があり、世界経済が予想以上に強く成長する可能性もある
- インフレ率の上方リスクには、エネルギーと食料品価格の上昇がある
- 地政学的な緊張の高まりは短期的にエネルギー価格を押し上げる可能性があり、中期的な見通しをより不透明にしている
- 異常気象、気候変動危機の進行がより拡大していること、は予想以上に食料品価格を押し上げる可能性がある
- 継続的にインフレ期待が我々の目標を上回ること、もしくは賃金や利益率の予想以上の上昇もまた、中期的に見てもインフレ率を押し上げる可能性がある
- 対照的に、需要の低迷、例えば金融政策の強い伝達や、世界的に地政学的なリスクが高まるなかで域外経済の悪化が起きれば、特に中期的には物価上昇圧力が低下するだろう
(2023年10月27日「経済・金融フラッシュ」)
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03-3512-1818
経歴
- 【職歴】
2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
2009年 日本経済研究センターへ派遣
2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
2014年 同、米国経済担当
2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
2020年 ニッセイ基礎研究所
2023年より現職
・SBIR(Small Business Innovation Research)制度に係る内閣府スタートアップ
アドバイザー(2024年4月~)
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 検定会員
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