2023年10月10日

炭素税とは何か

基礎研REPORT(冊子版)10月号[vol.319]

金融研究部 准主任研究員・ESG推進室兼任 原田 哲志

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2023年5月、脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律(GX推進法)が成立した。環境省は「世界規模でグリーン・トランスフォーメーション(GX)実現に向けた投資競争が加速する中で、我が国でも2050年カーボンニュートラル等の国際公約と産業競争力強化・経済成長を同時に実現していくためには、今後10年間で150兆円を超える官民のGX投資が必要」としており、脱炭素社会への移行に向けた制度整備や投資の具体化が進められている。

同法は(1)GX推進戦略の策定・実行、(2)GX経済移行債の発行、(3)成長志向型カーボンプライシングの導入、( 4)GX推進機構の設立、(5)(これらの戦略の)進捗評価と必要な見直しで構成されている。(3)成長志向型カーボンプライシングの導入では、1)2028年からの炭素に対する割賦金(化石燃料賦課金)、いわゆる炭素税と2)2033年からの排出量取引制度の導入を盛り込んでいる。炭素税の導入について、脱炭素に先行して取り組むインセンティブを企業に持たせる仕組みを構築することを目的としている。

企業などの排出する二酸化炭素に価格をつけ、それによって排出者の行動を変化させるために導入する政策手法は「カーボンプライシング」と呼ばれる。カーボンプライシングには(1)炭素税、(2)排出量取引、(3)クレジット取引、(4)炭素国境調整、(5)国際機関による市場メカニズム、(6)企業が独自に行うインターナル・カーボンプライシングなどの制度があり行政コストの大小や排出削減量の予見性などの点で異なる特徴を持つ。

今後、炭素税の制度設計を進めていくにあたっては時間軸と課税水準などがポイントとなる。時間軸と課税水準について、排出量削減を促す観点からは、課税水準は当初は低く、徐々に上昇させることが合理的となる[図表1]。これは将来的な課税水準の上昇のシグナルを送ることで早期の排出量削減に取り組むインセンティブを与えるためである。シグナルを示すためには、予見可能性が必要であり、あらかじめ将来の高い税率と時間軸を明示する必要があるが、それによる産業への悪影響を防ぐことが課題となる。
[図表1]炭素税の予見可能性の高い時間軸の提示
海外の炭素税制度について見ると、炭素税は1990年にフィンランドで世界で初めて導入された後、スウェーデン、ノルウェー、デンマーク、オランダなどを中心に導入が続いた。その後、1990年代後半には、京都議定書において、先進国各国で温室効果ガス削減目標が決定されたことから、ドイツ、イタリア、イギリスといったEU主要国で排出抑制を目的とする温暖化対策税が導入された。炭素税は多くの国で導入されており、導入後に継続的な税率の引上げが行われている。

日本では、二酸化炭素の排出に関して2012年に地球温暖化対策税が導入された。しかし、日本の地球温暖化対策税の税率は諸外国と比較してかなり低い水準にあった[図表2]。このことから、本格的な炭素税の導入が待たれていた状況にあり、今回のGX推進法で本格的な炭素税の導入に至った。日本が諸外国に遅れず脱炭素化を推進していくには、適切な水準と制度設計での炭素税の導入が必要となっている。
[図表2]諸外国の実効炭素価格
炭素税の導入は企業や家計の負担となることから、実態経済への悪影響が懸念されている。一方で、炭素税の経済への影響については環境省などにより試算が行われており、税収を省エネなどの投資に回すことで経済成長につなげられる(GDP成長にプラスとなる)としている。

成長に資するカーボンプライシングを実現するためには、脱炭素に向けた企業独自の設備投資や研究開発への取組みを削ぐものであってはならず、脱炭素に向けた投資やイノベーションを促す仕組みを構築する必要があるだろう。脱炭素社会への移行と経済成長を両立する実効性ある炭素税制度の策定が求められる。
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金融研究部   准主任研究員・ESG推進室兼任

原田 哲志 (はらだ さとし)

研究・専門分野
資産運用、オルタナティブ投資

経歴
  • 【職歴】
    2008年 大和証券SMBC(現大和証券)入社
         大和証券投資信託委託株式会社、株式会社大和ファンド・コンサルティングを経て
    2019年 ニッセイ基礎研究所(現職)

    【加入団体等】
     ・公益社団法人 日本証券アナリスト協会 検定会員
     ・修士(工学)

(2023年10月10日「基礎研マンスリー」)

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