2023年09月20日

資金循環統計(23年4-6月期)~個人金融資産は2115兆円と急増し過去最高を大幅更新、家計の資金不足は解消

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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1.個人金融資産(23年6月末):前年比92兆円増、前期末比59兆円増

2023年6月末の個人金融資産残高は、前年比92兆円増(4.6%増)の2115兆円となった。過去最高であった3月末の水準を大きく上回り、3四半期連続で過去最高を更新した1。年間で見た場合、資金の純流入が19兆円あったほか、株高が進んだ影響などにより時価変動2の影響がプラス73兆円(うち国内株式等がプラス57兆円、投資信託がプラス9兆円)に達し、個人金融資産残高を大きく押し上げた。
 
なお、この間に物価上昇が進んでいるため、その分個人金融資産の実質的な価値(購買力)は目減りしている。一年間の物価上昇の影響3を加味した実質ベースの個人金融資産残高は前年比12兆円増(0.6%増)と小幅な増加に留まる。

四半期ベースで見ると、個人金融資産は前期末(3月末)比で59兆円増と3四半期連続で増加した。四半期での増加額は過去2番目の高水準にあたる。例年、4-6月期は一般的な賞与支給月を含むことから資金の純流入となる傾向があり 、今回も例年よりはやや少ないものの、12兆円の純流入があった。一方、この間に景気回復や企業の資本効率改善期待などから株価が大きく上昇し、円相場も円安に振れたことで、時価変動の影響がプラス46兆円(うち国内株式等がプラス29兆円、投資信託がプラス8兆円)発生し、資産残高を大きく押し上げた(図表1~4)。
(図表1) 家計の金融資産残高(グロス)/(図表2) 家計の金融資産増減(フローの動き)
(図表3) 家計の金融資産残高(時価変動)/(図表4) 株価と円相場の推移(月次終値)
(図表5)家計の金融資産と金融純資産 なお、家計の金融資産(グロス)は、既述のとおり4-6月期に59兆円増加したが、この間の金融負債が横ばいとなったため、金融資産から負債を控除した純資産残高は3月末比59兆円増の1732兆円となった(図表5)。
 
ちなみに、足元の7-9月期については、一般的な賞与支給月を含まないことから、例年、資金の純流入が停滞する傾向がある。ただし、7月以降も国内株の上昇が続いているうえ、円相場も円安となっていることから、時価変動の影響が明確なプラスになっていると推測される。

従って、足元ならびに9月末時点の個人金融資産残高は6月末からさらに増加している可能性が高い。
 
1 今回、2022年4~6月期以降の一部計数が遡及改定されている。
2 統計上の表現は「調整額」(フローとストックの差額)だが、本稿ではわかりやすさを重視し、「時価(変動)」と表記。
3 計算上の概念である持ち家の帰属家賃を除く総合指数を使用

2.家計の資金流出入の詳細:リスク性資産への投資は着実に継続も、利益確定売りも発生

4-6月期の個人金融資産への資金流出入について詳細を確認すると(図表6)、例年同様、季節要因(賞与の有無等)によって現預金が純流入(積み増し)となったが、流入の規模は11.7兆円と前年同期(14.1兆円)を下回り、近年の同時期の中では小規模となった。賃上げを上回る物価上昇の進行が抑制要因になったと考えられる。

内訳では、例年のこの時期同様、流動性預金(普通預金など)への純流入が進んだが、その規模は14.9兆円と昨年や一昨年を下回った(図表7)。また、定期性預金は3.4兆円の純流出となった(図表7)。純流出の規模は例年を上回り、4-6月期としては過去2番目の高水準となった。物価上昇が進む中、実質的な価値の目減りを危惧して、物価上昇に弱い預金を避ける動きが一部で生じた可能性がある。
(図表6)家計資産のフロー(各年4-6月期)/(図表7)現・預金のフロー(各年4-6月期)
(図表8)流動性・定期性預金の個人金融資産に占める割合/(図表9)外貨預金・投信(確定拠出年金内)・国債等のフロー
定期性預金からの純流出は30四半期連続となり、この間の累計流出額は92兆円に達している。この結果、定期性預金が個人金融資産に占める割合は17.4%にまで低下している(図表8)。預金金利がほぼゼロであるにもかかわらず、引き出し制限があって流動性の低い定期性預金からの資金流出には歯止めがかかっていない。日銀が昨年12月に続いて7月にも長期金利操作目標の許容上限を引き上げたことで、長期金利は上昇しているが、今のところ、定期預金金利の上昇は総じて限定的に留まっている。定期性預金の残高は未だ369兆円もあるため、今後も大幅な資金流出が続くだろう。

一方、流動性預金これまで資金流入傾向が続き、個人金融資産に占める割合を高めてきたが、昨年後半以降は、若干低下してきている。従来よりも流入がやや進みづらくなっているうえ、株式等の時価上昇によって分母となる個人金融資産残高が大きく押し上げられたことが影響している。
 
次に、リスク性資産への投資フローを確認すると、代表格である株式等が2.9兆円の純流出(前年同期は0.7兆円の純流入)、(米国株などの)対外証券投資が1.4兆円の純流出(前年同期は0.1兆円の純流入)とそれぞれ大幅な純流出になった点が目立つ(図表6・9)。内外で株価が上昇し、円安も進んだことで、過去の投資分の利益確定売りが活発になったと考えられる。
 
一方、投資信託は1.6兆円の純流入(前年同期は1.2兆円の純流入)となった。投資信託の純流入は13四半期連続で、この間の純流入額は15兆円に達するなど息の長い資金流入が続いている。積み立てNISAなど積み立て投資(確定拠出年金分は別枠)の普及が寄与しているとみられる。また、外貨預金も0.2兆円の純流入(前年同期は0.3兆円の純流出)となった。純流入は2期連続となる。従来は円安に伴う利益確定的な解約が優勢であったが、海外金利が上昇を続けるなかで海外の高金利獲得を目的とする流入が優勢となった可能性がある。確定拠出年金内の投資信託も堅調な純流入(0.3兆円)を続けている。 

個人金融資産全体からすれば未だ限定的な動きではあるが、家計のリスク性資産への投資は緩やかながらも着実に進みつつある。物価上昇による資産価値の押し下げ圧力が続くなか、来年のNISA拡充を控えて投資への注目度も高まると考えられる。今後、家計の投資意欲がさらに高まってリスク性資産への投資が進むかが注目される。

3.その他注目点:家計の資金不足が解消、日銀の国債保有割合は若干低下

(図表10)部門別資金過不足(季節調整値) 4-6月期の資金過不足(季節調整値)を主要部門別にみると(図表10)、まず、1-3月期に資金不足に陥っていた家計部門が3.4兆円の資金余剰に転じた点が目立つ。賃上げが徐々に反映される一方で、4-6月期の実質消費が減少したことが資金不足の解消に繋がったと考えられる。ただし、引き続き物価上昇が抑制要因になったとみられ、資金余剰額は近年のなかでは小規模に留まる。
 
一方、1-3月期に大幅な資金余剰となっていた民間非金融法人は4-6月期も7.1兆円の資金余剰と大幅な余剰が継続した。資源価格の下落に伴って原材料高が一服する一方で販売価格への転嫁が進んだことや、経済活動再開に伴う売上の回復が影響したと考えられる。

なお、政府部門の資金不足額は5.1兆円(1-3月期は2.4兆円の資金不足)、海外部門の資金不足額は5.5兆円(1-3月期は1.9兆円の資金不足)とそれぞれ不足額が拡大している。後者については、資源価格の下落を受けて我が国の貿易赤字が縮小したことが影響している。
6月末の民間非金融法人の借入金残高は487兆円と3月末(489兆円)から1兆円減少した一方、債務証券の残高は92兆円と3月末から4兆円増加した(図表11)。このため、有利子負債はやや増加した。一方、民間非金融法人の現預金残高は344兆円と3月末から5兆円増加し、過去最高を更新している。このため、有利子負債から現預金を控除した純有利子負債は、3月末から2兆円減少している。

4-6月期の民間非金融法人による対外投資(フロー)を確認すると、対外直接投資は4.1兆円と、1-3月期の3.3兆円からやや拡大した。コロナの拡大に伴って一旦途絶えた後、2021年以降は堅調な投資フローが続いている(図表12)。なお、4-6月期の対外証券投資は減少(回収超過)に転じている。
(図表11)民間非金融法人の現預金・借入・債務証券残高/(図表12)民間非金融法人の対外投資額(資金フロー)
(図表13)預金取扱機関と日銀、海外の国債保有シェア 6月末の国債(国庫短期証券を含む)発行残高は1240兆円と、3月末(1230兆円)から増加した。
 
主な経済主体の保有状況を見ると(図表13)、最大保有者である日銀の国債保有高は584兆円と3月末から2兆円増加したが、金利上昇圧力の後退に伴う国債買入れの縮小を受けて、1-3月期の増加額27兆円からは大きく鈍化した。全体に占めるシェアも47.1%と過去最高であった3月末(47.3%)から若干低下した。このうち1年超の長期国債に限れば、日銀のシェアは53.2%まで引きあがるが、3月末(53.3%)からはわずかながら低下している。 

なお、海外部門の保有高は3月末から3兆円増の181兆円となった。増加は3四半期ぶりとなる。シェアについても14.6%(3月末は14.5%)へとわずかながら上昇に転じている。
 
 

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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

(2023年09月20日「経済・金融フラッシュ」)

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