2023年09月08日

まちづくりへのDAOの活用-住民参加の深化に向けて-

社会研究部 研究員 島田 壮一郎

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1――はじめに

まちづくりにおいて地域の実情に則した都市計画を行うためには、広く住民の意見を取り入れることが必要である。しかし、住民参加のまちづくり活動について、人的資源や参加者の固定化などの問題が多くみられており、より広い参加を促すことが求められている。また、人口減少に伴い、住民だけでなく、他の地域からの参加を促すことで、より広い知見の共有が期待されている。

まちづくりの新たな形態として、DAOを用いた住民参加によるまちづくりが行われている。そのきっかけとなったのは新潟県にある旧山古志村での山古志DAOの成功によるものであろう。それ以降にも東北6県にまたがる「東北DAO」や盛岡市紫波町の「FurusatoDAO」なども行われている。

本稿ではDAOを用いたまちづくりにおいて、住民参加のどのような課題を解決しうるかをDAOの特徴から考えていきたい。

2――DAOを用いたまちづくり

2――DAOを用いたまちづくり

1|DAOとは
DAOとはDecentralized Autonomous Organization(分散型自律組織)の略である。代表者が存在し、中央集権的に意思決定が行われる従来型組織とは異なり、参加者が同じ階層におりフラットな関係のもとで意思決定が行われるという特徴がある。さらに管理者がおらず、そのような状況でも自律的に動くようなシステムになっており、管理者の恣意的な操作によって決定事項が歪められるようなことが起こらないようになっている。これらのシステムはブロックチェーン技術の進展によって実現できるものである。
図-1 DAOにおける意思決定
ブロックチェーン協会によるとブロックチェーンとは「ビザンチン障害を含む不特定多数のノードを用い、時間の経過とともにその時点の合意が覆る確率が0へ収束するプロトコル、またはその実装をブロックチェーンと呼ぶ。」「電子署名とハッシュポインタを使用し改竄検出が容易なデータ構造を 持ち、且つ、当該データをネットワーク上に分散する多数のノードに保持させることで、高可用性及びデータ同一性等を実現する技術を広義のブロックチェーンと呼ぶ。1」と定義されている。ここでは詳しい技術についての説明は省くが、「改ざんやシステム障害が起こる可能性が0に限りなく近く、多くの主体によって管理されているという仕組み」である。ブロックチェーン技術を用いることで決まったルールを自律的に実行することが出来る。また、ブロックチェーン上のルールのことをスマートコントラクトと呼ぶ。このような技術のもとにDAOが実行されている。

また、DAOの特徴として組織への参入障壁が低いことが挙げられる。既存の組織では入社試験やその他の条件をクリアしないといけないことが多いが、DAOでは独自のガバナンストークンを購入することで組織に加入することが出来る。トークンとはブロックチェーンに基づく電子証明書であり、DAOに参加するために発行しているものをガバナンストークンと呼ぶ。トークンおよびガバナンストークンには仮想通貨やNFTなど、様々な形式のものが存在する。NFTとは非代替性トークンのことであり、ブロックチェーン技術によってデジタルデータでありながら、その固有の存在が認められているものであり、複製や所有権の改ざんが基本的に不可能なものとなっている。後述する山古志地域でのDAOでは特産品である錦鯉を描いたデジタルアートを発行しており、これを所有することで山古志地域のDAOに参加できるシステムとなっている。NFTを発行することでその売り上げをDAOの活動資金とすることが出来る。

DAOにおける意思決定はこのガバナンストークンの所有者による投票によって決まる。その決定はスマートコントラクトとして確実に実行されることになる。意思決定のためのDAO内でのコミュニケーションは多くはチャットサービスであるDiscordなどオンライン上で行われるものが多い。
 
これらの特徴からDAOには以下のような利点があるとされている。
 
  1. ガバナンストークンを保持するだけで誰でも参加することが出来る。
  2. 管理者の恣意的な決定に左右されない。
  3. 意思決定の結果が適切に実行される。
  4. NFTの売買により資金調達を行うことが出来る。
  5. 意思決定の履歴が残り、以前にどのような決定が行われたかを誰でも把握することが出来る。

以上のような利点があることから、DAOには民主主義の深化に寄与すると期待され、活用の広がりを見せている。
2DAOを用いた事例
DAOは既に様々な分野で活用されている。事例の一部を表-1に示す。
表-1 まちに関わるDAOの事例
上記以外にも、みちのくDAOやWeb3タウンを表明した岩手県紫波町などが地域におけるDAOの活用を目指している。

DAOを用いたまちづくりの事例として山古志地域における事例をここで紹介する。山古志村は新潟県長岡市の南東部に位置し、長岡市と合併する以前は山古志村であった地域である。美しい棚田の風景や牛の角突き、錦鯉発祥の地であるなど数多くの文化を持つ地域である。2004年の新潟県中越地震によって甚大な被害を受けたことから、村民が長岡市内に避難することとなった。その後、復興を進めていったが、人口が減少していた。その中で復興を目指し立ち上げられた「山古志住民会議」によって錦鯉が描かれたデジタルアートをNFTとして発行した。このNFTは山古志地域の電子住民票を兼ねるものであり、NFTの購入者は山古志村のデジタル村民となり、NFTで得た収益の一部を利用し活動を行うことや、意思決定への投票に参加することが出来る。また、DAOメンバーによる投票によってリアルの山古志住民にもNFTを希望者全員に配布することが決定されるなどリアルとデジタルの協働を目指している。さらにメタバース上での山古志地域を再現することや、他地域のDAOとの協働の取り組みを始めるなど山古志地域に関わる関係人口の増加を目指している。

3――DAOの特徴からみるまちづくりへの寄与

3――DAOの特徴からみるまちづくりへの寄与

DAOの特徴によって、住民参加型のまちづくりにどのように寄与するかを考える。

1. ガバナンストークンを保持するだけで誰でも参加することが出来る。
参加者の拡大は様々な地域で課題となっている2。DAOではその地域以外の人でも参加することが出来、参加者の幅を広げることが出来る。議論はDiscordなどオンラインで行うものが多く遠方からの参加も可能である。また、山古志村での事例のように住民にNFTを配布することで地域住民という、組織としては曖昧なものからDAOメンバーという正式な組織の一員として定義することが出来る。

2. 管理者の恣意的な決定に左右されない。
住民参加のまちづくりにおいて、自治会長などの肩書を持つ人の意見が強くなることやまちづくりへの知識の差があることなどで発言しにくくなることが考えられる。そのような場面では、納得して参加することが難しくなる3。DAOでは管理者による恣意的な決定に左右されることが無いため、地域での立場によって決定に参加出来る度合いの差を無くすことが出来る。一方で、トークンの保有量で投票数が決まることが多いため、トークンを多く保有できる参加者の意見に偏る可能性があることに留意する必要がある。

3. 意思決定の結果が適切に実行される。
住民参加の場において、まとめられた意見が実際の計画に反映さないことも多い。アーンスタインは住民参加の活動について参加の深さや形式の違いによって8段階に分類を行った。表-2に示すように、非参加の状態である世論操作と不満回避がそれぞれ1段階目、2段階目にあり、次に形式だけの参加である情報提供、相談・意見聴取と懐柔がそれぞれ3段階目、4段階目、5段階目にあり、住民主権としての参加である協働、権限委任と住民主権がそれぞれ6段階目、7段階目、8段階目にある。これを「参加のはしご」と呼び、上段に行くにつれてより主体的な参加になり、より理想的な住民参加に近づくとされている4。住民参加の効果を多く得るためにはその活動がはしごの高い段階に達している必要がある。

一方、DAOではスマートコントラクトに記述されているルールに従って、取引等が行われるため、決定事項が適切に実行される可能性が高い。DAOによるまちづくりは住民参加のはしごの上段まで登れる可能性がある。
表‐2 住民参加のはしご(Arnstein 1969)
4. NFTの売買により資金調達を行うことが出来る
まちづくりにおいて、その活動は自治会費や会費、補助金などで賄われていることが多く、活動資金を確保することが難しい。DAOではトークンの売買により資金調達を行うことが出来る。さらに、まちの魅力が高まることでトークン自体の価格が上がる可能性も考えられ、まちづくり参加への動機となることも期待される。

5. 意思決定の履歴が残り、以前にどのような決定が行われたかを誰でも把握することが出来る。
住民参加によるまちづくりにおいて、行われてきたことや情報が暗黙知としてしか残っていないことが多くみられる。DAOではブロックチェーンの技術が用いられており、合意形成の結果やそれに用いられた情報を保存しておくことが出来るため、まちづくりの履歴を形式知にしておくことが出来る。また、まちづくりに参加するにあたって、過去にどのようなことを行ってどのような結果を得たかを知っておくことが必要である。ブロックチェーン技術によって履歴がオープンに残っていることで自由に参照することが出来、参加経験の違いによる知識の差を減らすことが出来る。

4――まとめ

4――まとめ

山古志村DAOの成功によってDAOによるまちづくりの活動が広がりつつある。住民参加の活動にDAOを用いることで住民参加の課題を解決することが出来る可能性がある。一方で、DAOではメンバーの合意が必須であることから、早急な対応が必要な案件への対応が難しいことや意思決定が投票のみで行われ、トークンの所有量によって投票権数が異なることがあり、大量にトークンを購入することで組織を乗っ取ることが可能であることなど課題も多く残されている。DAOの有効な活用のため、今後も研究を進めていく必要がある。
 
1 日本ブロックチェーン協会. Definition ブロックチェーンとは. https://jba-web.jp/aboutus#definition.
2 国土交通省都市局. まちづくり活動の担い手のあり方について とりまとめ. (2017).
3 島田壮一郎 & 秀島栄三. ワークショップにおけるコミュニケーション 不安と納得度の関係からみる コミュニケーションの働きおよび ファシリテーションの技法に関する研究.  土木学会論文集D3(土木計画学)  78, 34–44 (2022).
4 Arnstein, S. R. A Ladder of Citizen Participation. Journal of the American Planning Association 35, 216–224 (1969).
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社会研究部   研究員

島田 壮一郎 (しまだ そういちろう)

研究・専門分野
都市・地域計画、住民参加、コミュニケーション、合意形成

経歴
  • 【職歴】
     2022年 名古屋工業大学大学院 工学研究科 博士(工学)
     2022年 ニッセイ基礎研究所 入社
    【加入団体等】
     ・土木学会
     ・日本都市計画学会
     ・日本計画行政学会

(2023年09月08日「基礎研レポート」)

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