2023年08月29日

働く女性の自覚症状(健康問題)-4人に1人が「慢性的な肩こり」を自覚、「精神的なストレス」が仕事へ最も影響、月経関連症状は1割未満-

生活研究部 研究員・ジェロントロジー推進室・ヘルスケアリサーチセンター 兼任 乾 愛

文字サイズ

2仕事へ直接的に影響を及ぼす精神的なストレス症状
続いて、本調査において、何らかの自覚症状を有する就労中の女性のうち、仕事へ最も影響するのは「ストレスを感じる」などの精神的な症状であることが明らかとなった。

この「ストレスを感じる」というのは、なんらかの外部からの刺激(ストレッサー)によって、身体的心理的に生じる反応のことを示す。人間の身体では、ストレスが生じると、それを解消しようとする防御反応が働き、ストレッサーをうまく制御できた場合には「適用」という様態をとり、うまく制御ができなかった場合には、「不適応」を引き起こし、心身に様々な影響が現れる。精神面に限ると、不安や抑うつ症状、錯乱状態などの反応性精神障害や、急性ストレス障害、心的外傷後ストレス障害(PTSD)などがこれに当たる。

今回の調査では、このストレスを感じるに至る原因は特定されていないものの、何らかの外的刺激によりストレス反応を生じた結果、仕事にまで影響を来している状態であると捉えられる。設問項目をみると、数ある身体症状を抑えて、この「ストレスを感じる」という精神反応が、最も仕事へ影響を及ぼす自覚症状であることが分かる。

このストレス反応に対する対策が困難であるのは、同じストレス要因でも個人により捉え方が異なること、また、このストレスに対する対処行動(ストレスコーピング)の方法も大きく異なるためである。しかし、就労者においては、自身のストレスを計測する機会が存在する。

企業では、労働安全衛生法に基づき、労働者が50人以上の事業所では、毎年1回ストレスチェックを実施することが義務付けられている。このストレスチェックは、従業員のメンタルヘルスに関する不調を未然に防止することを目的に導入されたもので、自記式の質問票に回答してもらい、従業員のストレス傾向や特徴を明らかにするものである。分析は、一定規模の集団分析となるが、回答することで従業員本人は自分自身のストレス症状を自覚する機会となる。高ストレスレベルに該当した者は、産業スタッフの面談や産業医の指示の基に、職場環境改善や就業上の措置などを決定し、精神的なストレス症状の軽減に努めるのである。

しかし、契約期間が1年未満である者や、労働時間が通常の労働者の所定労働時間の4分の3未満の短時間労働者はストレスチェック受診の対象外とされている。女性の社会進出や働き方改革の現状を鑑みると、育児との両立を望みあえて柔軟な働き方を選択する女性や、兼業・副業の拡大に合わせて短時間掛け持ちの従業員が増加する可能性もある。ストレスチェックの対象外である小規模企業や契約期間が短い従業員を抱える企業の従業員に対するストレスチェック体制の整備は、健康経営に有益な影響をもたらす重要な視点となり得よう。
3就労中の女性に月経関連症状の自覚割合は1割未満、これが意味することは?
最後に、本調査において、労働損失を招くとされる女性の月経関連症状を自覚する者の割合は3.3%、ケースの割合でみると9.0%に留まることが明らかになった。

この結果だけを見ると、就労中の女性において月経関連症状の自覚率が低いように思えるが、今回の分析対象者2,289人の年齢内訳は、一般的に閉経を迎えるとされる50歳を含む50歳以上の者が641人(28.0%)と3割近くを占めている。本来であれば閉経を迎えた者は、月経関連症状の自覚を回答する対象者からは除外される必要がある。(この設問は年齢に関わらず、調査時点において月経の有無を問う必要があるため、今回のような様々な症状有無を回答する設問方式では、確認が取れなかったものである。)

また、月経関連症状には、月経期間中に出現する下腹部痛や腰痛などが主症状となる月経随伴症状と、月経前3日~10日ほどの期間に出現するイライラ症状などの月経前症候群などが存在するが、月経に付随した症状であることを明確に認識していない(診断されていない)場合には、頭痛や腰痛、イライラを感じるなどの一般的な症状として回答している可能性が考えられる。

これら分析上の限界に加えて、就労中の女性において月経関連症状の出現割合が低いと結論づけるには時期尚早である重要な視点を指摘したい。

日本産科婦人科学会によると、月経前の3日から10日間継続する身体症状である月経前症候群は、日本人女性全体の70%~80%に何らかの症状が出現しているとされている5。また、日本産婦人科医会では、日本人女性の25%以上に月経困難症が認められているとされており6、小中高の若年者の間では月経に関連する欠席や不登校に対し「生理休暇」の導入を懇願する声もあがっている7。文部科学省は、高等入学者選抜試験に関する配慮事項を通知するに至るなど、女性全体において月経に関連した症状の出現率が高いこと及び、社会的な制約が高いことを巡る議論が活発になりつつある。

令和2年雇用均等基本調査をみると8、女性労働者のうち生理休暇を取得した割合は0.9%と驚くほど低く、企業側の働く女性に対するサポートや配慮が十分ではないとする指摘もされている9

これらの状況を鑑みると、月経関連症状を来す女性は、現在の社会生活の構造には適しておらず、自身の体調を考慮して常勤を避けている可能性が推察される。つまり、この結果は、月経関連に悩まされない(比較的症状が出現しない)2~3割の女性のみ、常勤職として就労している実態を現している可能性さえあるのだ。

女性の社会進出が進む中で、女性特有の健康課題への理解のみならず、柔軟な働き方を含む社会構造の変革が伴わない限り、企業の労働損失は不可避であろう。
 
5 日本産科婦人科学会「月経前症候群」https://www.jsog.or.jp/modules/diseases/index.php?content_id=13
6 日本産婦人科医会「5.月経困難症」https://www.jaog.or.jp/
7 日本若者協議会(2021)「学校での生理休暇導入を求める要望書」https://youthconference.jp/archives/4574/
8 厚生労働省「令和2年度雇用均等基本調査」~女性の管理職割合や育児休業取得率などに関する状況の公表~
 https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/71-r02/07.pdf
9 村松容子 基礎研レポート「企業における女性の健康支援策の利用実態と推進に向けた課題」(2023年3月
29日)https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=74333?site=nli

4――まとめ

4――まとめ

本稿では、弊社の「被用者の働き方と健康に関する調査」の結果を用いて、働く女性に焦点を当て、自覚症状(健康問題)について調査した結果を整理した。

本調査では、就労中の女性(N=2,289人)の自覚症状(健康問題)として、「特にない」と回答した割合が13.6%(ケースの割合36.5%)と最も高いものの、有症状の順番としては、「慢性的な肩こり」が9.4%(ケースの割合:25.8%)と最も多く、次いで「ストレスを感じる」が9.3%ケースの割合:25.5%)であった。労働損失を招くとされる月経関連症状の自覚は3.3%(ケースの割合9.0%)に留まることが明らかとなった。

次に、調査時点において自覚症状を有している就労女性1,454人に対し、仕事へ最も影響を与えた自覚症状(健康問題)について調査した結果、「仕事には影響していない」」と回答した割合が16.2%と最も高く、次に「ストレスを感じる」が8.7%、続いて「慢性的な肩こり」が6.7%、女性特有の疾患とされる「月経関連症状」と回答した者は1.7%であることが明らかとなった。

「慢性的な肩こり」は、座位中心の生活をしている筋力が弱い女性との関連性が示されており、デスクワーク型の就労女性は姿勢や筋力低下に注意する必要がある。また、精神的なストレス症状は、仕事への影響が大きく、ストレスチェックなどを活用した上で、自身のストレス状況を自覚する機会を確保することが重要である。さらに、女性特有の月経関連症状の自覚率が3.3%、ケースの割合だと9.0%に留まるのは、体調面を考慮した女性が常勤職を回避している可能性があり、女性の社会進出を後押しし、労働損失回避のためには、体調面を考慮した柔軟な働き方の導入が重要なポイントとなり得よう。

次稿では、働く男性の自覚症状(健康問題)について、弊社調査の結果を整理する予定である。
Xでシェアする Facebookでシェアする

生活研究部   研究員・ジェロントロジー推進室・ヘルスケアリサーチセンター 兼任

乾 愛 (いぬい めぐみ)

研究・専門分野
母子保健・高齢社会・健康・医療・ヘルスケア

経歴
  • 【職歴】
     2012年 東大阪市 入庁(保健師)
     2018年 大阪市立大学大学院 看護学研究科 公衆衛生看護学専攻 前期博士課程修了
         (看護学修士)
     2019年 ニッセイ基礎研究所 入社
     2019年~大阪市立大学大学院 看護学研究科 研究員(現:大阪公立大学 研究員)

    【資格】
    看護師・保健師・養護教諭一種・第一種衛生管理者

    【加入団体等】
    日本公衆衛生学会・日本公衆衛生看護学会・日本疫学会

(2023年08月29日「基礎研レポート」)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【働く女性の自覚症状(健康問題)-4人に1人が「慢性的な肩こり」を自覚、「精神的なストレス」が仕事へ最も影響、月経関連症状は1割未満-】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

働く女性の自覚症状(健康問題)-4人に1人が「慢性的な肩こり」を自覚、「精神的なストレス」が仕事へ最も影響、月経関連症状は1割未満-のレポート Topへ