2023年08月17日

2023年8月時点の経過措置適用企業の進捗状況~スタンダード市場への選択申請を決議した企業が増加~

金融研究部 研究員 森下 千鶴

このレポートの関連カテゴリ

文字サイズ

東京証券取引所は、2022年4月4日の新市場区分への移行に伴い設置した経過措置について、当初は終了時期を明確化せず「当面の間」としていた。しかし、2023年4月1日に改正規則を施行し、2025年3月以降に順次終了することを決定した。

2023年8月14日時点の経過措置適用企業の進捗状況を確認したところ、経過措置適用企業数は前月からほぼ変わらなかったものの、プライム市場上場企業の救済措置であるスタンダード市場への選択申請を決議した企業が増加した。

■上場会社数に占める経過措置適用企業の割合は14.4%

■上場会社数に占める経過措置適用企業の割合は14.4%

図表1は、東証の公表資料から市場別の上場会社数と上場維持基準への適合計画を開示した企業数をまとめたものである。直近の2023年8月時点でプライム市場上場1,833社のうち281社(全体の15.3%)、3市場合計3,815社のうち549社(全体の14.4%)が経過措置の適用を受けている。
図表1 各市場に占める経過措置適用企業の割合

■経過措置適用企業の基準達成に向けた進捗状況

■経過措置適用企業の基準達成に向けた進捗状況

次に、プライム市場に上場している経過措置適用企業について8月までの進捗状況を確認する。図表2は、2023年8月14日時点までに企業が開示している最新の「適合計画書」をもとに、流通株式時価総額、流通株式比率、売買代金の上場維持基準に対する進捗状況と計画期間である。縦軸を赤枠で囲った数字は各項目のプライム市場の上場維持基準である。赤色は上場維持基準を達成した企業(適合見込みを含む)、灰色は未達の企業、青色は後述するスタンダード市場への選択申請を決議した企業である。元々の企業数が多いこともあるが、流通株式時価総額の基準未達企業で青色、つまり既にスタンダード市場への選択申請を決議した企業が多くなっている。
図表2 基準達成に向けた進捗状況

■スタンダード市場への選択申請を決議した企業は94社

■スタンダード市場への選択申請を決議した企業は94社

今回の経過措置の終了時期の明確化に伴い、2025年3月以降に到来する基準日から、全ての上場企業に対して本来の上場維持基準が適用され、基準に抵触した企業は、1年間(売買高基準は6か月間)の改善期間が設けられた後、監理・整理銘柄に指定され、その後原則6か月間で上場廃止となる。ただし、東証は、救済措置として市場再編前に市場第一部に所属していたプライム市場上場企業を対象に、2023年4月1日~9月29日までの6か月間は審査なしでスタンダード市場へ移行できる機会を設けた。図表3は、スタンダード市場への選択申請を決議した企業数の推移について月別にまとめたものである。
図表3 8月はスタンダード市場への選択申請を決議した企業が急増
筆者が各社公表資料を確認したところ、この救済措置を利用し、スタンダード市場への選択申請を決議した上場企業は2023年8月14日時点で94社あり、プライム市場の未達企業全体の約3割を占めた。2023年7月末時点で東証に申請を行った企業は64社あり、8月以降、新たに30社がスタンダード市場への移行を選択した(『市場区分の再選択一覧(2023年7月末時点)』 )。8月にスタンダード市場への選択申請を決議した企業が多い背景としては、上場企業の多くを占める3月本決算企業を中心に、7~8月の第一四半期決算までの状況を確認したうえで、最終的にスタンダード市場への移行を決断したことが考えられる。
 
なお、スタンダード市場への選択申請を決議した企業の主な選択理由は、「上場廃止リスク」となっている。経過措置の終了時期が明確になったことで、期限までに上場維持基準を達成できない、または、基準に適合しても安定的・継続的に充足する状態が保てない可能性がある企業は、今まで以上に上場廃止を懸念したのかもしれない。
 
依然として流通株式時価総額で上場維持基準を大きく下回っている灰色の選択申請の未決議企業(図表2)が多く、9月29日の申請期限を控えスタンダード市場への移行を決断する企業はさらに増えると予想される。と同時に、上場維持基準との乖離が大きいにも関わらず、スタンダード市場への移行を選択しない企業はあくまでプライム市場への上場を希望し、上場基準未達であれば、スタンダード市場上場のメリットと上場維持コストを勘案して、上場廃止もやむを得ないと判断しているのかもしれない。各社がどのような考えや戦略をもとに上場市場の選択を行うのかも含め、引き続き注目していきたい。
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
Xでシェアする Facebookでシェアする

このレポートの関連カテゴリ

金融研究部   研究員

森下 千鶴 (もりした ちづる)

研究・専門分野
株式市場・資産運用

経歴
  • 【職歴】
     2006年 資産運用会社にトレーダーとして入社
     2015年 ニッセイ基礎研究所入社
     2020年4月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会検定会員
     ・早稲田大学大学院経営管理研究科修了(MBA、ファイナンス専修)

(2023年08月17日「基礎研レター」)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【2023年8月時点の経過措置適用企業の進捗状況~スタンダード市場への選択申請を決議した企業が増加~】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

2023年8月時点の経過措置適用企業の進捗状況~スタンダード市場への選択申請を決議した企業が増加~のレポート Topへ