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気候関連リスクに関する保険分野の監督と規制にむけて(米国)-連邦保険局(FIO)が20項目の推奨事項を公表

保険研究部 主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任 安井 義浩
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1――米国の保険の規制 FIOの役割
以下その内容を列挙するが、最初に、FIOの位置づけについて確認しておく。
米国では保険業界の監督・規制は州ごとに行われている。また各州の保険監督官は全米保険監督官協会(National Association of Insurance Commissioners :NAIC)を構成しており、各州での規制といいつつも、実態としてはNAICで作成されたモデル規制を各州が採択するといった形で、全国レベルで整合性あるように調整される。
FIOは、2008年の金融危機を教訓としたシステミックリスク対応などのため、2010年に米国財務省内に設置された保険専管組織である。保険監督そのものの権限はないが、システミックリスクの監視や、国際機関における米国代表を務める機関となっている。
保険分野における気候変動リスクへの対応についても、米国内を統括する役割を担うことになっている。
1 Insurance Supervision and Regulation of Climate-Related Risks (FIO 2023.7)
https://home.treasury.gov/system/files/136/FIO-June-2023-Insurance-Supervision-and-Regulation-of-Climate-Related-Risks.pdf
(報告書の翻訳と内容の説明は、筆者の解釈や理解に基づいている。)
2――報告書の内容~20項目の推奨事項
1 各州の保険監督者とNAICは、これまで以上に取り組みを強化する必要がある。州を超えて統一したものが求められる。NAICにおいて最善の策を打ち出し、各州で採択するよう奨励するべきである。
2 各州の保険監督者と連邦当局は、保険会社に対して、気候変動に関連して、詳細で整合性があり比較可能なデータを収集させるべきである。
(リスク管理と内部統制)
3 各州の保険監督者は、気候関連リスクの監視方法を確立する必要がある。それは、それぞれの州の保険市場に適したもので、かつ、保険会社には年間の財務計画に反映させるべきである。
(コーポレートガバナンス)
4 気候関連リスクが保険会社の経営計画の作成に影響することに注目させるため、NAICと各州の保険監督者は、ガイダンスを設定して、保険会社がそれに従って気候リスクを監視し、経営方針への影響を、統一した様式で報告するようにさせるべきである。
(データの報告と検査)
5 NAICは財務分析ハンドブックを改定して、金融アナリストと州の主要アナリストが行う分析の留意点等を統合するべきである。またNAICは、各州の保険監督者とともに金融アナリスト向けのトレーニング(気候関連リスクで使用する仮定の評価や方法論)のガイダンスを提供すべきである。
6 NAICと各州の保険監督者は、保険業界と協力して、洪水に関するRBC(米国保険会社に対する自己資本規制)におけるリスクチャージの検討を続けるべきである。
7 NAICはORSA(リスクとソルベンシーの自己評価報告書)ガイダンスマニュアルを整備して、気候関連リスクの記載を取り入れるべきである。保険会社がそれらを考慮していないときは、州の保険監督者はその理由を記載させるか、定量的な測定を求めるよう要求するべきである。
8 NAICと各州の保険監督者は、ORSAサマリーレポートで使われる気候関連リスクの重要性を統一し、比較可能な情報となるようにしなければならない。(NAICの気候リスク開示基準(2022.3)に適合するように)
9 NAICは、気候関連部分が強化された「財務状況検査ハンドブック」を決定し、各州の保険監督者がそれに基づいて財務状況検査を行い、気候関連リスクが確実に考慮されるようにすること。なお、検査官の疑問に答えるべく、NAICがサンプル質問やガイダンスを提供すること。また定期的にそうした質問事項をまとめた報告書を発行すること
(モデリング)
10 各州の保険監督者が効果的に保険会社の監督と評価を行なえるように、大災害の影響と耐久力を定期的に最新状態に修正すること。保険会社と監督者で情報を共有できるように、方法を統一し関連データを整備するためのプラットフォームを開発する必要がある。NAICはこうした点につき定期的に報告書を作成すべきである。
(シナリオ分析)
11 NAICと各州の保険監督者は、気候関連リスクに関係するシナリオ分析を優先すべきである。最初は大手の保険会社から実施するとしても、いずれは全保険会社においてその規模、保険商品の複雑さ、事業内容、リスクプロファイルに応じて、定められたシナリオを使用することなども考慮すべきである。
12 NAICは、金融システム全体につながるリスク評価に、気候関連リスクを組み込むべきであり、特に、保険引受と投資に関するものを追加すべきである。
13 各州の保険監督者とNAICは、再保険の利用可能性について監視すること。また、保険会社の支払能力にどんな市場悪化や制約が悪影響をおよぼすか、を考慮すべきである。
14 NAICは監督者カレッジに、気候関連リスクの考慮を奨励すべきである。それがガイダンスの進化に資することにもなるだろう。
15 各州の保険監督者とNAICは、国家保険規制当局との連携を強化し、州議会や州の保証協会による、州の保証基金の潜在的な気候関連リスクの定量化を向上させるべきである。保険会社、保険契約者、州政府に対し、気候関連災害の潜在的なリスクについてより深く理解させるべきである。
16 各州の保険監督者とNAICは、市場動向やその成長度合いを監視し、気候関連リスクが将来どう影響するか公表するべきである。
17 NAIC、各州の監督者、保険業界、FIO、金融リテラシーおよび教育委員会(FLEC)さらにその他の関係者が協力して、「気候変動リスクとは何か、各個人の保険にどんな影響があるのか」などにつき、消費者教育や普及活動に注力するべきである。またその中には、気候変動に対し脆弱な市場を見極め、不動産の災害に対する減災対応をも含めるべきである。そのための官民パートナーシップも必要である。
18 各州の保険監督者とNAICは、既存の枠組みを利用して、保険会社が公平かつ効果的に保険金支払義務を果たしたかどうかについて、災害後調査をすべきである。
19 NAICと各州の保険監督者は、分析能力と対応が発展する中で、気候関連開示を改良する努力を支援すべきである。各州の保険監督は「NAIC気候リスク開示調査」に従って監視を続け、当初の調査目的がどの程度達成されているかをチェックする必要がある。
20 NAICは、定量的な財務への影響シナリオ分析、整合的な尺度と目標を数年毎に改定し、最終的に、
・保険会社が気候変動リスクを管理することの透明性
・対応方法の進化と脆弱性の把握
・保険業界に対し気候関連リスクがどのような影響を与えているか
を把握することが必要である。
3――今後のスケジュール等
・この報告書で指摘した気候関連の課題と現実とのギャップを各州の保険監督者がどのように監視し埋めていくか、
・それをNAICがどのようにみて取り纏めていくか、
・さらにはNAICや各州の取組みはもとより、他の国内外のステークホルダーとどのように協力していくか
といったテーマである、とのことである。引き続き、今後の動向を追ってみたい。
(2023年07月28日「基礎研レター」)

03-3512-1833
- 【職歴】
1987年 日本生命保険相互会社入社
・主計部、財務企画部、調査部、ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)(2007年‐2010年)を経て
2012年 ニッセイ基礎研究所
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
・日本証券アナリスト協会 検定会員
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