2023年07月25日

令和5年全国将来推計人口値を用いた全国認知症推計(全国版)-65歳以上の高齢者層がピークとなる2040年には46.3%が認知症の可能性、共生社会の実現を-

生活研究部 研究員・ジェロントロジー推進室・ヘルスケアリサーチセンター 兼任 乾 愛

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4――考察(推計結果を受けて)

今回の推計では、2020年に964万人、そこから年々増加の一途を辿り、2070年には2,828万人にまで到達する推計結果が明らかとなった。

この推計結果を、2015年調査の(各年齢の認知症有病率が2012年以降も上昇すると仮定した場合)認知症有病率推定数学モデルを用いて厚生労働省の全国調査により2012年の認知症数で補正した推計値と比較しても、2020年には333万人の乖離、2040年には560万人、2050年には866万人、1096万人、2060年には1284万人と大幅な乖離が示され、本推計結果は大幅に認知症数が多いと試算される結果となった。

この大幅な乖離の要因として、1)認知症推計に用いた65歳以上人口の違い、2)認知症有病率算出時の年齢階級区分などの推定手順の差異、3)2012年時点の医学的診断を伴う患者数で補正有無などが影響していると考えられる。

今回の推計に用いた将来推計人口(令和5年版)は、2020年(令和2年)の国勢調査の確定数を出発点とする新たな全国将来推計人口値であり、平成27年(2015年以降、以前の報告と表記)「日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究」で用いたられた全国将来推計人口値は、2010年の国勢調査の確定値に基づいた推計を、国立社会保障・人口問題研究所が2012年(平成24年)1月に公表した全国将来推計人口値を用いていることが影響していると考えられる。
図表5.認知症有病率推定数学モデルでの推定・厚生労働省の2012年認知症患者数で補正推定・今回新たに将来推計人口値を用いて推計した結果
実際に、この平成24年と令和5年の65歳以上人口の差異を確認すると、2030年で11万人、2040年で60万人、2050年で120万人の乖離が生じており、高齢者の年齢調整死亡率の低下13や平均寿命の延伸、国際人口移動仮説の効果14などにより、高齢者人口が大幅に増加したとする推計の見直しが影響し、2015年調査の認知症推計値よりも大幅に増加した今回の推計結果が示されたものと推定される。

次に、2015年調査で認知症有病率の算定に用いたられた糖尿病の増加頻度及び認知症有病率は5歳年齢階級別に算出している一方で、今回の推計では、新たに2060年以降の糖尿病頻度を算出する必要がある関係で、線形補完で2065年・2070の糖尿病頻度を算出し、1歳年齢階級別で算出した認知症有病率を、中央値を用いて5歳年齢階級別に再編していることから、これらの推定手順の違いが値に影響を及ぼしている可能性がある。

続いて、以前の推計では厚生労働省の全国調査の結果から、2012年時点における認知症数462万人に認知症有病率を当てはめている点も影響している可能性が否定できない。実際の認知症の診断には、問診や身体検査、画像検査に神経学的検査を実施され、脳の萎縮の状態や認知機能検査、日常生活動作検査などが必要となり、せん妄や健忘性障害、精神遅滞や統合失調症など区別すべき病態も多数存在する。これらの検査を経て実際に認知症と診断に至った人数に有病率を当てはめた場合には潜在的な患者数が反映されていないことが考えられ、過去の推定では実際よりも過小見積もりとなる可能性が生じる。

いずれにしても、今回の推計では新たな全国将来推計人口値を用いたことで、65歳以上の高齢者層の増加及び年齢調整死亡率の低下を加味した上で、糖尿病頻度が上昇すると仮定した理論値としては新たに推定されたはじめての結果となる。今回の認知症有病率の推計結果が示すように、認知症と診断されている患者数よりも、実際にはより多くの認知症の方が存在している可能性が懸念される。

また、2040年には65歳以上の高齢者層が3928万人とピークを迎える中で、認知症数が1819万人に到達する結果が新たに推定されている。これは、65歳以上の高齢者の46.3%を占める割合となり、もはや無視できない疾患となるばかりか、早急な対策を講じる時期にきていることを示唆している。

(今回の推計値はあくまでも理論値のため、実際に診断に至る認知症数は少ないと考えられる。)

2023年6月14日には、共生社会の実現を推進するための認知症基本法案が参議院で可決され15、急速な高齢化の進展に伴い認知症の人が尊厳を保持しつつ社会の一員として尊重される社会の実現を図るため、国に認知症推進基本計画の策定を義務付け、自治体の計画策定や公共交通機関などにおける合理的な配慮を努力義務とすることが明記された。6月21日には岸田首相が、「認知症で新たな国家プロジェクト」に取り組む姿勢を表明した16。翌日の6月22日には、警察庁から認知症で行方不明になったとする届け出が、昨年より1,073人増加し、延べ1万8709人とこれまでの最多を更新したと公表された17。認知症を巡る動向が活発化しており、これらを契機に(土台にして)、認知症は誰もがなる可能性のある状態との認識を広く国民がもち、支え合う社会を構築することが今求められているのではないだろうか。

今回は、全国の将来推計人口値を用いた認知症の推計を実施したが、次稿からは、地域(エリア)ごとの人口推計値を基に認知症数の推移を推定する予定である。これらをもとに地方自治体は認知症に関わる施策の見直しや予算配分見通しなど効果的な施策展開に着手するための基礎資料として活用いただきたい。
 
13 内閣府(2022年)令和4年高齢社会白書(全体版),第1章高齢化の状況(第1節,5高齢化の要因)(1)年齢調整死亡率の低下による65歳以上人口の増加
 https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2022/html/zenbun/s1_1_5.html
14 国立社会保障・人口問題研究所(2023年)「日本の将来推計人口(令和5年推計)結果の概要,p11,p15」参照 https://www.ipss.go.jp/pp-zenkoku/j/zenkoku2023/pp2023_gaiyou.pdf
15「共生社会の実現を推進するための認知症基本法案」 
 https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/houan/g21105024.htm
16 日本経済新聞「岸田首相「認知症で新たな国家プロジェクト」 会見要旨」(2023年6月21日)https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA2151G0R20C23A6000000/
17 NHKWEB「去年 認知症などの行方不明者 全国で延べ1万8700人余 過去最多」(2023年6月22日)https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230622/k10014106641000.html 

5――まとめ

5――まとめ

本稿では、超高齢社会を迎える日本において切り離せない「認知症」数の推移について、国立社会保障・人口問題研究所の令和5年全国将来推計人口値と、加齢に伴う糖尿病頻度を考慮した認知症有病率推定数学モデルを用いて、2020年から2070年における年次別、男女別、5歳年齢階級別の認知症数の推計を試みた。

その結果、認知症総数は2020年に964万人であったのが、2070年には2,828万人へ増加、2020年から2070年の50年間で、男女とも約3倍ほど認知症総数が増加することが見込まれ、将来推計人口値では2040年に高齢者総数のピークを迎えその後減少するものの、5歳年齢階級別の認知症推計では、2040年以降も一貫して90歳以上の年齢層においての認知症有病率の増大傾向が認められる結果が明らかとなった。

また、本推計において2040年には65歳以上の高齢者層の46.3%が認知症となる可能性が予測された。(今回の推計値はあくまでも理論値のため、実際に診断に至る人数は少ないことに留意)

共生社会の実現を推進するための認知症基本法案の成立を契機に、認知症に起因する行方不明者の対策や孤立化、高齢者虐待やセルフネグレクトなど山積する課題に対し、効果的な施策を展開する時期に来ていると言える。

次稿では、地域(エリア)ごとの将来推計人口値に基づく認知症数の推定を試みる予定である。
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生活研究部   研究員・ジェロントロジー推進室・ヘルスケアリサーチセンター 兼任

乾 愛 (いぬい めぐみ)

研究・専門分野
母子保健・高齢社会・健康・医療・ヘルスケア

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