2023年07月07日

リファラル採用が、じわり浸透中

基礎研REPORT(冊子版)7月号[vol.316]

総合政策研究部 主任研究員 小原 一隆

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1―はじめに

昨今の人手不足を背景に、中途採用が増えつつある。日本経済新聞の調査によれば、主要企業の2023年度の採用計画における中途採用の比率は37%と過去最高となった。多くの日本企業が人材獲得競争を行う中、新たな求人手段として、リファラル採用が注目を集めている。

2―リファラル採用とは何か

リファラル採用は、自社の従業員による紹介を通じた採用方法を指す。欧米ではかねて盛んに実施されているが、近年国内の企業でも注目されている。

企業側の利点は、まず、広告宣伝費、転職エージェントへのフィー等が抑制でき、費用対効果が高い。次に、社風に合致し、所要スキルや経験を有する可能性が高い、より優れた候補者と接点が持てる。更に、紹介者が選別済の為、候補者絞り込み、評価、面接の時間圧縮で、採用プロセスが迅速化する。加えて、採用のミスマッチを回避し易く、早期の離職が発生し難い為、定着率の向上に資する。この様に、優れた採用手法と言える。

3―リファラル採用を導入した企業

日立製作所や富士通等といった大企業の他、多くの中堅中小企業、新興企業においても導入されている。

金融機関については、3メガバンクや一部地方銀行等で導入済だ。

三井住友銀行では、応募者(被紹介者)のメリットを「Webや口コミでは得られない、社風・価値観、職場風土、仕事の進め方といった情報が得られます」と説明する[図表1]。

これは逆も同様で、選考側も、履歴書や通常の面談からは得られない、被紹介者の価値観、性格、エピソード等、社風に適合するのか、期待される活躍が出来るか等に関する手掛りを得られる。

尚、生命保険業の営業職員の採用等では、既存の営業職員がその友人や知人、家族等を紹介して採用に至ることが多く、その場合はリファラル採用と解せよう。
[図表1]三井住友銀行のリファラル採用のプロセス

4―紹介者に支払う金銭

前述の富士通は、紹介者への紹介料は10万円とのことだが、募集する職務や職位によって差はあるかもしれない。

また、採用時の平均コストは中途採用で103万円(新卒94万円)であるが、このコストの内訳は、外部への支払いが多くを占める為、リファラル採用だとその分コスト削減が可能だ。

米国では候補者が採用に至ると、報酬の多くは金銭の支払いでなされ、その金額は1,000米ドル(約13万円)から2,499米ドル(約32万円)であった。

5―留意すべき点

1|法令順守
日本の職業安定法上、原則として企業は紹介者に対する報酬の支払いは許されていない。但し、賃金として支払う場合は例外となる。従って、関連する法令等を事前に確認し、社内規程の適切な整備の必要がある点に注意せねばならない。
2|従業員エンゲージメント
日本企業の従業員エンゲージメントは世界有数の低さである。低エンゲージメントの人が、友人・知人を紹介するとは考え難く、多くの企業で改善が必要だ。
3|ダイバーシティ採用
リファラル採用に偏重すると、採用の多様性の点で問題との指摘もある。多様性が損なわれると、イノベーションが起き難くなるという議論はよく目にする。
4|紹介者と候補者との関係性
米国のコールセンター従業員に関する米バーナード大学他による研究では、強い繋がりの方が良い採用になり易かった為、企業は紹介者と被紹介者の関係の程度を把握して採用に臨むべきと結論づけた。一方でスタンフォード大学他の研究では、適度に弱い繋がりの方が、デジタルやハイテク分野での労働市場の流動性が高まり、その後の仕事の成果も良好という結果だった。

よって、リファラル採用において、紹介者・被紹介者間の繋がりの強さによる差は一概には言えず、業界や職務の特性によるのかもしれない。

6―おわりに

今後、新卒一括採用方式という慣習徐々に変化していき、既卒者、そして中途採用の割合も増えるだろう[図表2]。リファラル採用はより存在感を増すと考えられる。導入済の企業は、意図しようとせざると、起こりつつある労働市場の変革への対応を先んじて行っているように見える。
[図表2]日本の転職者の推移
 
* 参考文献等は「リファラル採用が、じわり浸透中」(研究員の眼、2023年4月27日)を参照。
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総合政策研究部   主任研究員

小原 一隆 (こばら かずたか)

研究・専門分野
経済政策・人的資本

経歴
  • 【職歴】
     1996年 日本生命保険相互会社入社
          主に資産運用部門にて融資関連部署を歴任
         (海外プロジェクトファイナンス、国内企業向け貸付等)
     2022年 株式会社ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
    ・公益社団法人日本証券アナリスト協会

(2023年07月07日「基礎研マンスリー」)

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