2023年06月22日

日銀短観(6月調査)予測~大企業製造業の業況判断DIは5ポイント上昇の6と予想、物価関連項目に注目

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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6月短観予測:製造業の景況感が底入れ、非製造業は堅調維持

(大企業製造業の景況感は7四半期ぶりに改善へ) 
7月3日に公表される日銀短観6月調査では、製造業における景況感の底入れが確認されそうだ。大企業製造業では供給制約の緩和に伴う生産の回復を主因として、業況判断DIが6と前回3月調査から5ポイント上昇すると予想している(図表1)。この場合、景況感の改善は2021年9月調査以来7四半期ぶりということになる。また、大企業非製造業では、新型コロナ感染症の5類への移行等に伴うサービス需要の持ち直しやインバウンド需要の回復を受けて、業況判断DIが23と前回から3ポイント上昇し、5四半期連続での景況感回復が示されると見込んでいる。
 
ちなみに、前回3月調査1では、原燃料価格が高止まるなか、海外需要の落ち込みや世界的な半導体市場の悪化、長引く供給制約などが響き、大企業製造業の景況感が悪化していた。一方、非製造業では、水際対策の緩和などを受けて経済活動再開の流れが続いたことで景況感が改善していた(図表2・3)。
(図表2)前回調査までの業況判断DI/(図表3)主な業種の業況判断DI(大企業)
前回調査以降は、輸出の伸び悩みこそ続いているものの、自動車領域での供給制約緩和や原材料高の一服など一部で前向きな材料も見受けられ、大企業製造業では景況感が改善に転じると見ている。特に自動車は産業の裾野が広いだけに、その生産回復は幅広い業種に好影響をもたらす。前回調査以降に円安が進んだことも、輸出割合の高い加工業種では輸出採算の改善などを通じて景況感の追い風になったと考えられる。

非製造業については、引き続き物価高による消費者マインドへの悪影響や強まる人手不足感が景況感の重荷となったものの、新型コロナウイルス感染症の5類への移行等に伴うサービス需要の持ち直しやインバウンド需要の回復を受けて、景況感の改善基調が維持されていると見込んでいる(図表4~7)。
 
中小企業の業況判断DIは、製造業が前回から4ポイント上昇の▲2、非製造業が3ポイント上昇の11と予想している(表紙図表1)。大企業同様、製造業・非製造業ともに景況感が改善すると見込んでいる。
(図表4)生産・輸出・消費の動向/(図表5)鉱工業生産の動向(実績・予測)
(図表6)国内延べ宿泊者数の動向/(図表7)ドル円と輸入物価の動向
先行きの景況感については総じて小幅な悪化が示されると予想している(図表1)。もともと、短観においては、足元の景況感が改善する際には、先行きにかけて弱含みやすいという統計上のクセがある。また、そうした事情を除いたとしても、製造業では利上げに伴う欧米経済の悪化や中国経済の回復の遅れ、米中対立、原材料価格の再上昇などへの警戒感が先行きにかけてのマインドを圧迫しそうだ。一方で、自動車の挽回生産への期待が支えになるだろう。

非製造業でも、原材料価格の再上昇に加え、物価高に伴う国内消費の下振れや人手不足の深刻化などへの警戒感から、先行きに対する慎重な見方が台頭しやすいだろう。
 
1 前回3月調査の基準日は3月13日、今回6月調査の基準日は6月13日(基準日までに約7割が回答するとされる)。
(設備投資計画は堅調を維持)
2022年度の設備投資計画(全規模全産業)は、前年比7.6%増と6月調査(実績)としては2006年度(前年比9.4%増)以来の高い伸びが示され、前年度から大幅に持ち直すとの計画が維持されると予想している(図表8~10)。

ただし、3月調査(実績見込み)からの修正幅は▲3.8%ポイントと例年2よりも下方修正がやや大きめになると見ている。もともと6月調査(実績)では大企業を中心に下方修正が入り、全体としても下方修正される傾向があるが、足元では既往の資源高や円安によって資材価格が高い水準にあり、投資を先送りする動きが一定程度想定されるうえ、人手不足による工期の遅れという問題もあるためだ。
 
また、2023年度の設備投資計画(全規模全産業)は、2022年度実績比で10.7%増と前回3月調査(3.9%増)から大きく上方修正されると予想。上方修正幅は6.8%ポイントと例年3をやや上回ると見ている。

例年6月調査では年度計画が固まってきて投資額が上乗せされる傾向が強いうえ、既述の通り、前年度からの先送り分もやや大きめになると予想される。また、資材価格や人件費の上昇を受けて、投資額が嵩みやすくなっている面も押し上げ材料になる4。ただし、実態としても、既往の収益回復を受けた投資余力の改善、経済活動の再開、脱炭素・DX・省力化・サプライチェーンの再構築等に伴う投資需要を背景とした堅調な投資意欲を反映したものと言えそうだ。
(図表8)設備投資関連指標の動向/(図表9)設備投資計画推移(全規模全産業)
(図表10)設備投資計画の予測表
 
2 2012~21年度における6月調査での修正幅は平均で▲1.9%ポイント
3 2013~22年度における6月調査での修正幅は平均で+6.3%ポイント
4 GDP統計における設備投資デフレーター(四半期次)は昨年以降、前年比3~4%台で推移。
(注目ポイント:販売価格判断DIと企業の物価見通し)
今回の短観において、景況感や設備投資計画以外で特に注目されるのは二つの物価関連項目だ。

まず一つ目としては「販売価格判断DI」が挙げられる(図表11)。同DIは企業による値上げの勢い(モメンタム)を示すもので、前回調査にかけては既往の輸入物価上昇等に伴う仕入れコスト増加分の活発な転嫁の動きを反映して高止まりしていた。今回、企業において、先行き(3か月後)にかけてどの程度の販売価格引き上げが見込まれているのかという点は、当面の物価上昇率の動きを見通すうえで重要な手がかりとなる。

次に、二つ目として「企業の物価見通し」も重要性が高い。企業の予想物価上昇率である当項目は昨年以降上昇基調にあり、前回調査では、1年後・3年後・5年後ともに物価目標である前年比2%を上回った(図表12)。特に中長期の物価見通しは企業の賃金・価格設定に与える影響が大きいと考えられるため、物価上昇の持続性を考えるうえで注目される。
(図表11)仕入・販売価格DI(全規模)/(図表12)企業の物価見通し(全規模)
(政策修正を促す材料になるか)
今回の短観では、景況感の幅広い改善や堅調な設備投資計画、価格転嫁の継続や予想物価上昇率の高止まりが示される可能性が高いと見ている。そして、その場合は日銀による政策修正を後押しする材料になり得る。

より厳密には、日銀は賃金や物価について「不確実性が高い」との判断を維持しており、その動向を見定める姿勢を強調していることから、いずれにせよ、早期に正常化を推し進める可能性は低い。しかしながら、短観の内容も含め、好材料がある程度出てくれば、金融緩和の副作用を和らげるために金融緩和の手を多少緩めるとの判断に傾きやすくなるだろう。
 
一方、昨年末の政策修正(長期金利操作目標の上限引き上げ)の主因となったイールドカーブの歪みは足元で解消されているうえ、政策修正の障害となる米国の利下げ開始までには少なくとも半年以上の時間がかかるとみられるため、日銀が政策修正を急ぐ必要性は低下している。従って、日銀が政策修正に踏み切るにはもうしばらく時間がかかると予想している。
 
 

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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

(2023年06月22日「Weekly エコノミスト・レター」)

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