2023年06月12日

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(2)「居住地基準」の「テレワーカー率」
「居住地基準」の「テレワーカー率」は、「渋谷区」(50.7%)が最も高く、次いで、「中央区」(50.6%)、「港区」(49.9%)、「千代田区」(49.4%)、「川崎市中原区」(49.4%)の順となっている(図表-8)。「テレワーカー率」が40%を上回った市区町村数は「58」であるが、いずれも首都圏であった(東京23区:22、東京都下:11、神奈川県:15、千葉県:3、埼玉県:3)。一方、三大都市圏以外では、テレワーカー率「15%~20%」が9割以上を占めた(参考資料1・上段)。
図表-8 首都圏の市区町村別「テレワーカー率」(居住地基準・40%以上)
図表-9は、首都圏における市区町村別「居住地基準」の「テレワーカー率」を示したものである。テレワーカー率は、東京都の中心部が高く、周辺部から郊外部に向かうにつれて低下する傾向が確認できる。また、「テレワーカー率」が40%を超える市区町村は、東京駅からおおよそ40km圏内に所在している。
図表-9 首都圏の市区町村別「テレワーカー率」(居住地基準)
ところで、「テレワーカー率」に居住する雇用者を乗じた「テレワーク人口」の多い地域は、サードプレイスオフィスの利用ニーズが潜在的に高いと考えられる。

「居住地基準」の「テレワーク人口」は、東京23区で最も人口が多い「世田谷区」(15.9万人)が最も多く、次いで、「大田区」(13.3万人)、「練馬区」(12.4万人)、「江戸川区」(10.9万人)の順となっている(図表-10)。「テレワーク人口」が5万人を超える市区町村数は「30」であった(東京23区:14、東京都下:2、神奈川県:6、千葉県:4、埼玉県:2、兵庫県:2)。

ザイマックス不動産総合研究所「フレキシブルオフィス市場調査2023」によれば、東京23区内所在するフレキシブルオフィスのうち、総拠点数の66%、総面積の84%が都心5区に集中しているとのことである。以上のことを鑑みると、テレワーク人口の多い首都圏の周辺部・郊外部では、サードプレイスオフィスの新規出店余地が十分にあると考えられ
図表-10 市区町村別「テレワーク人口」(居住地基準・5万人以上) 
(3)「就業地基準」の「テレワーカー率」
「就業地基準」の「テレワーカー率」は、「港区」(57.6%)が最も高く、次いで、「千代田区」(55.5%)、「品川区」(54.1%)、「渋谷区」(53.3%)、「中央区」(50.4%)、「新宿区」(50.1%)の順となっている(図表-11)。「テレワーカー率」が40%を上回った市区町村は、東京23区の16区のほか、東京都下では「多摩市」と「国分寺市」、神奈川県では、「川崎市中原区」・「川崎市幸区」・「横浜西区」・「横浜市港北区」・「中井町」・「開成町」、埼玉県では、「さいたま市浦和区」・「和光市」・「蕨市」であった(図表11、12)。

ところで、「就業地基準」の「テレワーカー率」の高い地域は、「テレワーク」を取り入れたハイブリッドな働き方やワークプレイスの見直しが進む可能性が高いと考えられる。「テレワーク」の課題として、「コミュニケーション」を指摘する企業は多い。「従業員がコミュニケーションを図り共創する場」としてのオフィスの重要性が再認識されるなか、オープンなミーティングスペースや、web 会議用スペースを充実させる企業が増えている。テレワーカー率の高い地域に所在するオフィスビルでは、「Wellbeing」への配慮や従業員間のコミュニケーション促進に向けた環境整備がより一層求められよう。また、東京都心部ではハイブリッドな働き方に対応したオフィス戦略の見直しが進むが、上記の市区町村でもこうした動きが波及する可能性がありそうだ。
図表-11 首都圏の市区町村別「テレワーカー率」(就業地基準・40%以上)
図表-12 首都圏の市区町村別「テレワーカー率」(就業地基準)

4. おわりに

4. おわりに

本稿では、国土交通省「テレワーク人口実態調査」と総務省「国勢調査」を用いて、市区町村別「テレワーカー率」を推計した。

公益財団法人日本生産性本部「働く人の意識に関する調査」によれば、「コロナ禍収束後もテレワークを行いたいか」という質問に対して、テレワークを行いたい意向(「そう思う」と「どちらか言えばそう思う」の合計)は、62%(2020 年5 月)から85%(2023 年1 月)へ大幅に増加した。長い通勤時間を回避できることや、家族との時間が増えた等のメリットから、今後もテレワークを取り入れたワークスタイルを希望する就業者が増加している。また、企業は、労働力確保の観点から就業者や就業形態の多様化に取り組むなか、柔軟で多様な働き方を可能とするテレワークは更に普及する可能性がある。

以上のことを鑑みると、サードプレイスオフィスの新規出店、あるいはハイブリッドな働き方に対応したオフィス環境の整備は、本稿で示した地域以外にも広がることが考えられる。

一方、新型コロナウィルス感染症が5類感染症に移行したことに伴い、コロナ禍前のオフィス勤務へ回帰する動きもみられる5。今後のオフィス市場の見通しをたてる上で、引き続きテレワークの動向を注視する必要がありそうだ。
 
5 日本経済新聞「コロナ5類で出社回帰 企業「方針変更」4割対面の重要性再認識 在宅とのバランス模索」2023/5/9

 
(参考資料1)市区町村別「テレワーカー率」の分布
(参考資料2) 東京23区「テレワーク人口」および「テレワーカー率」
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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

(2023年06月12日「不動産投資レポート」)

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【市区町村別「テレワーカー率」の推計(2023年)】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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