2023年06月12日

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1. はじめに

国土交通省「テレワーク人口実態調査」によれば、全国の「テレワーク率(テレワーカー1数÷雇用者数)」は、2019年まで15%前後で推移していたが、コロナ禍においてテレワークが急速に普及した結果、2022年には26.1%に上昇した(図表-1)。コロナ禍終息後も、従来の100%出社へ回帰する企業は一部に留まり、「テレワーク」と「オフィス勤務」を組み合わせたハイブリッドな働き方の定着が想定されるなか、ワークプレイスの見直しに着手する企業が増加している。

また、通勤時間の削減や自宅でのテレワークが困難等の理由から、自宅近くのサードプレイスオフィスを利用する人が増加している。コロナ禍以降、全国的にオフィス需要が停滞し、空室率の上昇が続くなか、オフィス市場におけるサードプレイスオフィスの存在感が高まっている。

今後、「どの地域において、ハイブリッドな働き方を前提としたワークプレイスの見直しが進むのか」、あるいは、「どの地域において、サードプレイスオフィスの需要が高まるのか」を考察するにあたり、地域毎のテレワークの実態を把握することは重要だと考えられる。

そこで、本稿では、国土交通省「テレワーク人口実態調査」と総務省「国勢調査」を用いて、市区町村別「テレワーカー率」を推計する。
図表-1 全国の「テレワーク率」の推移
 
1 本稿では、「テレワーク人口実態調査」の定義に従い、「テレワーカー」は、「ICT等を活用し、普段仕事を行う事業所・仕事場とは違う場所で仕事をしたことある人」とする。また、「雇用型テレワーカー」(民間企業、官公庁等に、正社員やアルバイト等で就業しており、テレワークを実施している人)を対象とする。

2. テレワークの実施状況

2. テレワークの実施状況

本章では、国土交通省「テレワーク人口実態調査」をもとに、(1)業種別、(2)年齢帯別、(3)企業規模別、(4)通勤時間帯別、(5)都市圏別にみた、テレワーク率(2022年)を確認する。

まず、業種別では、「情報通信業」(74.1%)が最も高く、次いで「学術研究、専門・技術サービス業」(54.0%)、「金融・保険業」(45.2%)の順に高くなっている(図表-2)。これに対して、主に対面での接客業務や医事業務を行う「宿泊業・飲食業」(7.4%)や「医療、福祉」(6.3%)は1ケタ台の水準に留まり、業種によって最大で10倍程度の格差が生じている。
図表-2 業種別「テレワーク率」(2022年)
次に、年齢帯別では、「15-29歳」(29.3%)が最も高く、「60歳以上」(21.6%)が最も低い水準となっている(図表-3)。若い年齢帯ほどテレワーク率が高い傾向にあるものの、前述の業種別と比べて年齢帯による格差は大きくないようだ。
図表-3 年齢帯別「テレワーク率」(2022年)
続いて、企業規模別では、「従業員が1000人以上の企業」(36.7%)が最も高く、「従業員が1人~19人の企業」(15.4%)が最も低い水準となっている(図表-4)。企業規模が大きくなるほどテレワーク率が高い傾向にあり、企業規模によって最大で2倍程度の格差が生じている。

また、通勤時間別では、「1時間30分以上」(54.3%)が最も高く、「30分未満」(13.5%)が最も低い水準となっている(図表-5)。通勤時間が長いほどテレワーク率が高い傾向にあり、最大で3倍程度の格差が生じている。
図表-4 企業規模別「テレワーク率」(2022年)/図表-5 通勤時間別「テレワーク率」(2022年)
最後に、都市圏2別では、居住地基準、就業地基準ともに「首都圏」が最も高く、次いで、「近畿圏」、「中京圏」、「地方都市圏」の順に高くなっている(図表-6)。「首都圏」は、規模の大きい企業が集積し、通勤圏も広範囲にわたることから、テレワークの実施が進んでいると考えられる。また、コロナ禍が拡大した2020年以降、「首都圏」と他の都市圏の格差が拡大している。
図表-6都市圏別「テレワーク率」の推移
 
2 首都圏:「東京都」・「埼玉県」・「千葉県」・「神奈川県」、中京圏:「愛知県」・「岐阜県」・「三重県」、近畿圏;「京都府」・「大阪府」・「兵庫県」・「奈良県」、地方都市圏;上記以外の道県

3. 市区町村別テレワーカー率の推計

3. 市区町村別テレワーカー率の推計

3-1. 推計方法
本章では、国土交通省「テレワーク人口実態調査」と総務省「国勢調査」を用いて、市区町村別「テレワーカー率」を推計する。

前述の通り、「テレワーク人口実態調査」では「年齢帯別」と「業種別」に、テレワーク率を集計している。これをもとに、「年齢帯別」・「業種別」のテレワーク率を推計する。例えば、「40~49歳」のテレワーク率(26.7%)と「情報通信業」のテレワーク率(74.1%)の積を全雇用者のテレワーク率(26.1%)で除した値が、「40~49歳」・「情報通信業」のテレワーク率(76.4%)となる。

こうして得られた値に、「国勢調査」における市区町村別の「年齢帯別」・「業種別」雇用者数3を乗じることで,市区町村別テレワーカー数を推計する。

また、テレワーク率は都市圏により格差がある。そこで、「都市圏別補正係数 」を算出し、上記の通り推計した市区町村別テレワーカー数に乗じる。この値を雇用者数で除すことで、市区町村別のテレワーカー率を算出する。

本稿では、(1)「居住地基準」と、(2)「就業地基準」毎に、市区町村別テレワーカー率を推計する。東京都千代田区を例に挙げると、(1)「居住地基準」のテレワーカー率は、千代田区に居住する雇用者がテレワークを実施している割合を表し、(2)「就業地基準」のテレワーカー率は、千代田区で働く雇用者がテレワークを実施している割合を表す。
 
3 「居住地」および「就業地」基準で集計した雇用者数
4 都市圏別補正係数=(上記の市区町村別のテレワーカー数推計値)÷(雇用数×都市圏のテレワーク率)
3-2. 推計結果
(1)概要
市区町村別テレワーカー率の推定結果(分布)を図表-7に示した。市区町村別テレワーカー率の中央値は、「居住地基準」で18.4%、「就業地基準」で17.9%となった。また、テレワーカー率が「15%~20%」の市区町村数は、「居住地基準」で「1,256」、「就業地基準」で「1,143」となり、市区町村数全体「1,896」の6割以上を占めた。

2017年5月に閣議決定された「世界先端IT国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」において、「2020年までに雇用者のうち、テレワーク制度等に雇用型テレワーカーの割合を、2016年度比(7.7%)で倍増」との目標(テレワーク普及におけるKPI)を定めている。この目標値(15.4%)を上回った市区町村数は、「居住地基準」で「1,822」(全体の96%)、「就業地基準」で「1,653」(同86%)となった。新型コロナウィルス感染拡大への対応等で、「テレワーク」が急速に普及したことで、多くの市区町村が当初設定のテレワーク導入目標を達成したことになる。
図表-7 市区町村別「テレワーカー率」(市区町村数:1,896)
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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

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【市区町村別「テレワーカー率」の推計(2023年)】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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