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- 全国旅行支援の経済効果に対する評価と課題
2023年06月07日
1――はじめに
Covid-19の拡大により、経済活動は大きな影響を受けた。この状況に対して、種々の経済政策が実施されてきた。Covid-19の感染状況は予想がつかず、実施可能な政策を総動員することで、混乱した状況を乗り越えてきた。2023年5月8日から、Covid-19は感染症法上の分類で5類となり、経済・社会活動はCovid-19以前の状況を模索している。
このように新たな局面入りで求められるのは、Covid-19に対する医療や経済等への政策対応に関するレビューである。特に、経済対策では総動員の対応をしてきたが、個々の政策効果を検証する必要がある。Covid-19は1918年のスペイン風邪以来の伝染病の世界的な大流行(いわゆるパンデミック)である。今後とも、こうした伝染病の拡大が想定しない形で起こる可能性は否定できない。いつ起きるのか想定できないがゆえに、感染症の対策の適否について整理しておくことは重要である。
本論では、旅行需要喚起策として実施されてきた旅行支援策(Go To トラベル、県民割及び全国旅行支援)の効果と課題について検証する。
以下では、次節で旅行支援策を整理した上で、3節では旅行支援策の実施判断の適否をその評価基準から確認する。4節で旅行支援策に類似する政策に関する先行研究をみたうえで、5節では宿泊料割引の効果、6節では地域クーポンの効果を検証する。最後に、7節で旅行支援策を総合的に評価した上で、今後の課題について検討する。
このように新たな局面入りで求められるのは、Covid-19に対する医療や経済等への政策対応に関するレビューである。特に、経済対策では総動員の対応をしてきたが、個々の政策効果を検証する必要がある。Covid-19は1918年のスペイン風邪以来の伝染病の世界的な大流行(いわゆるパンデミック)である。今後とも、こうした伝染病の拡大が想定しない形で起こる可能性は否定できない。いつ起きるのか想定できないがゆえに、感染症の対策の適否について整理しておくことは重要である。
本論では、旅行需要喚起策として実施されてきた旅行支援策(Go To トラベル、県民割及び全国旅行支援)の効果と課題について検証する。
以下では、次節で旅行支援策を整理した上で、3節では旅行支援策の実施判断の適否をその評価基準から確認する。4節で旅行支援策に類似する政策に関する先行研究をみたうえで、5節では宿泊料割引の効果、6節では地域クーポンの効果を検証する。最後に、7節で旅行支援策を総合的に評価した上で、今後の課題について検討する。
しかしながら、2020年11月に入り、Covid-19感染者数が再び増加しはじめ、札幌市、大阪市、東京都及び広島市を目的地とする旅行の一時停止と、当該地域に居住する方の旅行の自粛が求められた。その後、年末年始の利用停止が公表され(2020年12月14日)、2021年1月7日の緊急事態宣言により、Go To トラベルは停止された。2023年5月末時点においてもGo To トラベルは2020年12月28日から停止されたままである。
その後、2021年11月19日に「新たなGo To トラベル」の計画が公表され、宿泊料の30%割引と割引率を縮小し、地域共通クーポンは平日3,000円、休日1,000円とした。しかしながら、Covid-19の感染状況が改善せず、実施されていない。
(地域観光事業支援)
Go To トラベルが停止された後、その残った予算を財源に、2021年4月1日より「地域観光事業支援」(以下、県民割)として県単位でその域内の旅行について同一域内に居住の方への支援が始められた。制度設計は全て都道府県において決定され、国からの支援金は1人泊当り5,000円かつ商品代金の50%を上限とされ、地域内限定のクーポン券は1人当たり2,000円とされた。都道府県の一部では、国からの支援金に上乗せする形で実施した地域もある。ただし、県民割は新型コロナウイルス感染症対策分科会が策定した基準でステージⅡ相当以下と判断した都道府県においてのみ実施される。このように、Go To トラベルと異なり、実施主体は国から都道府県に変更された。
また、実施期間は当初2021年5月末とされたが、その後順次延長された。2021年11月19日の「ワクチン・検査パッケージ」を活用した行動制限の緩和により、旅行対象地域についてが「隣県」に拡大され、さらに2022年4月から同一の地域ブロックにある都道府県に対象地域が拡大された。県民割は2022年10月10日まで続けられた。
(全国旅行支援)
「全国旅行支援」は県民割の対象地域を全国に拡大する形で、2022年10月11日から12月27日まで実施されることとなった。全国旅行支援では旅行代金の40%相当部分で上限が交通付きで8,000円、その他で5,000円とGo To トラベルより1旅行あたりの支援額は縮小されている。
その後、2023年1月以降も延長され、2023年1月10日から再開された。実施期間は2023年3月末とされているが、各都道府県の予算が無くなり次第終了することとされ、都道府県により期間が異なることとなる。ただし、支援額は縮小され、旅行代金から20%割引相当分で、1人1泊あたりの上限は交通付き旅行商品5,000円、その他3,000円とされている。
さらに、予算が残っている都道府県については、予算を使い切ることを目的に、2023年6月末まで延期されている3。
3 多くの地域は6月30日を利用期限に設定している。しかし、北海道、山口県7月14日、福井県・沖縄県7月20日、青森県、宮城県7月21日と期限を長く設定している地域もある。
その後、2021年11月19日に「新たなGo To トラベル」の計画が公表され、宿泊料の30%割引と割引率を縮小し、地域共通クーポンは平日3,000円、休日1,000円とした。しかしながら、Covid-19の感染状況が改善せず、実施されていない。
(地域観光事業支援)
Go To トラベルが停止された後、その残った予算を財源に、2021年4月1日より「地域観光事業支援」(以下、県民割)として県単位でその域内の旅行について同一域内に居住の方への支援が始められた。制度設計は全て都道府県において決定され、国からの支援金は1人泊当り5,000円かつ商品代金の50%を上限とされ、地域内限定のクーポン券は1人当たり2,000円とされた。都道府県の一部では、国からの支援金に上乗せする形で実施した地域もある。ただし、県民割は新型コロナウイルス感染症対策分科会が策定した基準でステージⅡ相当以下と判断した都道府県においてのみ実施される。このように、Go To トラベルと異なり、実施主体は国から都道府県に変更された。
また、実施期間は当初2021年5月末とされたが、その後順次延長された。2021年11月19日の「ワクチン・検査パッケージ」を活用した行動制限の緩和により、旅行対象地域についてが「隣県」に拡大され、さらに2022年4月から同一の地域ブロックにある都道府県に対象地域が拡大された。県民割は2022年10月10日まで続けられた。
(全国旅行支援)
「全国旅行支援」は県民割の対象地域を全国に拡大する形で、2022年10月11日から12月27日まで実施されることとなった。全国旅行支援では旅行代金の40%相当部分で上限が交通付きで8,000円、その他で5,000円とGo To トラベルより1旅行あたりの支援額は縮小されている。
その後、2023年1月以降も延長され、2023年1月10日から再開された。実施期間は2023年3月末とされているが、各都道府県の予算が無くなり次第終了することとされ、都道府県により期間が異なることとなる。ただし、支援額は縮小され、旅行代金から20%割引相当分で、1人1泊あたりの上限は交通付き旅行商品5,000円、その他3,000円とされている。
さらに、予算が残っている都道府県については、予算を使い切ることを目的に、2023年6月末まで延期されている3。
3 多くの地域は6月30日を利用期限に設定している。しかし、北海道、山口県7月14日、福井県・沖縄県7月20日、青森県、宮城県7月21日と期限を長く設定している地域もある。
2.2|実施要件
Go To トラベルは政府が主体となって進められ、感染ステージがその実施判断の基準とされていた。実際、ステージIIIと判断された地域が除外される等、停止基準は明確であった。
県民割は、実施主体は都道府県であるものの、ステージII以下の地域であることが、国からの支援の条件とされた。観光庁によれば、支援の配分は事業開始当初は、予算の2割を旅行会社や宿泊施設の前年販売実績に基づき配分し、残りの8割を事業者の販売計画を基に割り当てるとされている。しかしながら、具体的な配分額などは公表されていない。
県民割については、観光庁から文書(2021年3月26日公表)で停止基準が示されている。停止基準は、(1)事業実施県の知事がステージIII相当以上と判断した場合、(2)事業実施県が緊急事態宣言の対象となった場合とされている。その後、新型コロナウイルス感染症対策本部(2022年1月19日)において基本的対処方針が変更され、ワクチン・検査パッケージ制度が導入された。旅行支援には即座に導入されず、停止基準として新たに、(3)事業実施県がまん延防止等重点措置を実施すべき区域とされた場合、が加えられた。
全国旅行支援は、県民割の対象地域を段階的に緩和されてきたものであり、実施主体は県民割と同様に都道府県であり、停止基準は県民割のルールがそのまま引き継がれたとみられる。ただし、全国旅行支援については、実施主体及び、停止基準に関する資料は公表されておらず確認できない。
Go To トラベルは政府が主体となって進められ、感染ステージがその実施判断の基準とされていた。実際、ステージIIIと判断された地域が除外される等、停止基準は明確であった。
県民割は、実施主体は都道府県であるものの、ステージII以下の地域であることが、国からの支援の条件とされた。観光庁によれば、支援の配分は事業開始当初は、予算の2割を旅行会社や宿泊施設の前年販売実績に基づき配分し、残りの8割を事業者の販売計画を基に割り当てるとされている。しかしながら、具体的な配分額などは公表されていない。
県民割については、観光庁から文書(2021年3月26日公表)で停止基準が示されている。停止基準は、(1)事業実施県の知事がステージIII相当以上と判断した場合、(2)事業実施県が緊急事態宣言の対象となった場合とされている。その後、新型コロナウイルス感染症対策本部(2022年1月19日)において基本的対処方針が変更され、ワクチン・検査パッケージ制度が導入された。旅行支援には即座に導入されず、停止基準として新たに、(3)事業実施県がまん延防止等重点措置を実施すべき区域とされた場合、が加えられた。
全国旅行支援は、県民割の対象地域を段階的に緩和されてきたものであり、実施主体は県民割と同様に都道府県であり、停止基準は県民割のルールがそのまま引き継がれたとみられる。ただし、全国旅行支援については、実施主体及び、停止基準に関する資料は公表されておらず確認できない。
観光庁(2021年2月10日発表)によれば、少なくとも5,399億円が実質的な旅行支援に利用され、事務経費などを含めて8,191億円が執行されたこととなっている。また、2021年3月26日には県民割に流用(3,299億円)で、2020年度には実質的に1兆1,490億円が執行された模様である。
2020年度で使い切れなかった1兆5,483億円は2021年度に繰越され、さらに2021年12月20日に成立した2021年度補正予算で2,685億円が追加された。
2021年度のGo To トラベル関連事業での執行額は公表されておらず不明である。観光庁長官発言(2022年3月18日)や新聞報道によれば、2020年度から繰越された予算の7,200億円は不用額として返納された模様である。また、新Go To トラベル事業として国土交通省資料(2021年11月26日)によれば、補正予算と合わせて1兆3,238億円が計上されたとしている。
公表されている数値は、国費ベースのため基本的には予算額、その執行等はある程度は把握可能である。しかし、県民割及び全国旅行支援は、事業主体が都道府県であり、その後の予算執行状況は明らかにされていない。
2020年度で使い切れなかった1兆5,483億円は2021年度に繰越され、さらに2021年12月20日に成立した2021年度補正予算で2,685億円が追加された。
2021年度のGo To トラベル関連事業での執行額は公表されておらず不明である。観光庁長官発言(2022年3月18日)や新聞報道によれば、2020年度から繰越された予算の7,200億円は不用額として返納された模様である。また、新Go To トラベル事業として国土交通省資料(2021年11月26日)によれば、補正予算と合わせて1兆3,238億円が計上されたとしている。
公表されている数値は、国費ベースのため基本的には予算額、その執行等はある程度は把握可能である。しかし、県民割及び全国旅行支援は、事業主体が都道府県であり、その後の予算執行状況は明らかにされていない。
3――旅行支援策の停止要件と実施の適否
3.1|感染症ステージ(レベル)の状況
Covid-19は2020年春頃から全国に感染したが、当初の感染症対策は国主導か、地域主導かでの混乱がみられた。当時の新聞報道をみても、国は方針を示すものの、その措置判断は各自治体に委ねられるものとなった。たとえば、2020年2月の一斉休校は、文部科学省が2月28日に各都道府県教育委員会などに通知されたが、法的根拠はなく、対応は各自治体に委ねられていた。文科省によると3月19日時点で公立学校98.9%、私立学校97.8%とほとんどの学校が休校措置を取り入れた。しかし、感染者がいない富山県等は独自に判断して授業再開するなどの動きがみられた。また、北海道では2020年2月28日に全国で初めて法的根拠に基づかない緊急事態宣言を発出し、週末の外出自粛や検査体制・病床の充実、情報収集を推進させた。この宣言は3月19日に解除された。このように、各都道府県は独自の基準を設定して、対応に当たった。
こうした中で、2020年8月7日には新型コロナウイルス感染症対策分科会からの提言との形で、感染症の水準をもとに四段階のステージが示され、ステージIII以上では国及び各自治体が総合的に判断して、感染の状況に応じ積極的かつ機動的に対策を講じていくこと(いわゆるサーキットブレーカー機能)が求められることとなった。
しかし、国、自治体及び専門家間で、指標の判断についての共通の認識が必ずしも迅速に共有されず、結果的にサーキットブレーカーが機能しないこともあった。その反省から、2021年4月15日に指標の精緻化及び補強を目的として基準は改定された。
その後、国民のワクチン接種率が70%を超えたことから、2020年11月8日には新たな指標が示された。ただし、レベル3はこれまでのステージIIIに相当するとされていた。さらに、オミクロン株に対応させるとの観点から、2022年11月11日に基準が変更された、特に、これまでの基準ではステージIIIあるいはレベル3は感染症拡大を抑制するために移動に関する自粛要請の実施が含まれていたが、2022年11月11日の基準変更では、各都道府県に「対策強化宣言」は行うが、行動制限は求めないとしている(図表4)。
Covid-19は2020年春頃から全国に感染したが、当初の感染症対策は国主導か、地域主導かでの混乱がみられた。当時の新聞報道をみても、国は方針を示すものの、その措置判断は各自治体に委ねられるものとなった。たとえば、2020年2月の一斉休校は、文部科学省が2月28日に各都道府県教育委員会などに通知されたが、法的根拠はなく、対応は各自治体に委ねられていた。文科省によると3月19日時点で公立学校98.9%、私立学校97.8%とほとんどの学校が休校措置を取り入れた。しかし、感染者がいない富山県等は独自に判断して授業再開するなどの動きがみられた。また、北海道では2020年2月28日に全国で初めて法的根拠に基づかない緊急事態宣言を発出し、週末の外出自粛や検査体制・病床の充実、情報収集を推進させた。この宣言は3月19日に解除された。このように、各都道府県は独自の基準を設定して、対応に当たった。
こうした中で、2020年8月7日には新型コロナウイルス感染症対策分科会からの提言との形で、感染症の水準をもとに四段階のステージが示され、ステージIII以上では国及び各自治体が総合的に判断して、感染の状況に応じ積極的かつ機動的に対策を講じていくこと(いわゆるサーキットブレーカー機能)が求められることとなった。
しかし、国、自治体及び専門家間で、指標の判断についての共通の認識が必ずしも迅速に共有されず、結果的にサーキットブレーカーが機能しないこともあった。その反省から、2021年4月15日に指標の精緻化及び補強を目的として基準は改定された。
その後、国民のワクチン接種率が70%を超えたことから、2020年11月8日には新たな指標が示された。ただし、レベル3はこれまでのステージIIIに相当するとされていた。さらに、オミクロン株に対応させるとの観点から、2022年11月11日に基準が変更された、特に、これまでの基準ではステージIIIあるいはレベル3は感染症拡大を抑制するために移動に関する自粛要請の実施が含まれていたが、2022年11月11日の基準変更では、各都道府県に「対策強化宣言」は行うが、行動制限は求めないとしている(図表4)。
(2023年06月07日「基礎研レポート」)
大阪経済大学経済学部教授
小巻 泰之
研究・専門分野
小巻 泰之のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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2024/06/05 | 人口戦略会議・消滅可能性自治体と西高東低現象~ソフトインフラの偏在から検討する~ | 小巻 泰之 | 基礎研レポート |
2023/06/07 | 全国旅行支援の経済効果に対する評価と課題 | 小巻 泰之 | 基礎研レポート |
2022/05/09 | 霧の中のGDP~経済ショック時のGDP速報をどう捉えるか~ | 小巻 泰之 | 基礎研レポート |
2021/06/10 | Covid-19における外出抑制~人々の自発的な抑制と飲食店への営業自粛要請~ | 小巻 泰之 | 基礎研レポート |
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