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- 現金流通量を巡る地殻変動-1万円札以外は全て減少中
2023年06月07日
近頃、現金の流通状況に「地殻変動」とも言える大きな変化が生じている。
1―硬貨:軒並み減、特に五百円は急減
現金は匿名性が極めて高く、「誰が、いつ、どこで、何に使ったか」を捕捉することが難しい。このため、その変動要因については推測に頼らざるを得ないのだが、各硬貨共通の減少要因として考えられるのは、やはり「キャッシュレス化」の進展だろう。近年、利用が伸びてきたコード決済や電子マネーは小口決済での使用がメインであるほか、従来は大口決済が主体であったクレジットカードを小口決済でも使用する傾向が強まっているとみられることが硬貨の需要押し下げに働いていると考えられる。
さらに金融機関における「硬貨預け入れ手数料の導入」が各硬貨の流通高減少を加速させた可能性が高い。昨年1月に国内最大の店舗網と口座数を持つゆうちょ銀行でも同手数料が導入されたことで、国内の殆どの金融機関において、大量の硬貨預け入れに対して手数料が課される形になった*1。各硬貨とも、ゆうちょ銀行の導入予定が公表された一昨年7月頃を境に伸び率低下が顕著になっており、その影響力がうかがわれる。大量の硬貨を無料で容易に預け入れることが難しくなったことで、家計が貯金箱などでの貯金をやめたり、既に溜まった貯金を取り崩して使用したりする動きが強まったと考えられる。
そして、この影響が最も強く現れたのが五百円玉だ。長年高い伸びを続けてきたが、昨年年初に伸びがマイナスに転じ、足元では前年比約5%減と急減している。五百円玉は、従来、家庭での「五百円玉貯金」需要が高い伸びの原動力になっていただけに、貯金の取りやめや取り崩しの影響を強く受けていると推測される。
*1 金融機関により基準は異なる。ATMでの預け入れについては無料の先も多いが、一度に入金可能な枚数が限られるため、時間と手間がかかる。
さらに金融機関における「硬貨預け入れ手数料の導入」が各硬貨の流通高減少を加速させた可能性が高い。昨年1月に国内最大の店舗網と口座数を持つゆうちょ銀行でも同手数料が導入されたことで、国内の殆どの金融機関において、大量の硬貨預け入れに対して手数料が課される形になった*1。各硬貨とも、ゆうちょ銀行の導入予定が公表された一昨年7月頃を境に伸び率低下が顕著になっており、その影響力がうかがわれる。大量の硬貨を無料で容易に預け入れることが難しくなったことで、家計が貯金箱などでの貯金をやめたり、既に溜まった貯金を取り崩して使用したりする動きが強まったと考えられる。
そして、この影響が最も強く現れたのが五百円玉だ。長年高い伸びを続けてきたが、昨年年初に伸びがマイナスに転じ、足元では前年比約5%減と急減している。五百円玉は、従来、家庭での「五百円玉貯金」需要が高い伸びの原動力になっていただけに、貯金の取りやめや取り崩しの影響を強く受けていると推測される。
*1 金融機関により基準は異なる。ATMでの預け入れについては無料の先も多いが、一度に入金可能な枚数が限られるため、時間と手間がかかる。
紙幣は伸び率の変動が大きいため、今回の動きが持続的なのかはまだ判然としない。ただし、硬貨ほどではないものの、紙幣でもキャッシュレス化が需要の減少要因になっているはずだ。キャッシュレス化の進展に伴って、その影響がいよいよ紙幣でも顕在化してきた可能性がある。
そうしたなか、唯一プラスの伸びを維持しているのが一万円札だ*2。近年、欧州やインドなど海外でマネー犯罪防止を目的とした高額紙幣廃止が相次いできたが、日本では最高額紙幣たる一万円札の需要増が続き、存在感が高まり続けている。この背景には根強い「タンス預金」(自宅等での現金貯蔵)需要の存在があると考えられる。超低金利環境で預金しても利息が殆ど得られない状況が続いていることがタンス預金の増加を促し、その際に最も嵩張らない一万円札が選好されているとみられる。
従って、一万円札の今後のカギとなるのは預金金利となる。当面、預金金利の大幅な上昇は見込みづらいものの、将来上昇して家計が利息の恩恵を実感する様になった場合には、タンス預金として貯蔵されている一万円札が預金口座に還流し、流通高が減少基調に転じると想定される。現に、預金金利が近年としては高めであった2008~09年[図表3]には一万円札の流通高が前年割れとなる時期があった。一万円札が減少基調に転じれば、貯蓄面でも
キャッシュレス化が進展することになる。
そうしたなか、唯一プラスの伸びを維持しているのが一万円札だ*2。近年、欧州やインドなど海外でマネー犯罪防止を目的とした高額紙幣廃止が相次いできたが、日本では最高額紙幣たる一万円札の需要増が続き、存在感が高まり続けている。この背景には根強い「タンス預金」(自宅等での現金貯蔵)需要の存在があると考えられる。超低金利環境で預金しても利息が殆ど得られない状況が続いていることがタンス預金の増加を促し、その際に最も嵩張らない一万円札が選好されているとみられる。
従って、一万円札の今後のカギとなるのは預金金利となる。当面、預金金利の大幅な上昇は見込みづらいものの、将来上昇して家計が利息の恩恵を実感する様になった場合には、タンス預金として貯蔵されている一万円札が預金口座に還流し、流通高が減少基調に転じると想定される。現に、預金金利が近年としては高めであった2008~09年[図表3]には一万円札の流通高が前年割れとなる時期があった。一万円札が減少基調に転じれば、貯蓄面でも
キャッシュレス化が進展することになる。
そして、預金金利を左右するのが日銀の金融政策だ。今後、日銀が長短金利を引き上げれば、預金金利にも上昇圧力が波及する。4月に就任した植田新総裁の舵取りが注目される。
また、来年度上期に予定されている新紙幣の発行がタンス預金や紙幣需要に及ぼす影響も注目点になる。
*2 二千円札の伸びもプラスだが、流通は沖縄県にほぼ限られるとみられ、残高も僅少のため、分析の対象外としている。
また、来年度上期に予定されている新紙幣の発行がタンス預金や紙幣需要に及ぼす影響も注目点になる。
*2 二千円札の伸びもプラスだが、流通は沖縄県にほぼ限られるとみられ、残高も僅少のため、分析の対象外としている。
(2023年06月07日「基礎研マンスリー」)
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経歴
- ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
・ 2007年 日本経済研究センター派遣
・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
・ 2009年 ニッセイ基礎研究所
・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)
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