2023年06月06日

コロナが精神疾患に与えた影響-アメリカではコロナ禍により、抑うつと不安症が3倍以上に増加

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

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4――精神疾患に対する遠隔医療の浸透

パンデミックは精神医療の患者だけでなく、精神医療の提供にも大きな影響を与えた。外来、入院をはじめ、救急医療や相談サービスなどで変化が生じたという。

1感染防止プロトコルにより診療の負担が増加
コロナ禍により、各医療機関では、感染防止プロトコルを踏まえた医療が行われた。精神科医も、そのプロトコルの影響を受けた。救急室や入院病棟での対面ケアには、感染防止のために、マスクなどの個人用の保護具が必要であった。また、入院患者のケアは、複数の患者によるグループセラピー(集団療法)5を継続するか、施設外からの家族等の訪問を受け入れるか、といった課題に直面した。

ただし一般に、精神科の医療スタッフは感染症防止プロトコルの訓練を受けていないことが多かった。そのため、患者にマスクを着用させること自体が困難となる場合があったという。
 
5 「集団療法 :  通常10人前後の小集団を対象として、参加するメンバーの各々が自分を語ることを通じて実践される心理療法のひとつです。多くは同じ問題を抱えるひとたちや、同じような立場のひとたちを集めて行われます。(以下、略)」((「臨床心理士の面接療法」, 一般社団法人 日本臨床心理士会HP)より)
2精神疾患の医療では、オンラインでの遠隔医療が浸透した
遠隔医療に関する規制上の障壁が緩和された。これにより、オンラインでの遠隔のケアや相談が容易になり、患者がアクセスしやすくなった。

ある報告6によると、パンデミック以前は、遠隔医療の利用は非常に少なく、外来患者全体の1%未満であった。しかし、コロナ禍が始まると遠隔医療の利用が進み、2020年3~8月にはピークを迎えた。精神疾患以外の外来では11%が遠隔医療となった。その後、2021年3~8月には5%に低下した。しかし、精神疾患では、ピーク時の2020年3~8月に40%に達し、その後も2021年3~8月に36%の水準を維持しており、高いまま推移しているという。

なお、遠隔医療は、特定の精神疾患に限定されたものではなく、トラウマ関連の状態に対する利用(43%)をはじめ、不安症とその関連(38%)、抑うつ(35%)、統合失調症(33%)など、様々な精神疾患で浸透した(2021年3~8月)とされている。
 
6 “Telehealth Has Played an Outsized Role Meeting Mental Health Needs During the COVID-19 Pandemic” Justin Lo, Matthew Rae, Krutika Amin, et al(San Francisco: Kaiser Family Foundation., 2018) https://www.kff.org/coronaviruscovid-19/issue-brief/telehealth-has-played-an-outsized-role-meeting-mental-health-needs-during-the-covid-19-pandemic/ (2023年6月6日に参照)

5――おわりに (私見)

5――おわりに (私見)

本稿では、レポート等をもとに、コロナ禍と精神疾患の関連について見ていった。冒頭で見たとおり、日本でも、コロナ禍が本格化した2020年以降、精神疾患の患者が大きく増加している。

今後、コロナ禍と各種疾患や医療体制への影響などに関する研究が進むものと考えられる。それらの研究成果を見ていくことが必要となろう。新型コロナウイルス感染症は、5月8日に感染症法上の5類感染症に移行するなど、徐々に落ち着いてきたと見られる。だが、今後、これに代わる新たな感染症が出現する可能性も考えられる。感染症と精神疾患の関係性について、欧米の動向も含めて、引き続き、注視していくこととしたい。

(参考文献)
 
「患者調査」(厚生労働省)
 
“Mental Illness and It's Impact on U.S. Mortality and Longevity”(SOA Research Institute, Nov. 2022)
 
“National Center for Health Statistics - National Health Interview Survey” (アメリカ疾病対策予防センター(CDC))
 
“ 2019 CDC Household Pulse Survey”(CDC)
 
“Acute COVID-19 Severity and Mental Health Morbidity Trajectories in Patient Populations of Six Nations: An Observational Study” Ingibjörg Magnúsdóttir, Anikó Lovik, Anna Bára Unnarsdóttir, et al.(Lancet Public Health 7, no. 5:E406–E416., 2022) https://www.thelancet.com/journals/lanpub/article/PIIS2468-2667(22)00042-1/fulltext
(2023年6月6日に参照)
 
“Risks of Mental Health Outcomes in People with COVID-19: Cohort Study” Yan Xie, Evan Xu, Ziyad Al-Aly(BMJ 376:e068993., 2022)
 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35172971/
(2023年6月6日に参照)
 
「集団療法」(「臨床心理士の面接療法」, (一般社団法人 日本臨床心理士会HP))
http://www.jsccp.jp/near/interview16.php
 
“Telehealth Has Played an Outsized Role Meeting Mental Health Needs During the COVID-19 Pandemic” Justin Lo, Matthew Rae, Krutika Amin, et al(San Francisco: Kaiser Family Foundation., 2018) https://www.kff.org/coronaviruscovid-19/issue-brief/telehealth-has-played-an-outsized-role-meeting-mental-health-needs-during-the-covid-19-pandemic/
(2023年6月6日に参照)
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保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1992年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員

(2023年06月06日「保険・年金フォーカス」)

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