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- インド経済の見通し~輸出鈍化と累積利上げの効果により景気減速も、公共投資の増加により内需主導の底堅い成長続く
2023年06月05日
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GDP統計の結果:民間投資の拡大により成長加速

なお、2022年度の実質GDP成長率は前年度比+7.2%となり、2021年度の同+9.1%から低下した。
1-3月期の実質GDPを需要項目別にみると、内需は民間消費が前年同期比+2.8%(前期:同+2.2%)とやや持ち直したほか、政府消費が同+2.3%(前期:同▲0.6%)とプラス成長に回復した。また総固定資本形成が同+8.9%となり、前期の同+8.0%に続いて堅調に拡大した。
外需は、輸出が同+11.9%(前期:同+11.1%)と二桁増が続いた一方、輸入が同+4.9%(前期:同+10.7%)と鈍化した。

産業部門別に見ると、まず第三次産業は同+6.9%(前期:同+6.1%)と上昇した。貿易・ホテル・交通・通信が同+9.1%、金融・不動産が同+7.1%となり、それぞれ堅調に拡大した。一方、行政・国防は同+3.1%と緩やかな伸びにとどまった。
第二次産業も同+6.3%(前期:同+2.3%)と上昇した。製造業が同+4.5%(前期:同▲1.4%)と3四半期ぶりに増加したほか、建設業が同+10.4%(前期:同+8.3%)、鉱業が同+4.3%(前期:同+4.1%)となり、それぞれ2四半期連続で上昇した。電気・ガスは同+6.9%(前期:同+8.2%)と鈍化した。
また第一次産業は同+5.5%(前期:同+4.7%)と順調に増加した。
1 5月31日、インド統計・計画実施省(MOSPI)が2023年1-3月期の国内総生産(GDP)統計を公表した。
経済概況:公共投資の拡大と純輸出の改善により成長加速
インドはコロナ禍からの立ち直りが早く、その後も概ね順調な成長が続いている。2022年度の成長率が前年度比+7.2%となり、コロナ禍で落ち込んだ2020年度からの反動増で急伸した2021年度の同+9.1%から鈍化したものの、高水準を維持した。2022年10-12月期は成長ペースが鈍化(成長率は前年同期比+4.5%)したが、1-3月期の成長率は同+6.1%と再び上昇することになり、インド経済の力強さを印象付ける結果となった。
1-3月期の成長率の上昇は総固定資本形成の拡大と純輸出の改善による影響が大きい。まず投資(同+8.9%)は高成長となったが、これは公共投資がけん引したものとみられる。2022年度国家予算では資本支出が前年度比+35.4%増の7.5兆ルピーと大幅に増加されており、インド政府は財政再建よりも景気回復を優先してインフラ整備計画を推し進めている。このことは産業別の実質GDPでは建設業が前年同期比10.4%の二桁成長だったこととも整合的である。
純輸出は財・サービス輸出(同+11.9%)が引き続き好調だった。海外経済の減速によりモノの輸出(通関ベース)の増勢は鈍化しつつあるが(図表3)、1-3月の外国人訪問者数が252万人とコロナ禍前の9割強の水準まで回復しており(図表4)、サービス輸出の好調が牽引役になったとみられる。一方、財・サービス輸入(同+4.9%)は消費需要の伸び悩みから輸出を下回る伸びにとどまり、結果として純輸出の成長率寄与度は+1.4%ポイント(前期:▲0.2%ポイント)とプラスに転じており、成長率を押し上げた。
1-3月期の成長率の上昇は総固定資本形成の拡大と純輸出の改善による影響が大きい。まず投資(同+8.9%)は高成長となったが、これは公共投資がけん引したものとみられる。2022年度国家予算では資本支出が前年度比+35.4%増の7.5兆ルピーと大幅に増加されており、インド政府は財政再建よりも景気回復を優先してインフラ整備計画を推し進めている。このことは産業別の実質GDPでは建設業が前年同期比10.4%の二桁成長だったこととも整合的である。
純輸出は財・サービス輸出(同+11.9%)が引き続き好調だった。海外経済の減速によりモノの輸出(通関ベース)の増勢は鈍化しつつあるが(図表3)、1-3月の外国人訪問者数が252万人とコロナ禍前の9割強の水準まで回復しており(図表4)、サービス輸出の好調が牽引役になったとみられる。一方、財・サービス輸入(同+4.9%)は消費需要の伸び悩みから輸出を下回る伸びにとどまり、結果として純輸出の成長率寄与度は+1.4%ポイント(前期:▲0.2%ポイント)とプラスに転じており、成長率を押し上げた。
一方、GDPの約6割を占める民間消費(同+2.8%)は10-12月期の同+2.1%から持ち直したものの、伸び悩んでいる。消費の勢いが弱い要因としては高インフレと積極的な利上げなど消費意欲が高まりづらい状況にあったことが挙げられる。1-3月期の消費者物価上昇率は同+6.2%と、インド準備銀行(RBI)の物価目標の上限である+6%を上回る水準で高止まりしており(図表5)、RBIは昨年5月から金融引き締めを実施して政策金利を6.5%(累計+2.5%ポイント)まで引き上げている(図表6)。
民間消費は伸び悩んだものの、コロナ禍からの経済活動の正常化に伴い対面型サービス業の回復は続いており、貿易・ホテル・交通・通信は同9.1%と高水準だった。1-3月期の国内線旅客数(前年同期比+52.2%)は大幅な増加が続くなど観光関連産業の回復が顕著であり(図表5)、乗用者の販売台数(同+10.7%)も盛り上がりをみせている。もっとも貿易・ホテル・交通・通信の増勢は3期連続で鈍化しており、回復の勢いは弱まりつつあることも確かだ。
民間消費は伸び悩んだものの、コロナ禍からの経済活動の正常化に伴い対面型サービス業の回復は続いており、貿易・ホテル・交通・通信は同9.1%と高水準だった。1-3月期の国内線旅客数(前年同期比+52.2%)は大幅な増加が続くなど観光関連産業の回復が顕著であり(図表5)、乗用者の販売台数(同+10.7%)も盛り上がりをみせている。もっとも貿易・ホテル・交通・通信の増勢は3期連続で鈍化しており、回復の勢いは弱まりつつあることも確かだ。
経済見通し:輸出鈍化や累積利上げの効果が逆風となり減速も、内需主導の底堅い成長続く
インド経済は対面型サービス業を中心に回復傾向が続いたが、今後はコロナ禍からの回復の勢いが弱まるなか、輸出鈍化や金融引き締めの累積効果が逆風となり昨年度ほどの高成長は期待できないだろう。もっとも公共投資が景気の牽引役となり、内需主導の底堅い成長は続きそうだ。
外需は欧米を中心とした海外経済の減速により財貨輸出が停滞するだろう。サービス輸出は引き続き堅調な増加が続くと予想され、財貨輸出の鈍化をある程度相殺するが、輸入は内需拡大を背景に輸出を上回る伸びが続くとみられるため、外需は再び成長率の押し下げ要因になると予想する。
内需はこれまでの金融引き締めの累積効果により、当面は消費と投資が押し下げられる状況が続きそうだ。しかしながら、消費はラビ(乾期)作物の記録的な収穫量の増加が食品インフレの緩和や農村部の需要回復に繋がると共に、対面型サービスの持続的な回復が都市部の需要を支えとなり、雇用環境は安定するとみられ(図表7)、持ち直しの動きが続くだろう。また投資は公共投資の大幅な増加によって押し上げられ、堅調な推移を予想する。2023年度国家予算では資本支出が前年度比+37.4%の10兆ルピーに大幅に増額されている(図表8)。主要分野別の歳出をみると、最も金額の大きい「交通」が同+32.4%と大幅に増額されており(図表9)、モディ政権は2024年に予定される総選挙の勝利を目指してインフラ開発を加速している。民間投資は輸出環境の悪化により鈍化は避けられないが、政府主導のインフラ投資や生産連動型インセンティブ (PLI)スキームが民間企業の投資を喚起し、底堅い伸びを維持すると予想する。また、こうした投資の持続的な拡大も雇用環境の改善に繋がるため、民間消費に追い風となるだろう。
先行きのインフレ率は、当面は原油高や通貨安の一服によりコスト上昇を価格転嫁する動きが弱まることや金融引き締め策の影響により鈍化するものの、内需の底堅い成長が続くためインフレ目標の中央値である4%を上回る水準で推移すると予想する。またエルニーニョ現象の発生により南西モンスーンの雨不足となり食品価格が上昇する恐れもあり、インフレの不確実性の高い状況が続きそうだ。
RBIは当面は足元のインフレ率の低下傾向や今後の米国の利上げ停止を受けて年内まで金融政策の据え置きを続けるだろう。来年は米国で利下げが実施されると、RBIも国内経済の回復に向けて政策金利を小幅に引き下げると予想する。
以上の結果として、実質GDPはコロナ禍からの回復の勢いが弱まるなか、輸出悪化や金融引き締めの累積効果などが逆風となり、2023年度の成長率が前年度比+6.1%(2022年度:同+7.2%)と低下するが、公共投資の大幅な増加が景気を下支えし、内需を中心とした底堅い成長が続くと予想する(図表10)。
外需は欧米を中心とした海外経済の減速により財貨輸出が停滞するだろう。サービス輸出は引き続き堅調な増加が続くと予想され、財貨輸出の鈍化をある程度相殺するが、輸入は内需拡大を背景に輸出を上回る伸びが続くとみられるため、外需は再び成長率の押し下げ要因になると予想する。
内需はこれまでの金融引き締めの累積効果により、当面は消費と投資が押し下げられる状況が続きそうだ。しかしながら、消費はラビ(乾期)作物の記録的な収穫量の増加が食品インフレの緩和や農村部の需要回復に繋がると共に、対面型サービスの持続的な回復が都市部の需要を支えとなり、雇用環境は安定するとみられ(図表7)、持ち直しの動きが続くだろう。また投資は公共投資の大幅な増加によって押し上げられ、堅調な推移を予想する。2023年度国家予算では資本支出が前年度比+37.4%の10兆ルピーに大幅に増額されている(図表8)。主要分野別の歳出をみると、最も金額の大きい「交通」が同+32.4%と大幅に増額されており(図表9)、モディ政権は2024年に予定される総選挙の勝利を目指してインフラ開発を加速している。民間投資は輸出環境の悪化により鈍化は避けられないが、政府主導のインフラ投資や生産連動型インセンティブ (PLI)スキームが民間企業の投資を喚起し、底堅い伸びを維持すると予想する。また、こうした投資の持続的な拡大も雇用環境の改善に繋がるため、民間消費に追い風となるだろう。
先行きのインフレ率は、当面は原油高や通貨安の一服によりコスト上昇を価格転嫁する動きが弱まることや金融引き締め策の影響により鈍化するものの、内需の底堅い成長が続くためインフレ目標の中央値である4%を上回る水準で推移すると予想する。またエルニーニョ現象の発生により南西モンスーンの雨不足となり食品価格が上昇する恐れもあり、インフレの不確実性の高い状況が続きそうだ。
RBIは当面は足元のインフレ率の低下傾向や今後の米国の利上げ停止を受けて年内まで金融政策の据え置きを続けるだろう。来年は米国で利下げが実施されると、RBIも国内経済の回復に向けて政策金利を小幅に引き下げると予想する。
以上の結果として、実質GDPはコロナ禍からの回復の勢いが弱まるなか、輸出悪化や金融引き締めの累積効果などが逆風となり、2023年度の成長率が前年度比+6.1%(2022年度:同+7.2%)と低下するが、公共投資の大幅な増加が景気を下支えし、内需を中心とした底堅い成長が続くと予想する(図表10)。
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(2023年06月05日「基礎研レター」)
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03-3512-1780
経歴
- 【職歴】
2008年 日本生命保険相互会社入社
2012年 ニッセイ基礎研究所へ
2014年 アジア新興国の経済調査を担当
2018年8月より現職
斉藤 誠のレポート
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