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金融システム、特に保険と年金基金のリスクと脆弱性に対する助言等の公表(欧州)-EIOPA等の合同報告書(2023春期)の紹介
保険研究部 主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任 安井 義浩
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1――合同報告書の発行
各国監督当局、金融機関、市場参加者それぞれに対し助言されている項目について紹介する。また「保険・年金フォーカス」という本稿の主旨に則り、銀行以外に、保険や企業年金に関する懸念が取り上げられている部分を中心に見てみる。
1 Joint Committee Report on Risks and Vulnerabilities in the EU Financial System(203.4.25)
https://www.eiopa.europa.eu/system/files/2023-04/JC%202023%2007%20%28Spring%202023%20Report%20on%20Risks%20and%20Vulnerabilities%29.pdf
2――経済環境の認識
また、米国におけるいくつかの中規模な銀行の破綻や、以前から経営難に陥っていたクレディ・スイスがUBSと合併(いずれも3月)したことなどから引き起こされた市場不安により、引き続き市場には高い不確実性があり、EU外からの圧力にEU内の金融システムが過敏に反応することが示された。
資産価格は、過去数カ月にわたってボラティリティが高く、デリバティブの追加証拠金の必要などから、流動性も不安定であった。
またこれらに加えて、地政学的な緊張、環境への脅威、サイバー攻撃の頻発などが、さらにリスクの状況を複雑にしている。
3――助言内容
・金融機関と各国監督は、金融部門の資産の質の悪化に備える必要がある。
・政策金利の上昇とリスクプレミアムの急激な上昇が、金融機関や市場参加者に与える、より広範囲な影響に備えて、流動性リスクを含むリスク管理全般において、綿密に監視し、状況を説明する必要がある。
・レバレッジファンドへの投資および金利デリバティブから生じる流動性リスクがあり、これらを引き続き注意深く監視する必要がある。
・金融機関と各国金融当局は、インフレリスクの影響を認識し、注意深く監視する必要がある。インフレは資金の借り手の債務返済に影響を与えるため、それが原因で資産の質や評価に影響を与える可能性がある。金融機関においては、インフレを考慮した金融商品のテスト、モニタリング、レビューを行うべきであり、一方投資家のほうも、実質リターンをみるにあたっては、インフレの影響を認識する必要がある。
・現在のところ、中長期的な収益性見通しが不透明な中では、銀行は、長期的な財務の回復力を確保しておくために、慎重に資本分配政策を追求する必要がある。
・金融セクターの回復力を維持するため、現在のそれぞれの規制のフレームワークを維持する必要がある。
・金融機関は、気候関連のリスク管理あるいはさらに広くESG関係のリスク管理に一層注力する必要がある。これらのリスクは、今や、バランスシート上のリスクの源泉となりつつある。
・金融機関は、情報通信技術(ICT)インフラのセキュリティと適切なリスク管理能力を備える必要があり、そのためのリソースを割り当て、スキルの向上を図るべきである。
・なお、暗号資産を効果的に規制する必要がある。
4――保険会社や年金基金に関するコメント
それは2022年に起きた英国における動きをふまえたものである。
英国の年金基金の多くでは、従来、債務連動型運用(LDI)と呼ばれる運用戦略がとられている。これは年金給付現価(年金負債)を時価ベースで確保すべく、デリバティブなども活用して年金資産を均衡させる投資戦略である。
2022年9月に金利が急上昇した際に、デリバティブの追加証拠金の必要が生じ、その請求に対応するために、年金基金の多くは英国債を売却しようとしたが、市場がこの一斉かつ大規模な売却に対応できなかった。最終的にはイングランド銀行による購入枠の設定やさらにはその拡大といった介入等により、事態は収まったという。
今回の報告書においては、こうした事態を先例としてEUにおいても英国同様、保険会社や年金基金のデリバティブやレポ市場への監視を強化すべきであり、そもそもどの程度の規模の影響があるのかといった実態について調査する必要がある、としている。
以下は筆者の感想である。この報告書では述べられていないが、保険会社においてもLDIは採用されており、英国の事象においては年金基金同様のダメージを受けるはずではなかったかという疑問がわく。しかし保険会社のほうは、ソルベンシーII等の下でのリスク管理が充実しており、影響がないよう対応できた、という面があるらしい。逆にいえば、年金基金の、特にデリバティブのリスク管理の整備が遅れている、という実態が認識されたものと思われる。
保険会社や年金基金(特に確定給付型)の資産運用には、保険金・年金の支払を全うするという本来の役割と目的がある。銀行に比べて複雑な負債の性質を考慮し、それに対応した資産運用を行うべきであることは、LID戦略以前にALM(資産負債の総合管理)として一般的に妥当とされてきた考え方である、保険会社のほうはあまり影響を受けなかった、というのはさすがというべきだろうか。
とはいえ、一方の年金基金においても、英国の事象では、金利上昇や英国債売却の集中によって、保有資産価値も下落したが、同時に負債の時価評価も小さくなったため、事態が沈静化してみれば、財務状況はかえって好転したのではないかとの意見も見受けられる。つまり年金基金においても基本的にはALMが機能していたが、デリバティブにおけるテクニカルな部分の影響が想定外に大きかったことが、英国において事態が混乱した原因ではないかと思われる。
もちろんこうした事件を受けて、今般の報告書の結論通り、今後の影響調査は必要であろう。調査の結果、保険会社や年金基金は、負債の性質により留意すべき分、脆弱性が高いとわかる可能性もあるし、それに対応したリスク管理が進んでいると確認できるかもしれない。
5――おわりに
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03-3512-1833
- 【職歴】
1987年 日本生命保険相互会社入社
・主計部、財務企画部、調査部、ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)(2007年‐2010年)を経て
2012年 ニッセイ基礎研究所
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
・日本証券アナリスト協会 検定会員
(2023年05月30日「保険・年金フォーカス」)
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