2023年05月26日

日本の子どもの性被害(1)-児童買春や淫行罪は懲役と罰金の併科あり、居住自治体の青少年保護条例は要チェック!性被害によるPTSDは生涯続く-

生活研究部 研究員・ジェロントロジー推進室・ヘルスケアリサーチセンター 兼任 乾 愛

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1――はじめに

2023年4月12日に、元大手アイドル事務所所属の現歌手が、日本外国特派員協会で記者会見を行い、所属していた事務所創業者による性被害を実名告白したことで話題となった1,2

この話題の前には、2023年2月に男性保育士が勤務先の女児複数名に対し、強制わいせつ罪と児童買春・児童ポルノ禁止法違反で逮捕された事件や3、2019年にはベビーシッターとのマッチングをするサイトでも男性シッターによる強制わいせつ事件が話題となり4、小さな子どもを持つ親を震撼させた。

最近では、新聞やニュースで報道されるようになり、目につくことが多くなったように思えるが、昔から日本では子どもの性的被害が後を絶たない。

それにも関わらず、子どもの性的虐待に関する支援に取り組んできた保健師時代の筆者も、そもそも身近な大人が性的な犯行や被害に関する知識が乏しく、効果的な予防策を講じていない実態を痛感した。

子どもの性被害に関する課題は、小児性愛者などの限定的な者を厳罰化すれば良い話ではなく、関係がないと考えている大人全てが、正しい知識と対処行動をとることで回避される社会的な問題である。 

本稿では、まず性的事犯や性的被害に関する定義について整理し、子どもが性被害を被った場合のはかり知れない身体的、精神的な影響について正しく認識して欲しい。その上で、第2稿、第3稿では、子どもの性被害の被害人数や被害経路などの実態について分析する予定である。

(*本稿は、性被害の課題点に関する議論やその対策を論じるものではないことに留意)
 
1 共同通信ニュース「元ジャニーズ性的被害受けた_カウアン・オカモトさんが会見」(2023年4月12日)
2 毎日新聞「ジャニー喜多川氏から性的被害 元ジャニーズJr.が会見」(2023年4月12日)
3 讀賣新聞オンライン「女児18人にわいせつ、保育士に実刑判決、、、性的欲求満たそうと資格取得」
https://www.yomiuri.co.jp/national/20230203-OYT1T50402/ (2023年2月4日)
4 毎日新聞「どう防ぐ ベビーシッターによる性犯罪」(2020年7月1日)

2――関連法令や条例から分かる子どもの性被害とは?

2――関連法令や条例から分かる子どもの性被害とは?

まず、実態を把握する前に、そもそも性的な被害とはどのようなことを指すのか定義を整理したい。

警察庁では、子どもの性被害に関連する法令や条例を掲載しており、また、子どもの性被害に関する罪種別の統計データにおける分類にも影響を及ぼすため、基本的な理解として、以下3つの法令と条約に整理する。
2-1|児童買春の定義と罰則
まず、児童買春とは、「児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(平成十一年法律第五十二号)」(以下、児童買春・児童ポルノ禁止法)5の第1章総則において、定義がなされている(参照:図表1)。
図表1「児童売春、自動ポルノに係る行為等の規則及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(平成十一年法律第十二号)
この法律の第二条では、18歳未満の者について「児童」と定義されており、第二条第二項では、その児童や児童に対する性交等の斡旋をした者、さらに児童の保護者などの監護的立場の者に対して、「対償を供与し、又はその供与の約束をして、当該児童に対し、性交等(性交若しくは性交類似行為をし、又は自己の性的好奇心を満たす目的で、児童の性器等(性器、肛門又は乳首をいう。以下同じ。)を触り、若しくは児童に自己の性器等を触らせることをいう。以下同じ。)をすること」、これを児童買春として定義している。

このように児童買春に関する法律では、18歳未満の児童に対して、金銭や金品などの提供したり、提供する約束をして、性交等に及ぶことが児童買春に当たると定義している。

この児童買春事犯が成立した場合の罰則について図表2へ示した。児童買春をした者は五年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処され(第四条)、また、これら児童買春を事業的に斡旋する組織が出現しており6、これらに対し、児童買春の周旋をすることを業とした者は、七年以下の懲役及び千万円以下の罰金に処される(第五条)こととなっている。

さらに、児童買春の周旋をする目的で、人に児童買春をするよう実際に勧誘をした者は、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する(第六条)とされている。
図表2 「児童売春、自動ポルノに係る行為等の規則及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(平成十一年法律第五十二号)
次に、同法律の第二条第3項では、「写真、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に係る記録媒体その他の物」について、「一 児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態、二 他人が児童の性器等を触る行為又は児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの、三 衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位(性器等若しくはその周辺部、臀でん部又は胸部をいう。)が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するもの」の3つの「いずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したもの」が児童ポルノと定義されている。

この児童ポルノ事犯が成立した場合の罰則について図表3へ示した。

同法の第7条では、自己の性的好奇心を満たす目的で、児童ポルノを所持した者(自己の意思に基づいて所持するに至った者であり、かつ、当該者であることが明らかに認められる者に限る。)は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処される。

また、自己の性的好奇心を満たす目的で、第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録を保管した者(自己の意思に基づいて保管するに至った者であり、かつ、当該者であることが明らかに認められる者に限る。)も、同様とされている。
図表3 「児童売春、自動ポルノに係る行為等の規則及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(平成十一年法律第五十二号)
さらに、児童ポルノを提供した者やその児童ポルノに記録するための姿勢をとらせた者やそれを記録(製造)した者、児童ポルノを不特定多数もしくは多数の者へ提供した者、児童ポルノを運搬、輸入、外国に輸入した者については、五年以下の懲役又は五百万円以下の罰金に処され、より厳しい罰則規定であることが分かる。
 
5 G-ROV法令「児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(平成十一年法律第五十二号)」https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=411AC0100000052
6 日本で児童買春・児童ポルノ禁止が成立した背景に、大手旅行会社が企画した旅行ツアーが児童買春へのアクセスになっていた事実があり、国際ECPAT( End Child Prostitution , Child Pornography And Trafficking in Children for Sexual Purposes第1回会議において国際的な批判を浴びたことが契機である。
2-2|児童福祉法の淫行罪は重罪、懲役と罰金の併科あり
続いて、児童福祉法に規定のある「淫行させる行為」通称、児童淫行罪について図表4へ示した。

児童福祉法では、「児童に淫行をさせる行為」を禁止しており、これが同法第34条第1項第6号に当たる7

児童福祉法の淫行罪に詳しいウェルネス法律事務所によると8、この児童淫行罪は、第3者へ淫行させることだけではなく、自分自身と淫行した場合も含まれると指摘している。

また、この「淫行」という行為は、「児童の心身の健全な育成を阻害するおそれがあると認められる性交又はこれに準ずる性交類似行為(手淫や口淫)(最高裁平成28年6月21日決定)」のことを指し、「児童をもっぱら性欲のはけ口にしているようなケースでは淫行と判断される」と指摘している。

さらに、「淫行させる行為」について、「直接たると間接たるとを問わず児童に対して事実上の影響力を及ぼして児童が淫行をなすことを助長し、促進する行為(最高裁昭和40年4月30日決定)」であるとの判決が存在しており、具体的には、6つの「(1)行為者と児童の関係、(2)助長・促進行為の内容、(3)児童の意思決定に対する影響の程度、(4)淫行の内容及び淫行に至る動機・経緯、(5)児童の年齢、(6)その他当該児童の置かれていた具体的状況等、の要素を総合考慮して判断される(最高裁平成28年6月21日決定)ものである」と示している。

これに違反すると、罰則は10年以下の懲役、または300万円以下の罰金(第60条第1項)となり、この両方を課される併科も存在しており、児童福祉法に定められている罰則の中では最も重罪となっている。
図表4 「児童福祉法(昭和二十二年法律第百六十四号)」
 
7 G-ROV法令「児童福祉法」https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322AC0000000164
8 ウェルネス法律事務所 https://wellness-keijibengo.com/jidouhukushihouihan/
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生活研究部   研究員・ジェロントロジー推進室・ヘルスケアリサーチセンター 兼任

乾 愛 (いぬい めぐみ)

研究・専門分野
母子保健・高齢社会・健康・医療・ヘルスケア

経歴
  • 【職歴】
     2012年 東大阪市 入庁(保健師)
     2018年 大阪市立大学大学院 看護学研究科 公衆衛生看護学専攻 前期博士課程修了
         (看護学修士)
     2019年 ニッセイ基礎研究所 入社
     2019年~大阪市立大学大学院 看護学研究科 研究員(現:大阪公立大学 研究員)

    【資格】
    看護師・保健師・養護教諭一種・第一種衛生管理者

    【加入団体等】
    日本公衆衛生学会・日本公衆衛生看護学会・日本疫学会

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