2023年05月18日

「政府の少子化対策への期待」に影響する要因とは?-婚活機会の提供と育児協力者の確保策は期待大、男性への理解醸成と若者の経済的支援で失望回避策を-

生活研究部 研究員・ジェロントロジー推進室・ヘルスケアリサーチセンター 兼任 乾 愛

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4――政府の少子化対策への期待に関する要因分析(多変量解析)

最後に、今回の調査で明らかになった統計データを用いて、「政府の少子化対策への期待」に影響を与える要因を明らかにするため多変量解析にて分析する(参照:図表6)。

従属変数を、逆転項目の量変数として取り扱う「政府の少子化対策への期待度」を投入し、独立変数に、回答者の基本属性である、性別(0:男性、1:女性)、年齢(量)、婚姻状態(0:未婚、1:既婚)、子ども有無(0:なし、1:あり)、世帯収入(順序)、少子化進行要因への意識(11設問)を、強制投入し解析した。

尚、多重共線性については、多重共線性の診断にてVIF値が5以上または10以上がないことを確認済である。

解析の結果、政府の少子化対策への期待へ影響を与える因子を影響力が強い順番に示すと、「出会いの場や婚活の機会がない」ことが少子化進行の原因だと認識している者(β=0.097,P=<0.001)、同じく「核家族などで、育児協力者が減っている」ことが少子化進行に原因だと認識している者(β=0.091,P=<0.001)であった。

次に、影響を与えていたのは、性別(β=-0.071,P=0.001)で、βがマイナスのため男性程、政府の少子化対策への期待を抱いていないことが明らかである。

続いて、影響を与えていたのは、「男性の育児参加が進んでいない」ことが少子化進行原因だと認識している者(β=0.062,P=0.011)、「子育て支援環境が整備されていない」ことが少子化進行の原因だと認識している者(β=0.065,P=0.013)において、政府の少子化対策への期待を上昇させる因子をなっていた。

一方で、「若い世代の経済環境が厳しくなっている」ことが少子化進行の原因だと認識している者においては、政府の少子化対策への期待値を下げていることが明らかになった。

これらのことから、やはり婚活市場の拡充やマッチングサービスの充実は、少子化対策としては大いに期待を抱ける政策である上、家族構成の変容による育児協力者の不足に対する政策3の拡充をより強固に推し進めていけば、政府の少子化対策への期待度上昇に寄与するものとなろう。

一方で、男性側の少子化対策への理解の醸成や、若者の経済的支援に関する諸課題の解決を図らない限り、政府への対応に不満が残ることが明らかである。
図表6.政府の少子化対策への期待に関する要因分析
 
3 現状、保育政策では、短時間勤務者の入園条件スコアの底上げや保育送迎サービスの拡充に加え保育士の待遇確保、さらに保育士の犯罪歴のチェックによる安全な保育サービスの提供に資する体制を整える必要があるなど課題は山積していると筆者は考える。

5――まとめ

5――まとめ

本稿では、2022年度特別調査「第12回 新型コロナによる暮らしの変化に関する調査」 のデータを用いて、日本の少子化に対する意識調査を実施した結果と、政府の少子化対策への期待度に影響する要因を分析した。

その結果、政府の少子化対策への期待は、期待している者518人(20.3%)よりも、期待していない者1145人(44.8%)の割合の方が高い結果が明らかとなった。

また、多変量解析の結果、婚活機会の確保策や家族構成が変容する中で育児協力者を確保する政策については、政府の少子化対策への期待上昇に寄与する一方で、男性への理解醸成や、若年者の経済支援策を拡充しない限り、政府への期待上昇は見込めないことも明らかとなった。

少子化を取り巻く諸課題は尽きないが、少子化の現状を正しく把握し、政府と国民の認識の乖離を徐々に縮めることで、期待と成果が連動していくことが期待される。引き続き、少子化を巡る現状と課題について分析していく。
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生活研究部   研究員・ジェロントロジー推進室・ヘルスケアリサーチセンター 兼任

乾 愛 (いぬい めぐみ)

研究・専門分野
母子保健・高齢社会・健康・医療・ヘルスケア

経歴
  • 【職歴】
     2012年 東大阪市 入庁(保健師)
     2018年 大阪市立大学大学院 看護学研究科 公衆衛生看護学専攻 前期博士課程修了
         (看護学修士)
     2019年 ニッセイ基礎研究所 入社
     2019年~大阪市立大学大学院 看護学研究科 研究員(現:大阪公立大学 研究員)

    【資格】
    看護師・保健師・養護教諭一種・第一種衛生管理者

    【加入団体等】
    日本公衆衛生学会・日本公衆衛生看護学会・日本疫学会

(2023年05月18日「基礎研レポート」)

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