2023年04月18日

外国人労働者の誘致政策-「先進性」「ソフトパワー」「所得」「人権」

総合政策研究部 准主任研究員 鈴木 智也

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2外国人が日本に来た理由から読み解く、日本の魅力
外国人が日本に来る理由を知ることは、外国人労働者の誘致を考えるうえで手掛かりとなり得る。例えば、2022年に出入国在留管理庁が日本で暮らす中長期の在留外国人を対象に行ったアンケート調査を見ると、日本に来た主な理由には「スキル獲得・将来のキャリア向上のため」(19.3%)、「日本が好きだから」(18.0%)、「勉強のため」(17.1%)、「お金を稼ぐ・仕送り(送金)のため」(15.6%)などが挙げられる[図表8]。

これを解釈すれば日本に来る外国人は、(1)学習意欲やキャリア意識が高い層、(2)日本に好意的な印象を持つ層、(3)出稼ぎを目的とする層、の3つに分類可能であり、賃金だけが日本で働く理由ではないことが分かる。そして、各属性から抽出される日本の魅力は、「技術・サービスの先進性」「ソフトパワーの魅力」「所得環境の優位性」ということになろう。
[図表8]日本に来た理由
(1) 技術・サービスの先進性
日本にやって来る外国人は、学歴・所得階層などの面でみて、人材輩出国の中で上位に位置付けられる層であり5、その学習意欲は総じて高い。そのような人材にとって、先進的な技術に触れられる日本は魅力的に映ると思われる。
[図表9]Top1%補正論文数(分数カウント) 実際、日本の技術力や研究開発力は高い。それは、毎年のようにノーベル賞受賞者が出ることからも明らかだろう。また、日本のサービス品質も高く評価されている。公益財団法人日本生産性本部の調査6によると、調査対象となった分野のほとんどで、日本のサービス品質は米国より高い評価を得ている。

ただ、その優位性は徐々に失われつつあると、多くのデータから示唆されている。例えば、技術力や研究開発力について「論文の被引用回数」をみると、各年各分野で上位1%に入る論文数で日本は順位を落としている[図表9]。また、スイスの著名なビジネススクールの国際経営開発研究所(IMD)が公表した「世界競争力年鑑」によると、かつて高位にあった(1990年代前半には1位だった)日本企業の競争力は、2022年に34位まで低下している。研究開発力を強みだと回答した日本の企業経営者も、全体の29.7%に過ぎない。日本の先進性に疑問符を打つには時期尚早ではあるが、危機感を持つべき兆候が一部の指標に現れている。

学習意欲やキャリア意識が高い外国人材を日本に誘致し続けるには、日本企業が技術・サービスの先進性を磨き続けることが必須であり、政府にはそれを促す改革(税制改正や規制緩和など)が求められる。
 
5 田辺国昭・是川夕監修、国立社会保障・人口問題研究所研編「国際労働移動ネットワークの中の日本 : 誰が日本を目指すのか 」(株式会社日本評論社、2022年)
6 公益財団法人日本生産性本部「サービス品質の日米比較」(2017年7月12日)
(2) ソフトパワーの魅力
日本に対する外国人のポジティブな感情は、日本から発信される情報やインバウンドの体験により形成されていると考えられる。

足元では、経済力や軍事力を梃子として、他国に影響力を及ぼすハードパワーに関心が集まるが、文化や価値観などを共有し、国際社会からの共感や信頼を得るソフトパワーに注目することも、国際競争で優位に立つための有効な手段となる。

2023年3月に英ブランド・ファイナンス社が発表した国家の「ソフトパワー・ランキング7」によると、日本のソフトパワーは世界121カ国中の第4位、アジアでは第1位と高い評価を得ている。このランキングは、ビジネスと貿易、教育と科学、文化と遺産など8つの柱の下にグループ化された35の属性について、世界の一般市民による国家ブランドに対する認識を調査し、親しみやすさ(Familiarity)、評判(Reputation)、影響力(Influence)の3つを重要指標として評価としたものである。今年は「サステナビリティ(Sustainable Future)」が新たに柱の1つに追加され、この項目で評価の高い日本は、前年から順位を1つ上げている。
[図表10]在留外国人の情報収集(先進国以外) また、2016年に総務省が実施した「在留外国人へのアンケート調査」では、来日して滞在1-2年目となる外国人(直近の受け入れ外国人)は、来日前に「日本の伝統文化」「観光」「食生活」などに高い関心を持っていたことが示されている[図表10]。さらに、2018年に内閣府が実施した別の調査8では、「アニメ・マンガ・ゲーム」が日本に興味を持つきっかけになったとの調査結果もある。世界で和食ブームが起こり、日本の農産品の輸出は10年続けて過去最高となった。外国人を魅了する日本のソフトパワーは、これからも外国人労働者を誘致するうえで強力な武器になる可能性が高いだろう。

日本のファンを増やし、日本での就労を希望する外国人材を増やしていくためには、エンターテイメントなどクリエイティブ産業の展開を戦略的に進め、農産品や環境技術の輸出を強化し、ジャパンブランドの形成につなげるクールジャパン戦略の実効性を高める必要がある。
 
7 Global Soft Power Index 2023
8 内閣府「クールジャパンの再生産のための 外国人意識調査」
(3) 所得環境の優位性
国際的な人の移動において、就労機会や所得環境は重要な要素の1つである。国内労働者と同じく外国人労働者も、自らのスキルや知識を最も高く評価してくれるところに移動する。

外国人労働者のうち未熟練労働者については、最低賃金の水準が、所得環境の良し悪しを測る指標の1つとなる。これは日本における未熟練労働者、すなわち技能実習生や留学生のパート・アルバイトなどが、最低賃金で働いていることが多いからだ。日本の最低賃金を外国人労働者の誘致で競合する豪州や韓国などと比較すると、すでに日本の一部地域の最低賃金は韓国を下回っている[図表11]。足元の円安/相手国通貨高が少なからず影響した面はあるものの、最低賃金の水準だけで見れば、外国人労働者にとって日本と韓国は、ほぼ同じ位置づけとなる。

ただ、将来については、楽観を許さない。コロナ禍を含む過去10年平均でみると、韓国の最低賃金は年6%程度で伸びる一方、日本の同期間の平均伸び率は年2.5%程度に過ぎない。この趨勢が今後も続けば、韓国の最低賃金が日本を完全に上回る日も遠くはないだろう。
[図表11]日本と周辺国の最低賃金
他方、専門的・技術的分野の高度人材については、正規雇用者の所得水準が、所得環境の良し悪しを測る指標の1つとなる。日本で働く高度人材は、資格要件の緩和などもあって、日本人と同じように働く正規雇用者のイメージが近いからだ。

日本と比較した各国・各職種の相対的な賃金水準は、高度人材の誘致を競う豪州には明確に見劣りするものの、シンガポールや台湾、韓国などの周辺国に対しては、まだ優位性を確保している[図表12]。ただ、賃金上昇率と表裏一体の関係にある経済の成長力では、いずれの国も日本を上回る状況であることから、現状に安住していてはその優位性も危うくなる。

今後も日本が所得環境面での優位性を維持していくには、持続的な賃金上昇を実現して行くことが必要であり、そのために生産性を引き上げることが不可欠となる。その意味で、日本の構造的な課題として指摘される生産性向上に向けた取組みは、外国人労働者の長期安定的な誘致の観点からも重要だと言える。
[図表12]基本給・月額(正規雇用)

4――外国人労働者と人権

4――外国人労働者と人権

1外国人労働者の社会統合における日本の課題
外国人労働者は、労働市場における貴重な戦力であると同時に、地域社会で暮らす生活者でもある。そのため、労働環境に加えて、外国人の生活環境に分配慮することも重要になる。とりわけ、働き手の減少を受けて、一定数の外国人労働者を長期安定的に受け入れていくことになった場合、外国人労働者を短期で区切って入れ替える現在の政策は、より長い期間受け入れる政策へとシフトしていくことが考えられる。それは、外国人住民を日本社会に受け入れる統合政策の重要性が、ますます高まるということであり、その成否が外国人労働者の誘致に影響するということである。

例えば、各国の移民統合に関する取組を比較したものに「移民統合政策指数」(MIPEX)がある。MIPEXは、ベルギーのブリュッセルに拠点を置く研究組織(Migration Policy Group)が作成した指数であり、8つの政策分野における正規滞在外国人の権利状況を評価した指標である。2020年版で日本の総合順位は56カ国中の第35位。同じアジアに属する豪州や韓国より評価は低くなっている[図表13]。
[図表13]移民統合政策指数(MIPEX)
評価が低い主な要因は、長期滞在しても労働などの基本的権利や、教育などの均等機会が得られないことであり、日本の統合政策は「統合なき受入れ」(やや望ましくない)と評価されている。8つの政策分野のうち、最も評価が低いのは「反差別」の項目であり、全体では56ヵ国・地域の中で下から5番目に位置づけられる。これは、少なくとも順位だけ見れば、日本は2022年Wカップで外国人労働者への非人道的な扱いで批判を浴びたカタールや、同様の制度があるサウジアラビアなどと、同程度に見做されているということである。
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総合政策研究部   准主任研究員

鈴木 智也 (すずき ともや)

研究・専門分野
経済産業政策、金融

経歴
  • 【職歴】
     2011年 日本生命保険相互会社入社
     2017年 日本経済研究センター派遣
     2018年 ニッセイ基礎研究所へ
     2021年より現職
    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会検定会員

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