2023年04月18日

外国人労働者の誘致政策-「先進性」「ソフトパワー」「所得」「人権」

総合政策研究部 准主任研究員 鈴木 智也

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1――はじめに

2022年10月時点で、外国人労働者数は182.2万人と10年連続で過去最高を更新した。ベトナムが全体の25.4%を占めて最多となり、ネパールやインドネシアなど非漢字圏からの受け入れが増える一方、中国や韓国など漢字圏からの受け入れは減少するなど、国籍別構成では変化が認められる。

資格別には、コロナ禍の入国制限や行動自粛の影響なども残り、製造業などにおける技能実習やサービス業における資格外活動(パート・アルバイト)は減少した一方で、留学生がより働き方の柔軟性が高い「技術・人文知識・国際業務」などに移行するケースが増えたことで、専門的・技術的分野の在留資格者が増加している。

昨年は、年初から進んだ円安で出稼ぎ労働者の仕送りが目減りし、外国人からみた日本の所得環境が悪化した。足元では、円安の動きが一服しているものの、経済の正常化に伴って再び人手不足に焦点が当たることになり、外国人労働者を長期的・安定的に確保していくことはできるのか、といった不安が高まっている。

本稿では、外国人労働者を巡る日本の現状と課題を整理し、外国人労働者の受け入れ政策の在り方について考えたい。

2――外国人労働者受け入れが必要となる背景

2――外国人労働者受け入れが必要となる背景

1少子高齢化の進行と人口減少
日本で外国人労働者が求められる背景には、少子高齢化の進行に伴う人口や働き手の減少がある。国内人口の長期推計を年齢階層別にみると、15歳以上65歳未満の生産年齢人口比率は、1990年代前半をピークに減少する一方、65歳以上の老年人口は、2060年に38.1%まで上昇することが見込まれる[図表1]。今年2月に発表された2022年の出生数は、速報値で79.9万人と過去最少を記録し、少子化が予想より11年早く進んでいる現状を浮き彫りにした。少子化に伴う働き手の減少は、経済に重くのしかかる。
[図表1]日本の少子高齢化/[図表2]就業者数の変化(寄与度)
政府は、労働者の裾野を広げるために様々な施策を講じてきた。例えば、2012年に改正した「高年齢者雇用安定法」では、定年や継続雇用の年齢上限を引き上げ、労働者がより長く働くことのできる環境を整備している。また、2016年に施行した「女性活躍推進法」では、出産や子育てを機に労働市場を離れてしまいがちな女性を呼び戻し、働き続けることのできる環境を整備する後押しをしている。これらの政策効果もあって、国内の就業者数は2013年に増加に転じ、女性と高齢者の就業が大きく進むことになった[図表2]。

しかし、国内人材の掘り起こしには限界もある。すでに日本のM字カーブ1は、フランスやドイツなどに遜色しない水準まで改善しているうえ、2025年には団塊世代が75歳以上に到達し、高齢者が労働市場から退出し始める。これから先を見通すと、国内で新たな働き手を見つけることは難しくなる。そこで期待されるのが、国外人材の外国人労働者である。
 
1 女性の労働力率(15歳以上人口に占める労働力人口の割合)を年齢階級別に図式化した際に現れるグラフの形状。M字カーブは、20代後半から30代にかけて、結婚や出産を機に離職する女性が多いことを示す。
2深刻化する人手不足
人口減少に伴う働き手の減少は、すでに人手不足という形で顕在化している。求職者1人に対して何件の求人があるかを示す「有効求人倍率」は、マクロで見ればコロナ禍で経済活動が抑制されていたときでさえ、求人数が求職者数を上回る1倍を超える水準を維持していた[図表3]。

特に人手不足が深刻なのは中小企業。日銀が公表する全国企業短期経済観測調査(短観)の「雇用人員判断DI」は、中小企業が大企業・中堅企業よりも厳しい人手不足に直面していることを示している[図表4]。人手確保は中小企業にとって、重要な経営課題だと言える。

政府は、国内人材の掘り起こしに加えて、すでに国外人材の活用も積極的に取り組んでいる。例えば、2018年改正の「出入国管理及び難民認定法」(入管法)では、特定産業分野における相当程度の知識や経験を有する外国人を誘致するため、新たな在留資格「特定技能」を創設している。また、2023年4月には、高度で専門的な知識や技術を有する外国人材を誘致するため、在留資格「高度専門職」の取得要件を緩和した「特別高度人材制度」を創設し、併せて、若く優秀な国外人材を呼び込むため、在留資格「特定活動」に「未来創造人材」を創設する。様々な受け入れルートを設けることで、多様な人材を日本に呼び込む政策が展開されている。
[図表3]有効求人倍率(パート含む)/[図表4]雇用人員判断D.I.(全産業)
ただ、これらの取組みにも関わらず、外国人労働者が将来不足するとの予測もある。独立行政法人国際協力機構2は、政府が目標とする成長3(年平均GDP成長率1.24%)を実現するには、外国人労働者が2030年に▲63万人、2040年に▲42万人不足すると見込んでいる。
[図表5]外国人労働者への依存度(外国人労働者数/就業者数)
とりわけ、外国人労働者に依存する業種で影響は大きくなる。特に依存度が高いのは「製造業」「宿泊業、飲食サービス業」「サービス業(他に分類されないもの)」など。技能実習生の受け入れ先や、留学生がパートやバイトで働く業種で、依存度が高まっている[図表5]。

これら業種で事業の継続性を高めるには、技術革新で劇的に省力化を進めるか、消費者に不便(サービスの低下やコスト上昇)を受け入れてもらうかしない限り、外国人労働者を安定的に確保することが必要になる。
 
2 独立行政法人国際協力機構「2030/40年の外国人との共生社会の実現に向けた取り組み調査・研究報告書」(2022年3月)
3 厚生労働省「国民年金及び厚生年金に係る財政の現況及び見通し-2019(令和元)年財政検証結果-」における「ケースⅠ(内閣府試算「成長実現ケース」に接続するもの)」を目標とする場合

3――外国人労働者獲得を巡る環境変化と、その対応

3――外国人労働者獲得を巡る環境変化と、その対応

1賃金所得面での見劣り、外国人労働者の供給先細り
ただ、外国人労働者の誘致は、現在より難しくなる可能性が高い。なぜなら、外国人労働者の誘致で競合する諸外国の経済水準が向上し、日本に相対的な優位性がある所得の魅力が低下する一方、外国人労働者の供給元であるアジア周辺国では、人材輩出余力が低下していくことが見込まれるからだ。

例えば、国の平均的な豊かさを示す「1人あたりGDP」で見ると、日本は1990年代前半のバブル崩壊以降に頭打ちとなる一方、韓国や台湾の上昇は継続し、日本と同程度の水準にまで達している[図表6]。これは賃金面で日本が、以前ほど魅力的ではなくなったことを意味する。
[図表6]1人あたりGDP(USドル)/[図表7]高齢化率(65歳以上人口の割合)
また、アジア周辺国では、急速に高齢化が進む[図表7]。日本では高齢化率が10%から30%に上がるのに42年をかけたが、それを中国では37年、韓国に至ってはわずか30年で到達することになる。また、近年受け入れが増えるベトナムでも、2050年代前半に高齢化率は21%を超え、超高齢社会4に突入する。これは、日本への外国人労働者の主要な輩出国においても働き手の減少が問題となり、国際的な人材の供給余力が低下していくことを意味する。

以上のとおり諸外国の経済成長と高齢化の結果として、日本への外国人労働者の誘致は、ますます厳しい局面を迎える可能性がある。
 
4 社会の高齢化を示す尺度として「高齢化社会」「高齢社会」「超高齢社会」がある。その尺度は「全人口に占める65歳以上人口の割合」であり、それぞれ高齢化社会が7%超、高齢社会が14%超、超高齢社会が21%超となる。
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総合政策研究部   准主任研究員

鈴木 智也 (すずき ともや)

研究・専門分野
経済産業政策、金融

経歴
  • 【職歴】
     2011年 日本生命保険相互会社入社
     2017年 日本経済研究センター派遣
     2018年 ニッセイ基礎研究所へ
     2021年より現職
    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会検定会員

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