2023年03月27日

気候関連情報に関する開示の強化(欧州)-銀行・証券・保険の監督者の合同声明

保険研究部 主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任 安井 義浩

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1――ストラクチャードファイナンスに関する気候関連情報開示の強化に関する声明

2023年3月13日、銀行、証券、保険それぞれの監督者からなる欧州監督当局(ESAs)1は、欧州中央銀行(ECB)とともに、ストラクチャードファイナンス商品の気候関連開示に関する共同声明2を発表した。

それによると、ESAsとECBは、それぞれの任務の範囲以内でのより持続可能な経済への移行に関し同意したとのことである。ESG(環境・社会・ガバナンス)の高い基準を満たす金融商品への投資は、EU内でますます重要性を増しており、その中身の資産に関する気候関連情報を開示することは、ストラクチャードファイナンスにとって優先事項になっている。

そのため、EBA、EIOPA、およびESMA(それぞれ下記注参照)と ECB は、性質・規模・複雑さなどに応じて的を絞った気候変動関連情報を、新しく含めることにより、資産証券化商品の情報開示基準の強化に取り組んでいる。

ESAs と ECB はまた、EU全体で、そのような資産の発行者、スポンサー、およびオリジネーターに投資期間中、気候関連リスクに関する、高品質で包括的な情報を、積極的に収集することを要求する。現在の開示の改善を求めるこの要求は、同じタイプの原資産によって裏付けられているすべての資金調達手段にも適用されることになる。
 
1 欧州には銀行、証券、保険の監督者として、欧州銀行監督機構(EBA:European Banking Authority),欧州証券市場監督機構(ESMA:European Securities and Market Authority)、そして欧州保険年金監督機構(EIOPA:European Insurance and Occupational Pensions Authority)があって、これらは総称して欧州監督当局(ESAs:European Supervisory Authorities)と呼ばれる。
2 Joint ESAs-ECB Statement on disclosure on climate change for structured finance products
https://www.eiopa.europa.eu/system/files/2023-03/ESAs-ECB-Joint-Statement-on-disclosures-for-securitisations-6%20March-2023.pdf

2――声明の内容

2――声明の内容

1証券化資産には気候関連データの強化が必要
証券化取引は、多くの場合、気候関連リスクのうち物理リスク・移行リスクに直接さらされる可能性のある資産、すなわち不動産ローンや自動車ローン、などによって裏付けられている。

しかし、現状においてはストラクチャード ファイナンス商品の基盤となる資産に関する気候関連データが欠如している。そのため、気候関連のリスクを適切に評価し、対処するにあたって支障があるだけでなく、今の「EUタクソノミー規則」と「持続可能性および財務開示規則」(SFDR)の下での、商品およびサービスの持続可能性を評価できていない、ともいえる。
 
これらの基礎となる資産は、気候関連の出来事によって影響を受ける可能性があるので、 ESAs と ECB は、既存の気候関連指標に関する報告項目については今後改善する必要があり、さらに追加の指標も必要、との見解を共有している。

追加の気候関連データにより、投資家は、外部ソースを用いて独自に評価する負荷が過度となることなく、気候変動関連リスクをより適切に特定できるようになる。
2ESAsとECBが、ストラクチャードファイナンス商品に対する、より適切で的を絞った開示をサポート
ESAs は、運用会社そのものおよび金融商品に関する透明性と厳格な開示要件の促進に取り組んでいる。

これまでESAs は、「EU タクソノミー規則」 のもとでの技術的な規制および「持続可能性および財務開示規則 」(SFDR)を開発し、アドバイスを行ってきた。また、現在、これら規則を見直して、ESG 開示を強化しようとしている。これには、脱炭素化目標に関する追加の開示を要求することも含まれている。

持続可能な金融は ESAs の重要な優先事項であり、ESG 要因の統合をさらに深めている。こうした活動全体は、今後数年間の行動の焦点となる予定である。
 
一方のECBにとっても、証券化資産に対する気候関連の開示要件の強化は必要である。資産担保証券は、欧州における金融システムのうち、信用業務における担保として、最も重要な資産クラスの 1 つである。さらに、「資産担保証券購入プログラム(ABSPP)」を備えた欧州のシステムも、ユーロ圏のそうした資産における世界最大の投資家の1つになっている。
 
既に、2022 年 7 月、ECB は、購入プログラムと担保フレームワークに気候変動の考慮事項を含めるさらなるステップを開始すると表明した。これは金融政策の実施において、気候関連の金融リスクをよりよく考慮に入れることを目的としている。また その権限の範囲内で、 EU の気候中立目標に沿った「グリーン経済」(持続可能で環境に優しい経済)への移行をサポートすることになる。この流れにおいては、ECB は、関連する EU 当局と協力して、担保として設定された資産の気候関連データの、より適切で調和のとれた開示をサポートすることを約束しているなど、自身が表立つというよりも「触媒」としての役割を果たしている。
3性質・規模・複雑さなどに応じた、標準化され、容易にアクセスできるデータ
証券化における、持続可能性関連の透明性を向上させるための、実質的な取り組みがすでに進行中である。ESAs は、「シンプルで透明性があり、標準化された」証券化の開示のための自発的な持続可能性関連の報告様式を開発している。

さらにEBAは、2022 年 3 月、証券化の中で ESG 基準の策定ガイダンスを提供している。
 
ESMA は、ローンの証券化の開示様式の見直しを行っている。この見直しは、報告様式を可能な限り簡素化する目的だけでなく、投資家と監督者に役立つ、性質・規模・複雑さ等に応じて的を絞った新しい気候変動関連指標を導入することも狙いとしている。

新しい指標は、既存の市場の実務を考慮して、投資家のニーズを満たす必要がある。関連する EU 法 における報告基準をも満たす必要もある。このため、効果的でバランスの取れたアプローチを実現するために、オリジネーターと投資家、および関連する規制機関との結びつきの強化が必要になってくる。
 
とはいえ、具体的な開示義務要件は、今の時点ではまだ整備されていない。
 
しかし、ECB と ESAs はそれとは別に、オリジネーターに対し、ローンの設定時に、投資家が原資産の気候関連リスクを評価するのに必要とするデータを収集するよう、すでに要請を始めている。

証券化の場合、オリジネーターとスポンサーは、既存の証券化開示様式において、任意ではあるが気候関連の事項を記入することが求められている。

気候関連データへの簡単かつシームレス(=操作の一貫性のある)なアクセスは、投資家の透明性と透明性をさらに高めるために登録された証券化リポジトリ(=各種データの蓄積))を通じて利用できる必要がある。これにより、さまざまなアクセスポイント間で情報が断片化されることを避け、オリジネーター、投資家、監督者のコストとリスクを低下させることが可能となる。
4類似の商品に対する一貫した調和のとれた要件を促進することにより、公平な競争条件を促進
最後に、証券化に関する新しい気候変動関連の開示要件の導入により、同じタイプの原資産に裏付けられた同様の資金調達手段(カバードボンド(債権担保付社債)など)にも、同じ情報開示が適用されるようになる。

これらの手段に対する一貫した調和のとれた開示要件は、気候関連リスクを適切に評価し、対処するために必要であり、類似の資産クラス間で公平な競争の場を提供し、投資家の比較可能性を促進し、EU の監督者による平等な取り扱いを促進するだろう。 ESAs と ECB は、それぞれの権限内での将来の開示要件の比較可能性のサポートに取り組んでいるところである。

3――おわりに

3――おわりに

近年、気候変動リスクが注目されてくる中で、金融全般あるいは、保険や年金基金などの個々の分野で、こうした気候関連の情報開示を強化しようという動きがあり、今後も各業界やセクターそれぞれでの検討が進められることになるだろう。

また、同時に気候変動に対するストレステストが実施されたりしている。これには物理的リスク、移行リスク、あるいは同時に発生する金融悪化を組み合わせるものなど、様々なシナリオが考慮されようとしている。またセクター毎の影響度合や回復力を見積もるとともに、(いわばその逆ともいえる)伝染効果や二次的な影響を考慮して、金融システム全体の脆弱性があればそれを評価する、という評価の方向もあり、今後も世界各地・各業界での検討が進んでいくと思われる。
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保険研究部   主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任

安井 義浩 (やすい よしひろ)

研究・専門分野
保険会計・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1987年 日本生命保険相互会社入社
     ・主計部、財務企画部、調査部、ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)(2007年‐2010年)を経て
     2012年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2023年03月27日「基礎研レター」)

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