2023年03月28日

育児は何がしんどいのか?(2)-育児の負担感と肯定感には、「夜間起床回数」と「育児協力者の有無」が有意に影響-

生活研究部 研究員・ジェロントロジー推進室・ヘルスケアリサーチセンター 兼任 乾 愛

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1――はじめに

令和3年6月に育児・介護休業法が改正され1、産後パパ育休の新設、育児休業の分割取得が可能となり、より柔軟に育児休業を取得しやすい制度改革となった。

この育休について、岸田文雄首相は1月27日の衆院予算委員会で「育休中の人のリスキリング(学び直し)について後押しをする」 との発言に対し多くの批判が寄せられ、後日「あらゆるライフステージにおいて本人が希望する場合には後押しする」と釈明があるなど話題を集めた。

これらの発言に対し、リスキリングに対する意識調査が活発となり、約6割が不可能と回答2、そもそも社会人の学び直しの意欲がないこと3を指摘する調査結果も示されることとなった。

これらの動向を受けて、なぜ育休中にはリスキリングができないのか、そもそも育児は何がしんどいのかを明らかにすることを目的に、乳幼児健診で取得した育児中の保護者へのアンケート調査結果を分析した。

本稿では、対児感情尺度からみる育児負担感へ影響を与える要因を多変量解析で分析した。その結果、育児負担感及び育児肯定感に共通して、夜間起床回数と育児協力者の有無が共通して有意な影響を与えることが明らかとなった。

尚、本稿は、基礎研レポート「育児は何がしんどいのか?」の全2部の第2稿にあたり、育児中の状況や、母親の健康状態が、育児負担感へどのように影響を与えるものかを統計学的に分析した結果を示したものである。
 
1 厚生労働省(2022)「育児・介護休業法について」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000130583.html
2 PR TIMES(2023年2月2日),https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000029.000028179.html 
Forbes Japan(2023年2月10日)https://forbesjapan.com/articles/detail/60661
3 株式会社ベネッセコーポレーション「社会人の学びに関する調査2022」(2022年8月4日)
 https://www.benesse.co.jp/lifelong-learning/assets/pdf/news-20230120-report.pdf

2――分析方法

2――分析方法

本調査で用いるデータの特性および、回答者の基本属性については、前稿の調査概要を参照いただきたい4

本稿では、育児の状況や母親の健康状態が、対児感情尺度からみる育児負担感へどのように影響を与えているかを統計学的に分析した結果を示すものである。

統計学的分析方法としては、対児感情尺度の5つの項目を従属変数におき、回答者の基本属性や育児状況、母親の健康状態を独立変数においた重回帰分析を実施した。

対児感情尺度については、平均値と中央値の乖離確認や、尖度歪度やヒストグラム、正規性の検定を用いて、正規分布しているものとみなし、多変量解析の手法は重回帰分析を選択した。

また、独立変数として投入する変数は先行研究にて関連性の検討が実施されているものを強制投入した。独立変数の投入可能数も確認済である。

さらに、多重共線性については、共線性の診断を実施した上で、VIF値が5.0以上もしくは10.0以上がないことを確認した上で解析を実施した。

今回は、質的な変数について、従来の研究にて育児負担感へ影響を与えると考えられるものをダミー変数の1へおき解析した(婚姻有無:既婚0、未婚1、就労有無:就労あり0、就労なし1、家族構成:核家族・複合世帯0、ひとり親1、授乳方法:混合・ミルク0、完全母乳1、寝具状況:別寝具0、同寝具1、育児協力者:いる0、なし1、育児相談者:いる0、なし1、主観的健康状態:良い~普通0、悪い1)5

今回の分析には、世帯収入などの経済的な指標や最終学歴などの教育値は考慮されていないこと、統計学的分析では因果関係は証明できないことにご留意いただきたい。
 
4 基礎研レポート「育児は何がしんどいのか?(1)」(2023年3月24日)参照
5 質的変数をダミー変数へ変換した場合、0と1の置き方により、結果の解釈が異なることにご留意いただきたい。

3――対児感情尺度

3――対児感情尺度「育児への束縛による負担感」についての要因分析

まず、対児感情尺度の5つの項目のうち、「育児への束縛による負担感」への影響について、重回帰分析した結果を、図表1へ示す。

分析の結果、「育児への束縛による負担感」について、育児協力者の有無(P=0.014)、睡眠時間(P=0.007)、夜間起床回数(P=0.001)、主観的健康度(P=0.001)が、有意な影響を与えていることが明らかとなった。

この結果を詳細に解釈していくと、育児協力者がいない者は(育児協力者がいるものと比べて)、睡眠時間が短いほど、夜間起床回数が多いほど、主観的健康度が悪いほど、育児への束縛による負担感が高くなる結果が示された。
図表1.対児感情尺度「育児への束縛による負担感」についての要因分析(重回帰分析)

4――対児感情尺度「子どもの態度や行為への負担感」

4――対児感情尺度「子どもの態度や行為への負担感」についての要因分析

次に、対児感情尺度の5つの項目のうち、「子どもの態度や行為への負担感」への影響について、重回帰分析した結果を、図表2へ示す。

分析の結果、「子どもの態度や行為への負担感」について、年齢(P=0.001)、睡眠時間(P=0.003)、夜間起床回数(P=0.001)が、有意な影響を与えていることが明らかとなった。

また、この結果を詳細に解釈していくと、年齢が高くなるほど(年齢が低い者と比べて)、睡眠時間が短いほど、夜間起床回数が多いほど、子どもの態度や行為への負担感が高くなる結果が示された。
図表2.対児感情尺度「子どもの態度や行為への負担感」についての要因分析(重回帰分析)

5――対児感情尺度「育て方への不安感」

5――対児感情尺度「育て方への不安感」についての要因分析

続いて、対児感情尺度の5つの項目のうち、「育て方への不安感」への影響について、重回帰分析した結果を、図表3へ示す。

分析の結果、「育て方への不安感」について、寝具の状況(P=0.011)、夜間起床回数(P=0.012)、主観的健健康度(P=0.004)が、有意な影響を与えていることが明らかとなった。

また、この結果を詳細に解釈していくと、親と子どもの寝具が別寝具であるほど(同寝具と比べて)、夜間起床回数が多いほど、主観的健康度が悪いほど、育て方への不安感が高くなる結果が示された。
図表3.対児感情尺度「育て方への不安感」についての要因分析(重回帰分析)

6――対児感情尺度「育ちへの不安感」

6――対児感情尺度「育ちへの不安感」についての要因分析

続いて、対児感情尺度の5つの項目のうち、「育ちへの不安感」への影響について、重回帰分析した結果を、図表4へ示す。

分析の結果、「育ちへの不安感」について、年齢(P=0.013)、育児協力者の有無(P=0.039)、 夜間起床回数(P=0.028)が、有意な影響を与えていることが明らかとなった。

また、この結果を詳細に解釈していくと、年齢が高いほど(年齢が低いものと比べて)、育児協力者がいない者は(育児協力者がいる者と比べて)、夜間起床回数が多いほど、育ちへの不安感が高くなる結果が示された。
図表4.対児感情尺度「育ちへの不安感」についての要因分析(重回帰分析)
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生活研究部   研究員・ジェロントロジー推進室・ヘルスケアリサーチセンター 兼任

乾 愛 (いぬい めぐみ)

研究・専門分野
母子保健・高齢社会・健康・医療・ヘルスケア

経歴
  • 【職歴】
     2012年 東大阪市 入庁(保健師)
     2018年 大阪市立大学大学院 看護学研究科 公衆衛生看護学専攻 前期博士課程修了
         (看護学修士)
     2019年 ニッセイ基礎研究所 入社
     2019年~大阪市立大学大学院 看護学研究科 研究員(現:大阪公立大学 研究員)

    【資格】
    看護師・保健師・養護教諭一種・第一種衛生管理者

    【加入団体等】
    日本公衆衛生学会・日本公衆衛生看護学会・日本疫学会

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