2023年03月24日

育児は何がしんどいのか?(1)-完全母乳5割強、同室就寝・育児協力9割強も、睡眠は最短2時間、育児負担感は「育児への束縛による負担感」と「育て方への不安感」がカギ-

生活研究部 研究員・ジェロントロジー推進室・ヘルスケアリサーチセンター 兼任 乾 愛

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6――対児感情尺度からみる育児負担感

最後に、荒牧らが開発した対児感情尺度12という育児負担感を図るスケールを用いて調査した。

その調査の結果、「育児への束縛による負担感」(N=735)は、平均8.38±2.75点、最小が4点、最大が16点であった。「子どもの態度や行為への負担感」(N=734)は、平均7.30±2.96点、最小が4点、最大が19点であった。「育て方への不安感」(N=734)は、平均8.85±2.96点、最小4点、最大16点であった。「育ちへの不安感」(N=733)では、平均6.61±2.5点、最小2点、最大16点であった。「育児への肯定感」(N=733)では、平均14.73±2.5点、最小は4点、最大は16点であった。

育児の肯定感と4つの負担感の点数には大きな乖離があり、グラフにすると負担感の差異が分かりづらいため、今回は4つの負担感だけに絞り、各得点を選択した人数を図表4へ折れ線グラフとして示した。

各負担感の特徴をみると、「育児への束縛による負担感(青線)」では、4点から16点の得点幅のうち、8点に該当する者が114名とピークに山型の曲線を描いている。

「子どもの態度や行為への負担感(緑線)」については、4点から20点の得点幅のうち、5点に該当する者がピークに、高い得点に移行するにつれて該当する者は減少傾向にあることがみてとれる。

「育て方への不安感(赤線)」では、4点から16点の得点幅のうち、12点に該当する者が99名とピークを迎え、8点から12点に該当する者が幅広く存在している。

「育ちへの不安感(オレンジ線)」については、4点から16点の得点幅のうち、4点に該当する者が217名と最も多く、再度8点で該当者が増えるものの、それ以降の高い得点に該当する者は非常に少ない。

これらの各得点に該当する者のピークとボリュームゾーンを考慮すると、ピークが5点にある「子どもの態度や行為への負担感」及びピークが4点にある「育ちへの不安感」などの不安感については、全体的に感じる者は少ない。

一方で、これらよりも得点ピークが高い8点である「育児への束縛による負担感」と、これらの中で最も得点ピークが最も高い12点である「育て方への不安感」については、育児のしんどさとして感じている者が多ことが明らかになった。

また、育児への肯定感に関する設問の平均値が14.73±2.5点であるのに対し、負担感に関する4つの設問の平均は7.93±2.80点と、6.80点ポイントの差があることから、 基本的には、育児に対する肯定感がある中で、育児の負担感も生じている構造と解釈して差し支えない。

しかし、どの設問においても、最小値と最大値の開きがあることから、育児に関する負担感をあまり感じない者がいる一方で、育児に関する負担感を非常に感じている者がいるということにも留意しなければならない。

行政保健師としての臨床経験からも、育児に関する感受性は個人で大きく異なりことを感じており、子どもの標準発達が順調で子どもに関して憂慮する点がなくても、保育者の感じ方、受けとり方ひとつで、大きな負担を感じることがあるということを知る必要がある。

尚、本分析で明らかになった育児負担感に対する支援策については、別稿で現状と課題を分析する。
図表4.対児感情尺度からみる育児負担感
 
12 荒牧らが開発したこの「対児感情尺度」は、「育児への束縛による負担感」、「子どもの態度や行為への負担感」、「育て方への不安感」、「育ちへの不安感」、「育児への肯定感」の5つの項目で構成されている。他のスケールでは、育児の負担だけを問われると、育児負担が実測よりも大きいと感じて回答してしまうバイアスがかかる可能性が拭えないが、このスケールは育児の肯定感を設問へ入れていることで、育児で感じるプラス面とマイナス面がバランスよく測れるとされている。

7――まとめ

7――まとめ

本稿では、自治体の乳幼児健診で取得した育児中の保護者への質問紙調査のデータを、統計学的分析した。

その結果、育児の状況として、完全母乳が5割強、子どもとの同室就寝が9割強を占めており、また、育児協力者がいる者は9割強であるにも関わらず、育児中の睡眠時間が最短2時間であるなど育児中の母親の健康状態に影響を及ぼしかねない実態が明らかとなった。

また、対児感情尺度の結果をみると、全体的に「育児への肯定感」が最も高いものの、「育児への束縛による負担感」と、「育て方への不安感」のピークとボリュームゾーンが、「子どもの態度や行為への負担感」よりも高いことが明らかとなった。

育児のしんどさとは、子どもの特性に起因するものよりも、保育者側の育児による束縛感や不安感が強く影響していることが示唆された。

次稿では、本稿で得られた育児の状況や母親の健康状態が、育児負担感にどの程度影響するのかを統計学的に分析する予定である。
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生活研究部   研究員・ジェロントロジー推進室・ヘルスケアリサーチセンター 兼任

乾 愛 (いぬい めぐみ)

研究・専門分野
母子保健・高齢社会・健康・医療・ヘルスケア

経歴
  • 【職歴】
     2012年 東大阪市 入庁(保健師)
     2018年 大阪市立大学大学院 看護学研究科 公衆衛生看護学専攻 前期博士課程修了
         (看護学修士)
     2019年 ニッセイ基礎研究所 入社
     2019年~大阪市立大学大学院 看護学研究科 研究員(現:大阪公立大学 研究員)

    【資格】
    看護師・保健師・養護教諭一種・第一種衛生管理者

    【加入団体等】
    日本公衆衛生学会・日本公衆衛生看護学会・日本疫学会

(2023年03月24日「基礎研レポート」)

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