2023年03月24日

中国経済:景気指標の総点検(2023年春季号)-1-3月期の成長率は4%を超える可能性

三尾 幸吉郎

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1. 中国経済の概況

(図表-1)中国の国内総生産(GDP) 昨年の中国経済は実質で前年比3.0%増と、前年の同8.4%増から大きく減速し、政府目標とした「5.5%前後」は未達に終わった。 

この1年を振り返ると(図表-1)、第1四半期(1-3月期)には新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の新規感染が少なかったこともあって、前年同期比4.8%増と政府目標をやや下回ったものの堅調だった。しかし、第2四半期(4-6月期)には新規感染が急増し死亡者も多くでて上海市などで事実上のロックダウン(都市封鎖)を実施したことなどから、同0.4%増と政府目標を大きく下回った。第3四半期(7-9月期)には新規感染が減り死亡者もゼロだったが、党大会(開幕は10月16日)が間近に迫る中で、中国政府がちょっとした感染に対しても厳格な防疫管理を行なう「ゼロコロナ政策」をとったため、同3.9%増と緩やかな回復にとどまった。第4四半期(10-12月期)に入り、10月に党大会を終えた中国では11月11日に「20条措置」を発表しゼロコロナ政策を緩和し始めた(図表-2)。しかし、その方針が地方政府に十分徹底されなかったため抗議活動が起こるなど混乱を招き、経済活動はさらに落ち込んだ。12月7日に改めて「10条措置」を発表した上で、孫春欄副首相が前面に出て防疫緩和を徹底したことで、中国政府が断固としてウィズコロナ政策に移行する方針であることが、ようやく地方政府に徹底されたものの、全国各地で感染爆発が起きるのは避けられず、中国経済は失速し、実質成長率は前年同期比2.9%増にとどまった。
他方、インフレの状況を見ると(図表-3)、工業生産者出荷価格(PPI)は前年比4.1%上昇した。原油高を背景に採掘品が同16.5%上昇し、原材料も同10.3%上昇と高騰した。但し、加工品は同1.5%上昇とそれほど値上がりせず、消費財も同1.5%上昇と小幅な上昇にとどまった。これを受けて消費者物価(CPI)は同2.0%上昇と、政府の抑制目標「3.0%前後」を下回った。輸送用燃料は同20.9%上昇と高騰したものの、その他のモノはあまり値上がりせず、COVID-19の第2波で消費意欲が減退していたこともあって、サービス価格が同0.8%上昇と低い上昇率にとどまった。
(図表-2)COVID-19の新規感染者(2022年)/(図表-3)消費者物価(CPI)と工業生産者出荷価格(PPI)

2. 供給面の3指標

2. 供給面の3指標

鉱工業生産(実質付加価値ベース)を見ると(図表-4)、23年1-2月期は前年同期比2.4%増と、昨年12月の同1.3%増からわずかながらも持ち直した。季節調整後の前月比で見ても年率換算で1月が+3.2%程度、2月が+1.4%程度と回復の勢いは極めて緩やかである。主力産業のひとつである自動車生産を見ると(図表-5)、1-2月期は362万台余りで前年同期比14.4%減と、大幅な減産となった。2L以下の取得税半減で好調だった乗用車が同13.8%減となっただけでなく、商用車の生産も同17.7%減に落ち込んだ。ただし、鉄精錬加工、鉄道・船舶・航空宇宙・その他運輸設備、電気機械・設備などでは生産が持ち直し、全体では小幅に回復することとなった。
(図表-4)鉱工業生産(実質付加価値ベース、一定規模以上)/(図表-5)中国の自動車生産
他方、製造業PMI(製造業購買担当者景気指数)を見ると(図表-6)、23年1月は50.1%、2月は52.6%と、昨年12月の47.0%をボトムに上昇に転じ、拡張・収縮の境界線となる50%を2ヵ月連続で上回った。予測指数も昨年11月に付けた48.9%をボトムに3ヵ月連続で上昇し、23年2月は57.5%と昨年2月以来の高水準となった。将来に対する不安は解消に向いつつあるようだ。

非製造業PMI(非製造業商務活動指数)を見ても(図表-7)、23年1月は54.4%、2月は56.3%と、昨年12月に付けた41.6%をボトムに上昇に転じ、拡張・収縮の境界線となる50%を2ヵ月連続で上回った。予測指数も昨年11月に付けた54.1%をボトムに持ち直し、23年に入ると1月、2月ともに64.9%と、コロナ前(2019年)のレベルを上回る高水準となった。製造業だけでなく非製造業においても、将来に対する不安は解消に向いつつあるようだ。
(図表-6)製造業PMI/(図表-7)非製造業PMI

3. 需要面の3指標

3. 需要面の3指標

個人消費の代表指標である小売売上高を見ると(図表-8)、23年1-2月期は前年同期比3.5%増と、昨年12月の同1.8%減からプラスに転じた。季節調整後の前月比で見ると、年率換算で1月は+7.6%程度と持ち直したものの、2月には-0.2%程度と再びマイナスに転じるなど、回復への道のりは厳しそうだ。消費者信頼感指数を見ても(図表-9)、昨年11月の85.5ポイントをボトムに持ち直しているとは言え、依然として低水準にとどまっている。
(図表-8)小売売上高の推移/(図表-9)消費者信頼感指数
投資の代表指標である固定資産投資(除く農家の投資)を見ると、23年1-2月期は前年同期比5.5%増と、昨年12月の同2.9%増(推定1)から持ち直した。季節調整後の前月比で見ると、年率換算で1月は+2.7%程度、2月は+9.0%程度と、徐々に回復してきている。内訳を見ると(図表-10)、インフラ投資は前年同期比9.0%増と昨年12月の同14.9%増(推定)と伸びが鈍化したものの、製造業は同8.1%増と昨年12月の同6.9%増(推定)を上回った。不動産は同5.7%減と昨年12月の同12.2%減(推定)を上回り、つるべ落としの悪化は治まったが底打ちしていない。

輸出(ドルベース)の状況を見ると(図表-11)、23年1-2月期は前年同期比6.8%減と昨年12月の同10.0%減をマイナスながらも上回った。但し、欧米など輸出先の景気には大きな懸念がある。
(図表-10)投資の3大セクターの推移/(図表-11)輸出(ドルベース)の推移
 
1 中国では、統計方法の改定時に新基準で計測した過去の数値を公表しない場合が多く、また1月からの年度累計で公表される統計も多い。本稿では、四半期毎の伸びを見るためなどの目的で、中国国家統計局などが公表したデータを元に推定した数値を掲載している。またその場合には“(推定)”と付して公表された数値と区別している。

4. その他の4指標と景気の総括

4. その他の4指標と景気の総括

以上で概観した供給面3指標と需要面3指標に、電力消費量、道路貨物輸送量、工業生産者出荷価格、通貨供給量(M2)の4指標を加えた10指標に関して、それぞれ3ヵ月前と比べて上向きであれば“○”、下向きであれば“✖”、横ばいなら“-”として一覧表にしたのが図表-12である。なお、23年1月、2月は道路貨物輸送量の統計が未発表なので、それを反映しない暫定値である。
(図表-12)景気評価総括表(〇×表、3カ月前と対比)
景気の方向性を表す評価点(〇の数)を見ると、23年1月は6点(暫定)、2月は7点(暫定)と、景気良悪の分岐点となる5点を2ヵ月連続で上回った。昨年12月までは5ヵ月連続でそれを下回っていたが、半年ぶりに景気が改善することとなった。
 
需要面の指標を見ると、内需関連の小売売上高と固定資産投資はここ数ヵ月“○”と“✖”が交互に出現する一進一退の状態にある。外需関連の輸出は7ヵ月ぶりに“○”に転じた。今後の輸出は“○”が続くのか、それとも直ぐに“✖”に戻ってしまうか注目される。

供給面の指標を見ると、鉱工業生産、製造業PMI、非製造業PMIがともに2ヵ月連続で“〇”となった。昨年12月までこの3指標はいずれも“✖”が目立つ状況だったが、改善の兆しである。

その他の指標を見ると、電力消費量は3ヵ月連続の“〇”となった。昨年9月から11月にかけては前年比1%前後の伸びにとどまり“✖”だったが、ようやく改善の兆しがでてきた(図表-13)。道路貨物輸送量は前述の通り23年1月、2月の統計が未発表で不明である。但し、入港船舶数を見ると(図表-14)、1月は前年を下回ったものの、2月以降は上回っていることから、今年2月か3月には“〇”に転じる可能性がある。工業生産者出荷価格(PPI)は3ヵ月連続で“✖”となった(2ページの図表-3)。但し、原材料価格が23年2月に前月比0.7%高と底打ちしてきたので、それが加工工業に波及する可能性もあるため、今後の動向を注視したい。通貨供給量(M2)は2ヵ月連続で“〇”となった。昨年秋以降は“○”と“✖”が交互に出現する一進一退の状態だったが、年明けとともに増加傾向が明らかとなってきた(図表-15)。
(図表-13)電力消費量/(図表-14)主要20港の出航船舶数(30日MA)
(図表-14)通貨供給量(M2)と社会融資総量/(図表-15)経済成長率と景気インデックス
最後に、鉱工業生産、サービス業生産、建築業PMIの3つを説明変数として、実質成長率を推計した「景気インデックス」を確認しておこう。推計結果は23年1月が前年同月比3.8%増、2月が同4.5%増で、1-2月の平均値は前年同期比4.15%増となった(図表-16)。前四半期(22年10-12月期)の実質成長率は前年同期比2.9%増だったのでそれを上回った。したがって、4月18日に公表される予定の1-3月期の成長率は4%を上回る可能性がでてきた。もちろん3月の景気がどうなるかによって振れるだろう。しかし、昨年3月は上海市で新型コロナ感染が広がり始めた時期であるため基準値が低い。その前年同月と比べる今年3月の景気指標は高い伸びとなりやすい。現在、市場のコンセンサスは3.2%前後となっているだけに、ポジティブ・サプライズに備えておく必要があるだろう。
 
 

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三尾 幸吉郎

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(2023年03月24日「Weekly エコノミスト・レター」)

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