2023年03月23日

日銀短観(3月調査)予測~大企業製造業の業況判断DIは5ポイント下落の2と予想、設備投資は先送り傾向が強めに

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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3月短観予測:製造業の景況感悪化が顕著に、先行きはやや改善へ

(大企業非製造業の景況感は相対的に堅調) 
4月3日に公表される日銀短観3月調査は、製造業における景況感の悪化が目立つ結果になりそうだ。原燃料価格が高止まるなか、大企業製造業では海外需要の落ち込みや世界的な半導体市場の悪化が響き、業況判断DIが2と前回12月調査から5ポイント下落すると予想している(表紙図表1)。この場合、景況感の悪化は2021年12月調査以降5四半期連続ということになる。一方、大企業非製造業では、水際対策の緩和などの政策的な追い風もあって経済活動再開の流れが続いたことを受け、業況判断DIが18と前回から1ポイントの下落に留まり、相対的に堅調を維持すると見込んでいる。
 
ちなみに、前回の12月調査1では、原燃料価格の高騰が引き続き景況感の重荷となったうえ、中国経済の回復の遅れなどに伴う海外需要の低迷もあり、大企業製造業の景況感が弱含んだ。一方、非製造業では、経済活動再開の流れが続いたことで景況感が改善していた(図表2・3)。
(図表2)前回調査までの業況判断DI/(図表3)主な業種の業況判断DI(大企業)
前回調査以降も原燃料価格の高止まりが続くなか、海外経済の減速を背景とする輸出の落ち込みや世界的な半導体市場の低迷、自動車産業での長引く供給制約などにより事業環境が厳しさを増しているとみられ、大企業製造業では景況感が明確に悪化すると見ている。前回調査以降にやや円高が進んだことは、円建て輸入価格を押し下げることで原燃料高の抑制に繋がっているものの、輸出割合の高い加工業種では輸出採算の悪化などを通じて景況感の重荷になったと考えられる。

非製造業についても、原燃料価格の高止まりや物価高による消費者マインドへの悪影響が景況感の重荷となったものの、政府による水際対策の緩和や旅行支援策もあって経済活動再開の流れが続いていることから、対面サービス業を中心に相対的に堅調な景況感が示されると見ている(図表4~7)。
 
中小企業の業況判断DIは、製造業が前回から4ポイント下落の▲6、非製造業が2ポイント下落の4と予想している(表紙図表1)。大企業同様、製造業の景況感悪化が大きめになると見込んでいる。
(図表4)生産・輸出・消費の動向/(図表5)鉱工業生産の動向(実績・予測)
(図表6)国内延べ宿泊者数の動向/(図表7)ドル円と輸入物価の動向
先行きの景況感については、バラツキが出るものの、総じて大幅な改善は見込み難いと見ている(表紙図表1)。まず、製造業ではゼロコロナ政策を撤回した中国経済回復への期待により、景況感の改善が見込まれるものの、急速な利上げに伴う欧米の景気減速や円高進行懸念が改善を抑制する形となりそうだ。また、非製造業ではインバウンド需要の回復やコロナの5類移行に伴う経済活動の正常化期待が景況感の支えになるものの、強まる人手不足感や物価高による消費減退への警戒感がやや優勢となるだろう。中小企業非製造業はもともと先行きを慎重に見る傾向が強く、先行きにかけて景況感の改善が示されることが稀であるため、今回も先行きにかけて明確な悪化が示されると予想している。
 
なお、今月上旬以降、米銀の破綻を発端として欧米の金融システム不安が高まっているものの、調査時期の関係で、今回の短観には殆ど織り込まれない可能性が高い。
 
1 前回12月調査の基準日は11月28日、今回3月調査の基準日は3月13日(基準日までに約7割が回答するとされる)。
(設備投資計画は依然高い伸びを示すが、下方修正幅は大きめに)
2022年度の設備投資計画(全規模全産業)は、前年比12.0%増と3月調査(1997年以前は2月調査)としては1990年度以来の高い伸びが示され、前年度から大幅に持ち直すとの計画が維持されると予想している(図表8~10)。

ただし、前回調査からの修正幅は▲3.1%ポイントと例年2よりも下方修正が大きめになると見ている。もともと3月調査(実績見込み)では大企業を中心に下方修正が入り、全体としても小幅に下方修正される傾向があるが、足元では既往の資源高や円安によって資材価格が高止まりしているうえ、海外経済の減速などの事業環境悪化を受けて、製造業を中心に投資を先送りする動きが強まっていると考えられるためだ。

また、今回から新たに調査・公表される2023年度の設備投資計画(全規模全産業)は、2022年度見込み比で0.7%増になると予想。例年3月調査の段階では翌年度計画がまだ固まっていないことから前年割れとなる傾向が強いものの、(例年より大きめとなることが予想される)2022年度計画からの先送り分が23年度計画を押し上げると見込まれるほか、既往の収益回復を受けた投資余力の改善、脱炭素・DX・省力化に向けた投資需要の存在が堅調な来年度計画の背景となるだろう。
(図表8)設備投資関連指標の動向/(図表9)設備投資計画推移(全規模全産業)
(図表10)設備投資計画の予測表
 
2 2012~21年度における3月調査での修正幅は平均で▲0.7%ポイント
(注目ポイント:設備投資計画、仕入・販売価格判断DI)
今後の日本経済の行方を占ううえで、今回の短観で特に注目される項目としては設備投資計画が挙げられる。既述の通り、前回調査では製造業が牽引する形で、2022年度計画として前年比15.1%増(22年度・全規模全産業)と極めて高い伸びが示されていた。今回も前年比での伸びは高い水準を維持するとみられるが、予想される製造業の景況感悪化がどの程度、計画の下方修正という形で波及するのかがポイントになる。さらに、今回から新たに調査・公表される2023年度の設備投資計画において、どこまで堅調な設備投資計画が引き継がれるのかという点も注目される。

内需の一つの柱である設備投資について、堅調な計画が維持されるのかという点は日本経済の回復の持続性や下振れリスクに対する耐久力を左右する。
(図表11)仕入・販売価格DI(全規模) また、前回に続いて、仕入価格判断DIと販売価格判断DIの重要性も高い(図表11)。

輸入物価上昇によるコストプッシュ圧力を主因として国内でも物価上昇が加速しており、家計の負担感が強まっている。直近では円安が一服したことで輸入物価の上昇圧力は和らいできているものの、これまでの価格転嫁の遅れを取り戻すべく、企業による値上げ発表は続いている。

企業において、先行きにかけて、どの程度の仕入価格上昇と販売価格引き上げが見込まれているのかという点は、当面の物価上昇の持続性を計るうえでの重要な手がかりとなる。
(緩和修正のハードルを下げる材料になるか)
今回の短観の内容自体は、日銀によるさらなる緩和修正のハードルを下げる材料になる可能性がある。

現在の日銀にとって喫緊の課題は債券市場の歪みと機能度の改善であるため、日銀が長期金利操作目標の変更といったさらなる緩和修正に踏み切るかどうかを決める最大の要素は債券市場の動向ということになる。

ただし、債券市場の機能度改善を意図した金融緩和の修正は、これまでもそうであったように、基本的に金利の上昇を許容する方向になると考えられるため、日銀としては、修正による景気や物価に対する下押し圧力も考慮する必要がある。

そうした意味で、今回の短観において来年度にかけての堅調な設備投資計画や、先行きにかけての販売価格判断DIの高止まりが示されれば、その度合いにもよるが、日銀にとっては緩和修正のハードルが下がることになるだろう。

ただし、既述の通り、今月に入ってから欧米の金融システム不安が高まっており、その動向や影響が懸念される状況になっている。仮に情勢がさらに悪化して海外経済が下振れしたり、金融市場が緊迫化したりすれば、短観の内容がどうあれ、金融引き締め方向となる日銀の緩和修正は先送りになる可能性が高い。
 
 

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(2023年03月23日「Weekly エコノミスト・レター」)

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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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