コラム
2023年03月06日

2021年/2000年 都道府県の「赤ちゃん数維持力」-圧倒的維持力の東京都・女性移動が生み出すエリア人口の未来-

生活研究部 人口動態シニアリサーチャー 天野 馨南子

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【出生率比較が生み出した大きな誤算】

2023年2月末に厚生労働省より人口動態統計速報として2022年12月月報が公開され、2022年の出生数が80万人割れとなったことが話題となった。ここで注意したいのは、人口問題は戦争や大災害などの大きな人口欠損があった場合は例外として、単年度や直近数年の数値を比較分析してもあまり意味のある数値とはならないということである。
 
例えば1人の20代女性を例として考えてみよう。その女性がX年に全く出産しなかったとしても、翌X+1年に出産をすれば、その女性の生涯における出生数は0から1に一気に増加する。更に平均的な出産間隔から、2年間隔で第2子目を授かったとすると生涯の出生数は2に増加する。出生率について誤解している方が非常に多いが、そもそも合計特殊出生率(以下、出生率)は女性1人当たりの生涯の出生数を表す指標である。その計算は、エリアに居住する女性が15歳から49歳の期間において授かる1人当たりの子どもの数を推計している。ゆえに、出生数や出生率は単年度や数年でその変化を見ることにはあまり適していない。長いスパンで変化をみることで、出生力(人口維持力)に関する正しい情報を得ることができる。
 
また、繰り返しになるが、出生率はあくまでも女性1人当たりが授かる子どもの数の指標である。エリア全体で授かる総数を全く意味していない。従って、日本のように移民が極めて少ない(2%台1)国であれば、出生率という女性1人当たり指標の変化をもって出生数の総数の変化を推量してもほぼ問題がないが、自治体のように女性が頻繁にエリア間で移動するような単位では、1人当たりの出生率の増加をもって「わがエリアの女性1人当たりの子どもの数が増えた。だからエリア全体での総数も増えている(はず)。少子化対策は成功している。」と結論づけることは早計だ。何故ならば、そのエリアから女性人口が移動で純減している場合、1人当たり女性の出生数が上がったとしても、出生した子どもの総数では下落しているケースも多く、また、子どものいない独身女性がエリア外に出ていったためにエリア内での既婚率が上がり、結果として1人当たり指標の出生率まで上がってしまうからである。
 
日本の自治体における少子化政策において出生率を「出生数の合計指標」と誤って読み替えてしまい、少子化対策の最終ベンチマークとする過ちが少なくない。そこで、このような誤解によって何が起こっているのか、以下にランキングを示して誤解への気づきを促してみたい。
 
1 出入国在留管理庁「令和4年6月末現在における在留外国人数について」(令和4年10月14日報道発表資料)

【東京都は2000年の95%水準を維持して赤ちゃん数維持力首位を独走】

2000年と比較して2021年においてどの程度出生数が変化したか、都道府県ランキングで示したものが下図である(図表1)。
【図表1】2000年~2021年 都道府県別「出生数」維持力ランキング(%)
厚生労働省が公開している保健所統計で、全体出生率と年齢別出生率の相関を取れば明らかであるのだが、全体の出生率の高低を支配しているのは、20代から30代までの女性の出生率の高低である。10代女性はほとんどが未婚で出産に関与していないので、全体出生率への影響はほぼない。また40代以上の女性も、大半が既婚者であり、産み終えている人口が主流である2ため、新規に赤ちゃんを授かる割合が低いため統計的にみれば全体の出生率に影響力を持たない程度となる。
 
そのため、エリアの出生数は、

(1) そのエリアが抱える20代から30代前半の女性人口(ボリューム)
(2) そのエリアにおける女性の1人当たり出生力(出生率)

により決定される。自治体によっては、(2)だけを測定しているケースがみられるが、これは誤りである。そこで、(1)と(2)の総合力として生み出される赤ちゃん数について長期的な視点で2000年から2021年の変化率を都道府県別に計算したものが上記ランキングとなっている。エリアが持つ出生数維持力(エリア人口の維持力)を端的に示している。

結果として、エリアが抱える20代から30代前半の女性人口数と、エリア女性の1人当たり出生力(出生率)が生み出す「赤ちゃん数維持力」の総合力において、東京都が2位の沖縄県を8ポイント引き離して圧勝という形となった。コロナ禍中にありながらも、21年前の出生数の95%を維持していることがわかる。全国平均が68%水準であることからも、東京都の出生数の維持力の高さが明確に示されている。

「出生率が最下位の東京都は、最も赤ちゃんが減っているエリアなのだろう」などと考えている読者がいたとしたら、衝撃的な結果といえるだろう。むしろ赤ちゃん数の維持という点ではけん引役を担っているのである。どうしてこんなことが起きているのだろうか。

東京都では、バブル崩壊後の1996年に女性の転入超過が始まって以降、2022年の昨年を含めて既に27年間にわたり絶えることなく女性の転入超過が続いている。その規模は四半世紀で地方県1県分にも匹敵する90万人以上の女性人口が東京都に純増している。しかもその大半が20代前半の就職移動期の年齢であり、20代前半のほぼ未婚の女性が地方から東京都に供給され続けているのである。

合計特殊出生率の計算に最も影響を及ぼす年齢層に該当する独身女性が、毎年大量に東京都に送り込まれるために、出生率の分母となる女性の独身割合は高まり、必然的に女性1人当たりの出生力の指標である出生率は、東京都の少子化対策とは無関係に低下することになる。

従って、東京都の出生率の低さをもって「東京都の少子化対策が不十分」と批判するのは、出生率の因果関係を完全に読み間違えているといえる。地方が東京都に若い独身女性を送り込む人口動態をストップすることができるならば、東京都の出生率はそれだけで引き上がるからである(限界集落で独身女性がエリア外に転出しただけで出生率が大きく上がることと、正反対の現象となる)。

常に出生率が最下位の東京都よりも、あるいは全国平均よりも出生率が高い(2021年では35エリアの出生率が全国平均以上)ことを根拠に「少子化対策はまだマシな方である」と考えてきたかもしれないエリアが、赤ちゃん数の維持力でランキング下位に並んでいる様子がみてとれる(図表2)。
【図表2】2021年/2000年の出生数が60.00%未満のエリア(順位は図表1の順位)14エリアの中で2021年の合計特殊出生率が全国平均(1.31)以上あるエリアは11エリアにも達する
図表1における赤ちゃん数の維持力で下位にあるということは、すなわち、他のエリアよりも急激に赤ちゃんが減っており、そのエリアの未来人口が他のエリアよりも急速に減少してゆくことを示している。出生率に関係なく、東京都は統計的な結論から言えば日本において「非少子化ナンバーワンエリア」である。
 
2 厚生労働省「人口動態調査」2021年において、30代までの母親からの出生数が76万人となり、全体の94%を占める。

【出生「数」をベンチマークとした地方少子化政策を】

日本全体で考えるならば出生率で判断しても今のところ問題はないが3、都道府県レベルでの比較をする場合は、女性人口の移動がエリアの出生数に与える影響が非常に大きくなっており、その結果、出生率の高低のみで政策の効果に過大に自信をもったり、逆に自信を失ったりしてはエリアの少子化政策の目標を完全に見失ってしまう。

そもそも少子化対策とは、そのエリアに生まれる赤ちゃんをできる限り減らさない、もしくは増やそうとする政策であることを再確認したい。 そして、そのためには既婚女性にのみ「子育て支援」「妊活支援」を強いることが最優先ではないことも改めて確認する必要があるだろう。

日本における少子化は既婚女性1人当たりの出生数の減少が大きいために起こっているのではない。半世紀で4割水準にまで出生数が減っているが、その出生数を生み出すカップル数が出生数と同様に4割水準にまで減少していることが原因であり、出生率の計算対象となる女性数の減少の倍速でカップル数が減少しているのだ。

国家単位で言えばそれは「未婚化」というなんとも広義なイメージをもつ説明となるが、人口減少が顕著な地方の視点で言うと「地元から結婚対象となる若い独身女性が出て行ってしまったので、そのようなエリアでは未婚化(カップル数激減)するのは当たり前」という非常にわかりやすいファクターとなる。

地元エリアに住む女性が、就職期にエリア外に大規模に移動することにより発生している人口減少について、今一度「女性という存在のライフデザインを『結婚して子どもを産み、家事をして介護もする』人」という視点からのみ捉えて政策をたてていないか、改めて検証してほしい。特に女性流出エリアはそのエリアの有する女性像のアンコンシャス・バイアスと戦うことが、少子化対策の1丁目1番地といえるだろう。
 
3 カナダのように人口の2割以上を移民人口が占めるような国の場合は、出生率は独身女性人口を大量に受け入れれば必然的に低下するので国家単位でも出生率は人口維持の最終ベンチマークとはならない。

(2023年03月06日「研究員の眼」)

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生活研究部   人口動態シニアリサーチャー

天野 馨南子 (あまの かなこ)

研究・専門分野
人口動態に関する諸問題-(特に)少子化対策・東京一極集中・女性活躍推進

経歴
  • プロフィール
    1995年:日本生命保険相互会社 入社
    1999年:株式会社ニッセイ基礎研究所 出向

    ・【総務省統計局】「令和7年国勢調査有識者会議」構成員(2021年~)
    ・【こども家庭庁】令和5年度「地域少子化対策に関する調査事業」委員会委員(2023年度)
    ※都道府県委員職は就任順
    ・【富山県】富山県「県政エグゼクティブアドバイザー」(2023年~)
    ・【富山県】富山県「富山県子育て支援・少子化対策県民会議 委員」(2022年~)
    ・【三重県】三重県「人口減少対策有識者会議 有識者委員」(2023年~)
    ・【石川県】石川県「少子化対策アドバイザー」(2023年度)
    ・【高知県】高知県「中山間地域再興ビジョン検討委員会 委員」(2023年~)
    ・【東京商工会議所】東京における少子化対策専門委員会 学識者委員(2023年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する情報発信/普及啓発検討委員会 委員長(2021年~)
    ・【主催研究会】地方女性活性化研究会(2020年~)
    ・【内閣府特命担当大臣(少子化対策)主宰】「少子化社会対策大綱の推進に関する検討会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府男女共同参画局】「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府委託事業】「令和3年度結婚支援ボランティア等育成モデルプログラム開発調査 企画委員会 委員」(内閣府委託事業)(2021年~2022年)
    ・【内閣府】「地域少子化対策重点推進交付金」事業選定審査員(2017年~)
    ・【内閣府】地域少子化対策強化事業の調査研究・効果検証と優良事例調査 企画・分析会議委員(2016年~2017年)
    ・【内閣府特命担当大臣主宰】「結婚の希望を叶える環境整備に向けた企業・団体等の取組に関する検討会」構成メンバー(2016年)
    ・【富山県】富山県成長戦略会議真の幸せ(ウェルビーイング)戦略プロジェクトチーム 少子化対策・子育て支援専門部会委員(2022年~)
    ・【長野県】伊那市新産業技術推進協議会委員/分野:全般(2020年~2021年)
    ・【佐賀県健康福祉部男女参画・こども局こども未来課】子育てし大県“さが”データ活用アドバイザー(2021年~)
    ・【愛媛県松山市「まつやま人口減少対策推進会議」専門部会】結婚支援ビッグデータ・オープンデータ活用研究会メンバー(2017年度~2018年度)
    ・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータアドバイザー会議委員(2020年度~)
    ・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータ活用研究会委員(2016年度~2019年度)
    ・【中外製薬株式会社】ヒト由来試料を用いた研究に関する倫理委員会 委員(2020年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する意識調査/検討委員会 委員長(2020年~2021年)

    日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA)
    日本労務学会 会員
    日本性差医学・医療学会 会員
    日本保険学会 会員
    性差医療情報ネットワーク 会員
    JADPメンタル心理カウンセラー
    JADP上級心理カウンセラー

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