2023年03月07日

オフィス市場の調整は小休止。ホテル市場はコロナ前を回復-不動産クォータリー・レビュー2022年第4四半期

基礎研REPORT(冊子版)3月号[vol.312]

金融研究部 主任研究員 佐久間 誠

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国内経済は、民間消費を軸に回復基調にある。住宅市場は、マンション等の販売状況がやや弱含むなか、価格の上昇ペースが鈍化している。

オフィスセクターの調整は小休止した。東京23区のマンション賃料は、コロナ禍における調整局面を脱している。ホテル市場はコロナ禍前の水準を回復した。物流賃貸市場は、首都圏の空室率が上昇した一方、近畿圏の空室率は横ばいとなった。

1―経済動向と住宅市場

2022年10-12月期の実質GDPは、前期比+0.2%(前期比年率+0.6%)と2四半期ぶりのプラス成長になった。民間消費が堅調を維持する一方、設備投資と住宅投資が減少し国内需要は5四半期ぶりに減少したが、訪日客数の増加からサービス輸出が高い伸びを示すなど外需がプラスに寄与した。

ニッセイ基礎研究所は、2月に経済見通しの改定を行った。実質GDP成長率は2022年度+1.3%、2023年度+1.0%、2024年度+1.6%を予想する。実質GDPが直近のピーク(2019年7-9月期)を上回るのは、2024年4-6月期になると予想するが、金融引き締めに伴う欧米の景気後退や中国経済への懸念、冬場の電力不足による経済活動の制限など下振れリスクの高い状態が続く見通しである。

住宅市場では、マンション等の販売状況がやや弱含むなか、価格の上昇ペースが鈍化している。2022年10-12月の首都圏のマンション新規発売戸数は11,391戸(前年同期比▲19.5%)となった。2022年の販売戸数は29,569戸( 前年比▲12.1%)となり、2021年(33,636戸)を下回った。

2021年10-12月の首都圏の中古マンション成約件数は8,704件(前年同期比▲10.6%)となった[図表1]。2022年の成約件数は35,429件(前年比▲11.0%)と2021年の39,812件から減少した。成約件数が減少し在庫戸数が11カ月連続で前年同月を上回るなか、取引価格は1桁の上昇率まで鈍化している。
[図表1]首都圏の中古マンション成約件数(12カ月累計値)

2―地価動向

地価は、住宅地の上昇が継続し、商業地についても上昇の裾野が拡大している。国土交通省の「地価LOOKレポート(2022年第3四半期)」によると、全国80地区のうち上昇が「65」( 前回58)、横ばいが「14」( 前回17)、下落が「1」( 前回5)となり、住宅地は前期に続いて全ての地区が上昇となった。同レポートでは、「住宅地では、マンション需要に引き続き堅調さが認められたことから上昇が継続。商業地では、店舗系の地区を中心に、人流の回復傾向を受け、店舗需要の回復が見られたことなどから上昇地区数が増加した」としている。

3―不動産サブセクターの動向

1|オフィス
三幸エステート・ニッセイ基礎研究所「オフィスレント・インデックス」によると、2022年第4四半期の東京都心部Aクラスビル成約賃料(月坪)は28,594円(前期比+4.4%)に上昇し、空室率は3.6%(前期比▲0.4%)に低下した[図表2]。但し、三幸エステートは、「賃料は6期ぶりで上昇したものの、緩やかな低下傾向に変わりはない」としている。
[図表2]東京都心部Aクラスビルの空室率と成約賃料
ニッセイ基礎研究所・クロスロケーションズ「オフィス出社率指数」によると、東京都心部のオフィス出社率は2022年12月末時点で67%となった[図表3]。2022年8月に新型コロナウイルスの感染拡大第7波がピークアウトしたことでオフィス回帰が緩やかに進んでいるが、オフィスと在宅勤務を組み合わせたハイブリッドな働き方が定着しつつあるなか、コロナ禍前の水準を回復するには至っていない。
[図表3]東京のオフィス出社率指数と新規陽性者数の推移
2│賃貸マンション
東京23区のマンション賃料は、コロナ禍における調整局面を脱している。三井住友トラスト基礎研究所・アットホームによると、2022年第3四半期は前年比でシングルタイプが+1.5%、コンパクトタイプが▲0.6%、ファミリータイプが+6.6%となった[図表4]。

住民基本台帳人口移動報告によると、2022年12月の東京23区の転入超過数は▲1,829人となったが、2022年全体では+21,420人と、2021年の転出超過(▲14,828)から1年でプラスに転換した。
[図表4]東京23区のマンション賃料(タイプ別)
3│商業施設・ホテル・物流施設
商業セクターは、百貨店を中心に売上が回復している。商業動態統計などによると、2022年10-12月の小売販売額(既存店、前年同期比)は百貨店が+6.0%、コンビニエンスストアが+5.9%、スーパーが+2.3%となった。

ホテルセクターは、全国旅行支援や水際対策緩和を背景に宿泊需要が順調に回復している。宿泊旅行統計調査によると、2022年10-12月累計の延べ宿泊者数は2019年対比で▲6.4%減少し、このうち日本人が+6.1%、外国人が▲58.4%となった[図表5]。12月の延べ宿泊者数は2019年対比で▲0.2%、うち日本人が+8.3%、外国人が▲35.4%と、宿泊者数はコロナ禍前の水準を回復した。
[図表5]延べ宿泊者数の推移(2019年同月比)
物流賃貸市場は、首都圏の空室率が上昇した一方、近畿圏の空室率は横ばいとなった。シービーアールイー(CBRE)によると、首都圏の大型マルチテナント型物流施設の空室率(2022年12月末)は前期比+0.4%の5.6%となった[図表6]。2023年の新規供給は約91万坪と過去最大となる見込みで、今後しばらくは需給の緩和基調が継続し、空室率は一段と上昇する見通しとのことである。近畿圏の空室率は1.7%(前期比横ばい)と低い水準を維持しており、空室を抱えた物件はわずか4棟と逼迫した需給環境が続いている。
[図表6]大型マルチテナント型物流施設の空室率

4―J -REIT(不動産投信)市場

2022年12月末の東証REIT指数( 配当除き)は9月末比▲2.6%下落した。セクター別では、オフィスが▲3.0%、住宅が▲4.8%、商業・物流等が▲1.7%となった[図表7]。11月まで底堅く推移していたものの、12/20に日本銀行が想定外の金融政策修正を発表したことを受けて下げ足が強まった。
[図表7]東証REIT指数の推移(2021年12月末=100)
J-REITによる2022年第4四半期の物件取得額(引渡しベース)は3,023億円(前年同期比▲31%)となり4四半期連続で前年同期を下回った。この結果、年間の取得額は8,783億円(▲45%)にとどまり、10年ぶりに1兆円を下回った。アセットタイプ別の取得割合は、物流施設(38%)、オフィス(29%)、住宅(22%)、商業施設(6%)、ホテル(2%)、底地ほか(2%)の順で、物流と住宅の比率が上昇する一方、オフィスのウェイトが昨年の46%から29%に低下し、物流に次いで第2位に後退した。

2022年のJ-REIT市場を振り返ると、東証REIT指数は▲8.3%下落し、国内株式の下落率(▲5.1%)を上回った銘柄数は61社で変わらず、時価総額は15.8兆円(前年比▲7%)に減少、運用資産額(取得額ベース)は21.9兆円(前年比+3%)で伸び率が鈍化するなど、規模の拡大は一服となった。一方、市場ファンダメンタルズは、市場全体の予想1口当たり分配金が前年比+2%となり、コロナ禍で落ち込んだ水準から回復基調にあり、1口当たりNAV(Net Asset Value、解散価値)も前年比+5%と高い伸びを確保した。
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金融研究部   主任研究員

佐久間 誠 (さくま まこと)

研究・専門分野
不動産市場、金融市場、不動産テック

経歴
  • 【職歴】  2006年4月 住友信託銀行(現 三井住友信託銀行)  2013年10月 国際石油開発帝石(現 INPEX)  2015年9月 ニッセイ基礎研究所  2019年1月 ラサール不動産投資顧問  2020年5月 ニッセイ基礎研究所  2022年7月より現職 【加入団体等】  ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター  ・日本証券アナリスト協会検定会員

(2023年03月07日「基礎研マンスリー」)

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