2023年03月01日

「東日本大震災による被害・生活環境・復興に関するアンケート」2022年調査結果概要-帰還開始後初の双葉町民を対象とする調査(第7回調査)*

保険研究部 准主任研究員 岩﨑 敬子

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1――基本情報

「東日本大震災による被害・生活環境・復興に関するアンケート」調査は、東京大学「災害からの生活基盤復興に関する国際比較」プロジェクト(東京大学大学院経済学研究科 教授 澤田康幸、ニッセイ基礎研究所 准主任研究員 岩﨑敬子)によって、東日本大震災による原子力発電所の事故で全町民が避難を余儀なくされた福島県双葉町の全世帯主の皆様を対象に2013年から行われてきた調査である(過去実施:2013年7月、2014年12月、2016年7月、2017年12月、2019年7月、2020年12月)。双葉町は2022年8月30日に避難指示が解除されたため、今回の調査は、これまで行われた7回の調査で初めて、帰還開始後に行われた調査である。

本稿では、2022年10月に実施した第7回目のアンケート調査の結果概要を報告する1
表1. 基本情報
アンケート調査の項目には、年齢や性別等の基本的な属性の他、人とのつながり(ソーシャル・キャピタル)や健康状態に関する項目が含まれ(調査項目は、本稿末の資料参照)、アンケート調査用紙は、双葉町の広報が配布されているすべての世帯(2,900件)に配布させて頂いた。また、これまでの調査で住所・氏名をご記入頂いていた方617名へは、これまでの調査と重複した質問を省略した簡易版のアンケート用紙を配布させて頂いた。回答は、全国に避難されている双葉町民653名より頂いた(広報双葉同封分からのご回答292件、簡易版からのご回答361件、回答率約23%)。

本調査は世帯主の方を対象としており、年齢、性別の分布については図1、図2の通りである。このように、国勢調査による双葉町の年齢・性別分布に比べると、回答者の年齢分布は60代後半以上の方が多く、性別の分布は男性の回答者が多いという偏った分布である。加えて、震災という大変な状況が起こった後にご協力いただいた調査なので、回答者の傾向が一般的なアンケート調査とは大きく異なっている可能性も考えられる。そのため、本調査の結果が、必ずしも双葉町民全体の傾向を示すものではないことにご留意頂きたい
図1. 回答者の年齢分布/図2. 回答者の性別
 
1 本研究は、以下の研究助成によって実施されてきた。記して深謝する。
 科研費(15J09313、26220502、LZ003)、日本経済研究センター研究奨励金、公益財団法人ユニベール財団研究助成
 また、この調査は東京大学倫理委員会の承認(21-329)のもと実施された調査である。

2――健康状態について

2――健康状態について

健康状態について、図3にみられるように、震災前の健康状態については、多くの方が「良い」、または「大変良い」と自己評価をされていたが、震災後の健康状態については、多くの方が「悪い」、「大変悪い」、または、「どちらともいえない」と自己評価されている。時系列的に見ると、2016年の調査以降、2020年の調査では、「良い」と回答された方の割合が最も多く、「悪い」と回答された方の割合がそれ以前と比べて少なく、全体的に少しずつ改善傾向があることが分かるが、直近の2020年から2022年にかけては改善が見られなかった。また、図4にみられるように、震災前と比較した健康状態の変化についての質問では、半数以上の方が震災前と比較すると健康状態が悪くなっていると自己評価されており、その分布は2013年からほとんど変化が見られていないことがわかる。
図3. 現在の健康状態
図4. 主観的健康状態の変化
次に、こころの健康状態について、K6という、国際的に使用されている全般的なこころの健康状態・ストレスを示す指標を用いて概観してみる。K6は6つの質問から成り、その合計の点数が高いほど、こころにストレスを抱えている可能性が高いと考えられている2。双葉町民のK6値の分布は、2013年から2020年にかけて、少しずつ改善していることが分かる(図5参照)。しかし、2020年から2022年にかけては改善の傾向は見られなかった。また、2022年の値は、日本全体の分布や、双葉町以外の被災地で震災直後に行われた調査と比較すると高い値で、回復には非常に長い時間がかかる可能性があることが分かる。
図5. 日本全体、双葉町、その他被災地の心理的ストレスの度合い(K6) の分布
また、2013年から2017年までの調査では、仮設住宅にお住まいの双葉町民の方のK6の値の分布が年々高くなっていったことが示されてきた3。2019年以降の調査では、仮設住宅にお住まいの方の回答者はごく少数(2019年6名、2020年7名、2022年4名)だったため、持ち家、みなし仮設住宅および復興公営住宅など仮設住宅以外で、住居種類ごとのK6の分布を確認した。その結果、図6に見られるように、震災前と異なる持家や自費による賃貸にお住まいの方に比べて、復興公営住宅にお住まいの方のK6の分布は高い傾向があることが示された。また、みなし仮設住宅にお住まいの方のK6の値が年々高くなっている傾向が見られる。こうした結果からは、みなし仮設住宅へお住まいの方や、復興公営住宅に入居されている方へのこころの健康サポートが重要であることが示唆される。また今回の2022年の調査は、2013年以降本調査が開始されてから初めて帰還開始後に行われたことから、震災前からの双葉町の持家にお住まいの方の回答が含まれている。図6に参考に分布を記載している。回答数は11と少ないが、震災前の双葉町の持家にお住まいの方のストレスについては、比較的低くとどまっている方々(青色部分)とストレスが高い方々(灰色部分)に二分化していることが分かる。

しかしながら、この調査結果が必ずしもすべての双葉町の皆さまに当てはまるわけではなく、K6の値が高いからといって精神的な疾患があると断定されるものではない。あくまで、政策的な示唆を行政などに与えるための調査であることを申し添える。
図6.住居種類別K6の分布
 
2 Kessler, R. C., Andrews, G., Colpe, L. J., Hiripi, E., Mrockzek, D. K., Normand, S. L., Walters, E. E., Zaslavsky, A. M., 2002. Short Screening Scales to Monitor Population Prevalences and Trends in Non-Specific Psychological Distress. Psychological Medicine 32, 959-976.
Furukawa, T. A., Kawakami, N., Saitoh, M., Ono, Y., Nakane, Y., Nakamura, Y., Tachimori, H., Iwata, N., Uda, H., Nakane, H., Watanabe, M., Naganuma, Y., Hata, Y., Kobayashi, M., Miyake, Y., Takeshima, T., Kikkawa, T., 2008. The Performance of the Japanese Version of the K6 and K10 in the World Mental Health Survey Japan. International Journal of Methods in Psychiatric Research 17, 152-158.
古川壽亮 他. (2003). 一般人口中の精神疾患の簡便なスクリーニングに関する研究. 厚生労働科学研究費 補助金厚生労働科
学特別研究事業「心の健康問題と対策基盤の実態に関する研究」研究協力報告書.
3 岩﨑敬子(2019年2月7日)基礎研レポート(https://www.nli-research.co.jp/files/topics/63613_ext_18_0.pdf?site=nli、2022年12月5日アクセス)
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保険研究部   准主任研究員

岩﨑 敬子 (いわさき けいこ)

研究・専門分野
応用ミクロ計量経済学・行動経済学 

経歴
  • 【職歴】
     2010年 株式会社 三井住友銀行
     2015年 独立行政法人日本学術振興会 特別研究員
     2018年 ニッセイ基礎研究所 研究員
     2021年7月より現職

    【加入団体等】
     日本経済学会、行動経済学会、人間の安全保障学会
     博士(国際貢献、東京大学)
     2022年 東北学院大学非常勤講師
     2020年 茨城大学非常勤講師

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