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- 成約事例で見る東京都心部のオフィス市場動向(2022年下期)-「オフィス拡張移転DI」の動向
2023年02月21日
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三幸エステート株式会社(本社:東京都中央区、取締役社長:武井重夫)と株式会社ニッセイ基礎研究所(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:手島恒明)は、賃貸オフィスの成約事例の各種データを活用し、オフィス市場における企業の移転動向などに関する共同研究を行っている。
本稿では、共同研究の一環として算出した「オフィス拡張移転DI」を中心に、2022年下期の東京オフィス市場の動向を概観する。オフィス拡張移転DIは、0%から100%の間で変動し、基準となる50%を上回ると企業の拡張意欲が強いことを表し、50%を下回ると縮小意欲が強いことを示す1。
オフィス市況はコロナ禍により調整局面を迎え、2020年第4四半期からの1年間は、オフィス拡張移転DIが51%~53%の水準で低迷した。しかし、2021年第4四半期から緩やかな上昇に転じ、2022年下期は60%台半ばに改善した。以下では、オフィス成約面積の動向を振り返ったのち、オフィス拡張移転DIを業種別・エリア別・ビルクラス別に分析し、企業のオフィス移転動向を確認する。
本稿では、共同研究の一環として算出した「オフィス拡張移転DI」を中心に、2022年下期の東京オフィス市場の動向を概観する。オフィス拡張移転DIは、0%から100%の間で変動し、基準となる50%を上回ると企業の拡張意欲が強いことを表し、50%を下回ると縮小意欲が強いことを示す1。
オフィス市況はコロナ禍により調整局面を迎え、2020年第4四半期からの1年間は、オフィス拡張移転DIが51%~53%の水準で低迷した。しかし、2021年第4四半期から緩やかな上昇に転じ、2022年下期は60%台半ばに改善した。以下では、オフィス成約面積の動向を振り返ったのち、オフィス拡張移転DIを業種別・エリア別・ビルクラス別に分析し、企業のオフィス移転動向を確認する。
* 本稿は三幸エステート「オフィス ユーザー レポート」を加筆・修正の上、転載したものである。
1 算出方法については、末尾の【参考資料1】「オフィス拡張移転DIについて」を参照。
1――オフィス成約面積は3期連続でコロナ禍前の水準を上回る
三幸エステートの公表データ2によると、2022年下期の東京都心5区におけるオフィス成約面積は約35.3万坪となり、前年同期比+0.9%増加した(図表1)。また、コロナ禍前の2019年同期比では+1.0%増加し、3期連続でコロナ禍前の水準を上回った。
成約面積を未竣工ビルと竣工済ビルに分けて見ると、2022年下期は新築オフィスビルの供給が少なかったため、未竣工ビルの成約面積は3.5万坪となり過去平均(8.6万坪)を大きく下回った3。これに対して、竣工済ビルは31.8万坪となり、過去平均(29.7万坪)を上回る水準で推移している。
このように、コロナ禍で一時的に落ち込んだリーシング活動が正常化するなか、東京都心で新築ビルの供給が増加する2023年以降、企業のオフィス拡張意欲がどこまで回復するかが注目される。
成約面積を未竣工ビルと竣工済ビルに分けて見ると、2022年下期は新築オフィスビルの供給が少なかったため、未竣工ビルの成約面積は3.5万坪となり過去平均(8.6万坪)を大きく下回った3。これに対して、竣工済ビルは31.8万坪となり、過去平均(29.7万坪)を上回る水準で推移している。
このように、コロナ禍で一時的に落ち込んだリーシング活動が正常化するなか、東京都心で新築ビルの供給が増加する2023年以降、企業のオフィス拡張意欲がどこまで回復するかが注目される。
2 三幸エステート「オフィスマーケット調査月報」を参照。
3 過去平均は、2017年から2019年の平均。
2――オフィス拡張意欲が改善するなか、回復ペースは業種・エリア・ビルクラス間で濃淡も
2022年上期は、オフィス拡張移転DIの緩やかな上昇が続き、オフィス拡張の動きは「点」から「面」へ広がりを見せた。2022年下期も拡張移転DIは回復基調を維持したが、回復ペースは業種やエリア、ビルクラス間で濃淡が見られる。以下では、東京都心部のオフィス拡張移転DIの推移を確認したのち、業種別・エリア別・ビルクラス別の順に分析する4。
4 東京都心部は、東京都心5区主要オフィス街および周辺区オフィス集積地域(「五反田・大崎」「北品川・東品川」「湯島・本郷・後楽」「目黒区」)。詳細は、三幸エステート「オフィスレントデータ2023 資料編 東京都心部 A・B・Cクラスビル ガイドライン」を参照。
4 東京都心部は、東京都心5区主要オフィス街および周辺区オフィス集積地域(「五反田・大崎」「北品川・東品川」「湯島・本郷・後楽」「目黒区」)。詳細は、三幸エステート「オフィスレントデータ2023 資料編 東京都心部 A・B・Cクラスビル ガイドライン」を参照。
1|オフィス拡張移転DIは改善基調を維持
東京都心部のオフィス拡張移転DIは、オフィス市況が活況であった2019年は70%台で推移していた(図表2)。2018年以降、新築オフィスビルの大量供給が続いたが、企業の旺盛なオフィス需要が吸収し、空室率は2019年1月に初めて1%を下回り、その後もタイトな需給バランスが継続した。
2020年にコロナ危機が訪れると、オフィス拡張移転DIは69%(2020年第1四半期)から51%(第4四半期)へと急低下した。その後、空室率はやや遅れて上昇に転じ、2020年末に2.36%へ上昇した。
2021年に入り、オフィス拡張移転DIは51%~53%(第1四半期~第3四半期)と、企業の拡張・縮小意欲が拮抗する水準で横ばいとなった。オフィス拡張移転DIの低下に歯止めがかかったものの、オフィス床を解約する動きも多く、空室率は2021年第3四半期に4.48%(ボトム対比+3.69%)と大幅に上昇した。
その後、オフィス拡張移転DIは2021年第4四半期から上昇に転じ、2022年第3四半期は65%、第4四半期は64%となった。空室率は、新築ビルが空室を抱えて竣工したことに加えて依然として解約等の影響が大きく、2022年第3四半期は5.16%(ボトム対比+4.37%)となった。しかし、2022年下期は、オフィス拡張意欲の改善が続き、空室率の上昇にも一服感が見られ、オフィスビルの新規供給が限定的ななか、2023年1月の空室率は4.75%に低下した。
但し、オフィス拡張移転DIは依然としてコロナ禍前の水準に及ばず、第4四半期は前期比横ばいと改善ペースが鈍化した点に留意が必要であろう。
東京都心部のオフィス拡張移転DIは、オフィス市況が活況であった2019年は70%台で推移していた(図表2)。2018年以降、新築オフィスビルの大量供給が続いたが、企業の旺盛なオフィス需要が吸収し、空室率は2019年1月に初めて1%を下回り、その後もタイトな需給バランスが継続した。
2020年にコロナ危機が訪れると、オフィス拡張移転DIは69%(2020年第1四半期)から51%(第4四半期)へと急低下した。その後、空室率はやや遅れて上昇に転じ、2020年末に2.36%へ上昇した。
2021年に入り、オフィス拡張移転DIは51%~53%(第1四半期~第3四半期)と、企業の拡張・縮小意欲が拮抗する水準で横ばいとなった。オフィス拡張移転DIの低下に歯止めがかかったものの、オフィス床を解約する動きも多く、空室率は2021年第3四半期に4.48%(ボトム対比+3.69%)と大幅に上昇した。
その後、オフィス拡張移転DIは2021年第4四半期から上昇に転じ、2022年第3四半期は65%、第4四半期は64%となった。空室率は、新築ビルが空室を抱えて竣工したことに加えて依然として解約等の影響が大きく、2022年第3四半期は5.16%(ボトム対比+4.37%)となった。しかし、2022年下期は、オフィス拡張意欲の改善が続き、空室率の上昇にも一服感が見られ、オフィスビルの新規供給が限定的ななか、2023年1月の空室率は4.75%に低下した。
但し、オフィス拡張移転DIは依然としてコロナ禍前の水準に及ばず、第4四半期は前期比横ばいと改善ペースが鈍化した点に留意が必要であろう。
2|オフィス拡張意欲の回復ペースは業種間で濃淡も
コロナ禍が本格化した2020年上期以降、テレワーク活用に積極的な企業の多い業種を中心にオフィス戦略を見直す動きが顕在化し、オフィス拡張移転DIは低下した。2022年上期以降は、全体としてオフィス拡張意欲の回復が継続しているものの、回復ペースは業種間で濃淡が生じている。
コロナ禍における主要業種のオフィス拡張移転DIの推移を見ると、「学術研究・専門/技術サービス業」が2020年上期に43%(2019年下期81%)と急低下した(図表3)5。続いて、「製造業」が2020年下期に38%(同60%)、「情報通信業」が2021年上期に36%(同86%)へ低下した。これらの業種は、コロナ禍においても業績が総じて底堅く推移したが、複数の企業がオフィス戦略を早々に見直して、縮小移転や解約などオフィス床を削減する方針を発表した。その他の主要業種では、「卸売業・小売業」が2020年下期に47%(同67%)、「その他サービス業」が2021年上期に46%(同60%)に低下したが、前述の3業種と比較すると、オフィス拡張移転DIの低下は小幅にとどまった。
2021年下期には、コロナ禍におけるデジタル化加速の恩恵を受けた「情報通信業」が上昇に転じ52%まで回復した。その後、2022年上期は、「製造業」が50%、「学術研究・専門/技術サービス業」が55%に上昇するなど、全ての業種で50%以上となった。
2022年下期は上昇基調が続き、「学術研究・専門/技術サービス業」が81%、「その他サービス業」が77%、「不動産業・物品賃貸業」が77%と、コロナ禍前の水準を回復した。一方、「製造業」は55%、「卸売業・小売業」は57%と回復の動きが鈍い。また、主要業種の中でいち早く底打ちした「情報通信業」は63%と、回復基調を維持するものの力強さに欠けている。
コロナ禍が本格化した2020年上期以降、テレワーク活用に積極的な企業の多い業種を中心にオフィス戦略を見直す動きが顕在化し、オフィス拡張移転DIは低下した。2022年上期以降は、全体としてオフィス拡張意欲の回復が継続しているものの、回復ペースは業種間で濃淡が生じている。
コロナ禍における主要業種のオフィス拡張移転DIの推移を見ると、「学術研究・専門/技術サービス業」が2020年上期に43%(2019年下期81%)と急低下した(図表3)5。続いて、「製造業」が2020年下期に38%(同60%)、「情報通信業」が2021年上期に36%(同86%)へ低下した。これらの業種は、コロナ禍においても業績が総じて底堅く推移したが、複数の企業がオフィス戦略を早々に見直して、縮小移転や解約などオフィス床を削減する方針を発表した。その他の主要業種では、「卸売業・小売業」が2020年下期に47%(同67%)、「その他サービス業」が2021年上期に46%(同60%)に低下したが、前述の3業種と比較すると、オフィス拡張移転DIの低下は小幅にとどまった。
2021年下期には、コロナ禍におけるデジタル化加速の恩恵を受けた「情報通信業」が上昇に転じ52%まで回復した。その後、2022年上期は、「製造業」が50%、「学術研究・専門/技術サービス業」が55%に上昇するなど、全ての業種で50%以上となった。
2022年下期は上昇基調が続き、「学術研究・専門/技術サービス業」が81%、「その他サービス業」が77%、「不動産業・物品賃貸業」が77%と、コロナ禍前の水準を回復した。一方、「製造業」は55%、「卸売業・小売業」は57%と回復の動きが鈍い。また、主要業種の中でいち早く底打ちした「情報通信業」は63%と、回復基調を維持するものの力強さに欠けている。
5 業種別のオフィス拡張移転DIは、十分なデータ数を確保するため、東京都心部ではなく東京圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)を対象とした。
(2023年02月21日「不動産投資レポート」)
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経歴
- 【職歴】 2006年4月 住友信託銀行(現 三井住友信託銀行) 2013年10月 国際石油開発帝石(現 INPEX) 2015年9月 ニッセイ基礎研究所 2019年1月 ラサール不動産投資顧問 2020年5月 ニッセイ基礎研究所 2022年7月より現職 【加入団体等】 ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター ・日本証券アナリスト協会検定会員
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