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「東京都心部Aクラスビル市場」の現況と見通し(2023年2月時点)

金融研究部 上席研究員 吉田 資
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コロナ禍で「在宅勤務」が急速に普及しオフィスに出社するワーカー数が流動的となるなか、フリーアドレスを導入する動きが広がっている。
森ビル調査によると、「フリーアドレスの導入状況」に関して、「既に導入している」との回答は、19%(2019年)から40%(2022年)に増加した(図表-12)。また、イトーキの調査8によれば、フリーアドレスの採用率は、コロナ禍前(2019年)の50%から2022年には79%へ大幅に増加している。
ザイマックス不動産総合研究所の調査によれば、フリーアドレス導入の進展等に伴い、在籍社員1人当たりのオフィス面積は、4.02坪(2008年)から3.66坪(2022年)へ減少している9(図表-13)。
8 イトーキ「ITOKI WORKPLACE DATA BOOK 2023」
9 出社1人あたりオフィス面積も2021年の5.25坪から2022年への4.88坪へ大幅に縮小している。
森ビル調査によると、「新規賃貸する理由」は、「立地の良いビル(29%)」と「賃料の安いビルに移りたい(29%)」との回答が第1位となり、次いで「働き方の変化に応じたワークプレイスの変更のため(27%)」が多かった(図表-15)。また、コロナ禍前(2019年調査)と比較して、「設備グレードの高いビルに移りたい(18%⇒24%」」、「耐震性能の優れたビル(18%⇒23%)」、「セキュリティーの優れたビル(15%⇒22%)」との回答が増加し、前向きな移転ニーズは変わらず高い。「働き方改革」を契機に高まった、従業員満足度の向上や優秀な人材確保などを目的とするオフィス環境整備が継続している。
また、「在宅勤務」を取り入れた勤務形態へ移行する企業が増えるなか、「在宅勤務」の課題として、「コミュニケーション」を指摘する企業は多い10。森ビル調査によると、「オープンなミーティングスペース」に関して、「既に導入している」との回答は、41%(2019年)から60%(2022年)へ大幅に増加した。また、「Web会議用スペース」に関しても、40%(2020年)から54%(2022年)へ増加した。実際に「在宅勤務」を経験することで、「従業員がコミュニケーションを図り共創する場」としてのオフィスの重要性が再認識されるなか、オープンなミーティングスペースや、web会議用スペースを充実させる企業が増加している。
今後も、従業員にとって快適なオフィス環境を整備する取組みが継続し、なかでも「Well-being」への配慮や、従業員間のコミュニケーション促進が重視されると考えられる。
10 ザイマックス不動産総合研究所「大都市圏オフィス需要調査 2022年秋」によれば、「テレワーク運用の困ったことや課題」について、「コミュニケーションが難しい」との回答が最も多く、約6割を占めた。
3. 東京都心部Aクラスビル市場の見通し
東京都の就業者数は、情報通信業等を中心に増加し、オフィスワーカーの割合の高い非製造業では人手不足感が特に強いことから、東京都心部の「オフィスワーカー数」が大幅に減少する懸念は小さい。また、従業員にとって快適なオフィス環境を整備する取組みが継続し、ミーティングスペースや、web会議用スペースを充実させる企業が増えると考えられる。
一方、拠点集約や賃貸面積の一部解約、サードプレイスオフィス利用への変更等、オフィス戦略の見直しは継続すると考えられる。また、フリーアドレスの導入が広がるなか、スペース利用の効率化が進み、社員1人あたりのオフィス面積は縮小傾向で推移するだろう。以上を鑑みると、今後のオフィス需要(オフィス利用面積)は力強さを欠く見込みである。
そのため、今後5年間の空室率は上昇基調が継続すると予想する。特に、2023年と2025年は大量供給の影響を受けて空室率が上昇し、2027年には5%台後半となる見通しである(図表-18)。
また、東京都心部Aクラスビルの成約賃料(2022 年=100)は、2023 年に「97」、2024年に「96」、2027年に「93」となり、2013年の水準まで下落する見通しである(図表-19)。
(ご注意)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものでもありません。
(2023年02月21日「不動産投資レポート」)
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03-3512-1861
- 【職歴】
2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
2018年 ニッセイ基礎研究所
【加入団体等】
一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)
吉田 資のレポート
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