2023年02月21日

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(3) フリーアドレスの導入状況~フリーアドレスの導入が広がり、社員1人あたりのオフィス面積は縮小
コロナ禍で「在宅勤務」が急速に普及しオフィスに出社するワーカー数が流動的となるなか、フリーアドレスを導入する動きが広がっている。

森ビル調査によると、「フリーアドレスの導入状況」に関して、「既に導入している」との回答は、19%(2019年)から40%(2022年)に増加した(図表-12)。また、イトーキの調査8によれば、フリーアドレスの採用率は、コロナ禍前(2019年)の50%から2022年には79%へ大幅に増加している。

ザイマックス不動産総合研究所の調査によれば、フリーアドレス導入の進展等に伴い、在籍社員1人当たりのオフィス面積は、4.02坪(2008年)から3.66坪(2022年)へ減少している9(図表-13)。
図表-12 フリーアドレスの導入状況/図表-13 1人あたりオフィス面積
また、「オフィスの使い方」について、「フレキシブルな座席の割合を高めたい」との回答が約3割を占めた一方、「固定席の割合を高めたい」との回答は僅かな割合に留まった。オフィス面積を縮小したい意向を持っている企業に限定にすると、「フレキシブルな座席の割合を高めたい」との回答は約6割に達している(図表-14)。

フリーアドレスは、フレキシブルな働き方に即したオフィスの利用形態であり、従来通りの全て固定席ではスペースの有効活用が難しいとの事情もあろう。今後も、フリーアドレスの導入が進み、スペース利用の効率化が進める企業が増加すると考えられる。
図表-14 オフィスの使い方について
 
8 イトーキ「ITOKI WORKPLACE DATA BOOK 2023」
9 出社1人あたりオフィス面積も2021年の5.25坪から2022年への4.88坪へ大幅に縮小している。
 (4)企業のオフィス環境整備の方針~従業員にとって快適なオフィス環境を整備する取組みが継続
森ビル調査によると、「新規賃貸する理由」は、「立地の良いビル(29%)」と「賃料の安いビルに移りたい(29%)」との回答が第1位となり、次いで「働き方の変化に応じたワークプレイスの変更のため(27%)」が多かった(図表-15)。また、コロナ禍前(2019年調査)と比較して、「設備グレードの高いビルに移りたい(18%⇒24%」」、「耐震性能の優れたビル(18%⇒23%)」、「セキュリティーの優れたビル(15%⇒22%)」との回答が増加し、前向きな移転ニーズは変わらず高い。「働き方改革」を契機に高まった、従業員満足度の向上や優秀な人材確保などを目的とするオフィス環境整備が継続している。
図表-15 新規賃借する理由(上位6項目)
コロナ禍以後、感染症拡大防止や施設利用者の健康に配慮した対応が求められるなか、従業員の「Well-being」に配慮したワークプレイスの構築が企業の経営課題の1つとなっている。ザイマックス不動産総合研究所によれば、「執務スペースで入居する際重要と思う項目」として、「快適な温度・湿度、空気環境が保たれていること」(76%)や、「快適な明るさが保たれていること」(62%)、「健康や衛生に考慮していること」(53%)が上位に位置している(図表-16)。日本政策投資銀行・価値総合研究所「オフィスビルに対するステークホルダーの意識調査」によれば、「オフィスビルのウェルビーイング対応を希望する理由」に関して、「企業としての社会的責任」(65%)との回答が最も多く、次いで「社員満足度(エンゲージメント)の向上」(42%)、「優秀な人材の確保」(35%)が多かった。CSRや従業員満足度の向上、人材確保の観点から、「Well-being」に配慮したオフィス環境整備は継続するだろう。

また、「在宅勤務」を取り入れた勤務形態へ移行する企業が増えるなか、「在宅勤務」の課題として、「コミュニケーション」を指摘する企業は多い10。森ビル調査によると、「オープンなミーティングスペース」に関して、「既に導入している」との回答は、41%(2019年)から60%(2022年)へ大幅に増加した。また、「Web会議用スペース」に関しても、40%(2020年)から54%(2022年)へ増加した。実際に「在宅勤務」を経験することで、「従業員がコミュニケーションを図り共創する場」としてのオフィスの重要性が再認識されるなか、オープンなミーティングスペースや、web会議用スペースを充実させる企業が増加している。

今後も、従業員にとって快適なオフィス環境を整備する取組みが継続し、なかでも「Well-being」への配慮や、従業員間のコミュニケーション促進が重視されると考えられる。
図表-16 執務スペースで入居する際重要と思う項目
 
10 ザイマックス不動産総合研究所「大都市圏オフィス需要調査 2022年秋」によれば、「テレワーク運用の困ったことや課題」について、「コミュニケーションが難しい」との回答が最も多く、約6割を占めた。

3. 東京都心部Aクラスビル市場の見通し

3. 東京都心部Aクラスビル市場の見通し

3-1. Aクラスビルの新規供給見通し
三幸エステートの調査によれば、2022年の東京都心部での新規供給量は約6万坪となり、過去10年間で前年度に次ぐ低い水準であった。しかし、2023年は、港区虎ノ門地区で大規模ビルの竣工が複数棟予定されており、新規供給は約19万坪となる。2024年は一旦落ち着くものの、2025年は高輪ゲートウェイ等で大規模開発が予定されており、新規供給量は再び約19万坪に達する見通しである(図表-17)。
図表-17 東京都心部Aクラスビル新規供給見通し
3-2. クラスビルの空室率および成約賃料の見通し
東京都の就業者数は、情報通信業等を中心に増加し、オフィスワーカーの割合の高い非製造業では人手不足感が特に強いことから、東京都心部の「オフィスワーカー数」が大幅に減少する懸念は小さい。また、従業員にとって快適なオフィス環境を整備する取組みが継続し、ミーティングスペースや、web会議用スペースを充実させる企業が増えると考えられる。

一方、拠点集約や賃貸面積の一部解約、サードプレイスオフィス利用への変更等、オフィス戦略の見直しは継続すると考えられる。また、フリーアドレスの導入が広がるなか、スペース利用の効率化が進み、社員1人あたりのオフィス面積は縮小傾向で推移するだろう。以上を鑑みると、今後のオフィス需要(オフィス利用面積)は力強さを欠く見込みである。

そのため、今後5年間の空室率は上昇基調が継続すると予想する。特に、2023年と2025年は大量供給の影響を受けて空室率が上昇し、2027年には5%台後半となる見通しである(図表-18)。

また、東京都心部Aクラスビルの成約賃料(2022 年=100)は、2023 年に「97」、2024年に「96」、2027年に「93」となり、2013年の水準まで下落する見通しである(図表-19)。
図表-18 東京都心部Aクラスビルの空室率見通し/図表-19 東京都心部Aクラスビルの成約賃料見通し
 
 

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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

(2023年02月21日「不動産投資レポート」)

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