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「東京都心部Aクラスビル市場」の現況と見通し(2023年2月時点)

金融研究部 上席研究員 吉田 資
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1. はじめに
1 本稿ではAクラスビルとして三幸エステートの定義を用いる。三幸エステートでは、エリア(都心5区主要オフィス地区とその他オフィス集積地域)から延床面積(1万坪以上)、基準階床面積(300坪以上)、築年数(15年以内)および設備などのガイドラインを満たすビルからAクラスビルを選定している。また、基準階床面積が200坪以上でAクラスビル以外のビルなどからガイドラインに従いBクラスビルを、同100坪以上200坪未満のビルからCクラスビルを設定している。詳細は三幸エステート「オフィスレントデータ2021」を参照のこと。なお、オフィスレント・インデックスは月坪当りの共益費を除く成約賃料。
2. 東京都心Aクラスオフィス市場の現況
賃料と空室率の関係を表した「賃料サイクル3」をみると、東京オフィス市場は2020年第3四半期以降、「空室率上昇・賃料下落」の局面が継続している(図表-5)。
2 三幸エステートとニッセイ基礎研究所が共同で開発した成約賃料に基づくオフィスマーケット指標。
3 賃料サイクルとは、縦軸に賃料、横軸に空室率をプロットした循環図。通常、(1)空室率低下・賃料上昇→(2)空室率上昇・賃料上昇→(3)空室率上昇・賃料下落→(4)空室率低下・賃料下落、と時計周りに動く。
以下では、(1)「オフィスワーカー数の動向」、(2)「出社率4」をはじめとする「在宅勤務の状況」、(3)「フリーアドレス5の導入状況」、(4)「オフィス環境整備の方針」について概観し、今後のオフィス需要への影響を考察する。
4 オフィスと在宅での勤務割合
5 従業員が固定した自分の座席を持たず、業務内容に合わせて就労する席を自由に選択するオフィス形式。
また、区別にみると、千代田区では「金融業」、中央区では「卸売業,小売業」、港区と渋谷区では「情報通信業」の割合が大きいことが特徴である。
就業者を産業別にみると、2018年第1四半期を100とした場合、都心5区のオフィスワーカーの割合が高い「情報通信業」が134、「金融業,保険業」が126、「学術研究,専門・技術サービス業」が108となり、大幅に増加している(図表-6・右図)。
このように、東京都の就業者数は、情報通信業等を中心に増加基調で推移しており、オフィスワーカーの割合の高い非製造業では人手不足感がより強い。引き続き、雇用情勢を注視する必要があるが、東京都心部のオフィスワーカー数が減少する懸念は小さいと言えよう。
6 従業地による職業別就業者のうち、専門的・技術的職業従事者、管理的職業従事者、事務従事者の合計。
7 従業員数が「不足気味」と回答した割合から「過剰気味」と回答した割合を引いた値。マイナス幅が大きいほど雇用環境の悪化を示す。
新型コロナウィルス感染拡大への対応で、東京では「在宅勤務」が急速に普及した。都内企業のテレワーク実施率をみると、緊急事態宣言・まん延防止等重点措置の発令期間(2021年1~3月、4~6月、7~9月、2022年1~2月)は60%台、それ以外の期間は50%台で推移しており、2022年12月調査では52%となった(図表-9)。
公益財団法人日本生産性本部「働く人の意識に関する調査」によれば、「コロナ禍収束後もテレワークを行いたいか」という質問に対して、テレワークを行いたい意向(「そう思う」と「どちらか言えばそう思う」の合計)は、62%(2020年5月)から85%(2023年1月)へ増加した(図表-10)。家族との時間が増えた等のメリットから、今後もテレワークを中心としたワークスタイルを希望する就業者は増加している。
こうしたなか、オフィス戦略の見直しに着手する企業が増えている。ザイマックス不動産総合研究所の調査によれば、「ワークプレイス戦略の見直しの着手状況」に関して、「既に着手している」との回答は約3 割を占め、着手予定を含めると全体で約7割に達する。図表-11にテレワークの導入に伴うオフィス戦略の見直し事例を示した。オフィス拠点集約・統合や賃貸面積の一部解約、自社オフィスからサードプレイスオフィス利用への変更等を実施する企業が増えている。
(2023年02月21日「不動産投資レポート」)
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03-3512-1861
- 【職歴】
2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
2018年 ニッセイ基礎研究所
【加入団体等】
一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)
吉田 資のレポート
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