2023年02月21日

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1. はじめに

東京都心部Aクラスビル1の空室率は、在宅勤務の普及や働き方の変化等に伴うワークプレイスの見直しが進むなか上昇基調で推移し、3%台後半となった。成約賃料は、需給バランスの緩和に伴い、下落基調で推移している。本稿では、東京都心部Aクラスビル市場の動向を概観し、2027年までの賃料と空室率の予測を行う。
 
1 本稿ではAクラスビルとして三幸エステートの定義を用いる。三幸エステートでは、エリア(都心5区主要オフィス地区とその他オフィス集積地域)から延床面積(1万坪以上)、基準階床面積(300坪以上)、築年数(15年以内)および設備などのガイドラインを満たすビルからAクラスビルを選定している。また、基準階床面積が200坪以上でAクラスビル以外のビルなどからガイドラインに従いBクラスビルを、同100坪以上200坪未満のビルからCクラスビルを設定している。詳細は三幸エステート「オフィスレントデータ2021」を参照のこと。なお、オフィスレント・インデックスは月坪当りの共益費を除く成約賃料。

2. 東京都心Aクラスオフィス市場の現況

2. 東京都心Aクラスオフィス市場の現況

2-1. 空室率および賃料の動向
東京都心部Aクラスビルの空室率は、2020年第4四半期以降、上昇基調で推移している。2022年第3四半期は4.0%(前期比+0.2%)となり、2015年第3四半期以来となる4%台に達した。翌第4 四半期は3.6%(前期比▲0.4%)となり、前期から低下したものの、3%台後半に留まる。

Aクラスビルの成約賃料(オフィスレント・インデックス2)は、需給バランスの緩和に伴い、下落基調で推移しており、2022年第4四半期は28,594円(前期比+4.4%、前年同期比▲6.8%)となった(図表-1)。
図表-1 都心部Aクラスビルの空室率と成約賃料
Bクラスビル及びCクラスビルについても、空室率が上昇基調で推移し、成約賃料も弱含みで推移している。2022年第4四半期の空室率はBクラスビルで4.6%(前期比▲0.6%、前年同期比+0.3%)、Cクラスビルで4.8%(前期比▲0.2%、前年同期比+0.7%)となり(図表-2)、成約賃料はBクラスビルで17,963円(前期比▲3.2%、前年同期比▲11.0%)、Cクラスビルで16,195円(前期比▲2.9%、前年同期比▲5.4%)となった(図表-3、図表-4)。

賃料と空室率の関係を表した「賃料サイクル3」をみると、東京オフィス市場は2020年第3四半期以降、「空室率上昇・賃料下落」の局面が継続している(図表-5)。
図表-2 東京都心部の空室率/図表-3 東京都心部の成約賃料
図表-4 東京都心部の成約賃料(前年同期比)/図表-5 東京都心部Aクラスビルの循環図
 
2 三幸エステートとニッセイ基礎研究所が共同で開発した成約賃料に基づくオフィスマーケット指標。
3 賃料サイクルとは、縦軸に賃料、横軸に空室率をプロットした循環図。通常、(1)空室率低下・賃料上昇→(2)空室率上昇・賃料上昇→(3)空室率上昇・賃料下落→(4)空室率低下・賃料下落、と時計周りに動く。
2-2. 企業のオフィス戦略見直しを踏まえた、今後のオフィス需要を考える
以下では、(1)「オフィスワーカー数の動向」、(2)「出社率4」をはじめとする「在宅勤務の状況」、(3)「フリーアドレス5の導入状況」、(4)「オフィス環境整備の方針」について概観し、今後のオフィス需要への影響を考察する。
 
4 オフィスと在宅での勤務割合
5 従業員が固定した自分の座席を持たず、業務内容に合わせて就労する席を自由に選択するオフィス形式。
(1) オフィスワーカー数の動向~情報通信業等を中心に就業者数は増加、人手不足感は引き続き強い
総務省「労働力調査」によれば、東京都の就業者数は、2021年第3四半期から5期連続で前年同期比プラスとなり、2022年第3四半期は832万人(前年同期比+9.1万人)となった(図表-6・左図)。
図表-6 東京都の就業者数
都心5区のオフィスワーカー6の業種内訳をみると、「情報通信業(IT)」の占める割合(23%)が最も大きく、次いでプロフェッショナルサービスが含まれる「学術研究,専門・技術サービス業」(13%)、「卸売業,小売業」(10%)、「金融業,保険業」(9%)、「サービス業(他に分類されないもの)となっている(図表-7)。特に、「情報通信業」(全国平均7%)、「学術研究,専門・技術サービス業」(同7%)、「金融業,保険業」(同4%)の割合が全国平均と比較して大きい。

また、区別にみると、千代田区では「金融業」、中央区では「卸売業,小売業」、港区と渋谷区では「情報通信業」の割合が大きいことが特徴である。

就業者を産業別にみると、2018年第1四半期を100とした場合、都心5区のオフィスワーカーの割合が高い「情報通信業」が134、「金融業,保険業」が126、「学術研究,専門・技術サービス業」が108となり、大幅に増加している(図表-6・右図)。
図表-7 オフィスワーカーの業種内訳
内閣府・財務省「法人企業景気予測調査」によれば、「関東地方」の「従業員数判断BSI」(全産業)7は、2020年第1四半期の+20.3から2020年第2四半期の+4.6へ大きく低下した後、緩やかな回復が続く。2022年第4四半期は+19.1となり、コロナ禍前の水準に近づいた(図表-8)。業種別にみても、「製造業」・「非製造業」ともに回復しており、2022年第4四半期は「製造業」が+12.7、「非製造業」が+22.1となった。オフィスワーカーの割合の高い「非製造業」は、人手不足感がより強いと言える。

このように、東京都の就業者数は、情報通信業等を中心に増加基調で推移しており、オフィスワーカーの割合の高い非製造業では人手不足感がより強い。引き続き、雇用情勢を注視する必要があるが、東京都心部のオフィスワーカー数が減少する懸念は小さいと言えよう。
図表-8 従業員数判断BSI(関東地方)
 
6 従業地による職業別就業者のうち、専門的・技術的職業従事者、管理的職業従事者、事務従事者の合計。
7 従業員数が「不足気味」と回答した割合から「過剰気味」と回答した割合を引いた値。マイナス幅が大きいほど雇用環境の悪化を示す。
(2) 在宅勤務の状況~「在宅勤務」の定着に伴い、オフィス戦略の見直しが続く
新型コロナウィルス感染拡大への対応で、東京では「在宅勤務」が急速に普及した。都内企業のテレワーク実施率をみると、緊急事態宣言・まん延防止等重点措置の発令期間(2021年1~3月、4~6月、7~9月、2022年1~2月)は60%台、それ以外の期間は50%台で推移しており、2022年12月調査では52%となった(図表-9)。

公益財団法人日本生産性本部「働く人の意識に関する調査」によれば、「コロナ禍収束後もテレワークを行いたいか」という質問に対して、テレワークを行いたい意向(「そう思う」と「どちらか言えばそう思う」の合計)は、62%(2020年5月)から85%(2023年1月)へ増加した(図表-10)。家族との時間が増えた等のメリットから、今後もテレワークを中心としたワークスタイルを希望する就業者は増加している。
図表-9 都内企業のテレワーク実施率/図表-10 コロナ禍収束後のテレワーク意向
森ビル「東京23区オフィスニーズに関する調査」(以下、「森ビル調査」)によれば、コロナ禍収束後に想定する出社率について、「100%(完全出社)」との回答は31%となった。また、ザイマックス不動産総合研究所の調査でも、「100%(完全出社)」との回答は25%に留まる。コロナ禍収束後も、従来の完全出社を前提した「オフィス勤務」に戻す企業は一部に留まり、「在宅勤務」を取り入れたハイブリッドな働き方が定着すると想定される。

こうしたなか、オフィス戦略の見直しに着手する企業が増えている。ザイマックス不動産総合研究所の調査によれば、「ワークプレイス戦略の見直しの着手状況」に関して、「既に着手している」との回答は約3 割を占め、着手予定を含めると全体で約7割に達する。図表-11にテレワークの導入に伴うオフィス戦略の見直し事例を示した。オフィス拠点集約・統合や賃貸面積の一部解約、自社オフィスからサードプレイスオフィス利用への変更等を実施する企業が増えている。
図表-11 テレワークの導入に伴うオフィス戦略の見直し(2022年10月~)
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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

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