2023年01月18日

大学の不動産戦略(1)~保有施設とキャンパスの整備方針について~

金融研究部 主任研究員 吉田 資

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1. はじめに

従来から大学は、地域社会を形成する「まち」の構成員として、重要な役割を担ってきた。近年では、校舎等の保有施設を賃貸する大学や、キャンパス再編等に伴い不動産取得・売却を行う大学がみられ、不動産売買市場および賃貸市場の担い手として存在感が増している。また、大学では、少子化の進行に伴い、授業料収入に偏らない財源の多様化が喫緊の課題となっており、資産運用収入の拡大に大きな期待が寄せられている。

こうした状況を踏まえ、弊社は、野村不動産ソリューションズ株式会社と共同で、全国の国公立大学および私立大学を対象に「大学の不動産戦略に関するアンケート調査」(以下、本調査)を実施した1

本稿では2回に分けて、本調査の集計結果の一部を紹介し、大学の不動産戦略を概観したうえで、不動産市場への影響等について考察したい。まず、第1回では、大学の保有施設とキャンパスの整備方針について概観する。続いて、第2回では、大学の不動産投資(保有不動産の賃貸経営など)を概観し、不動産市場への影響等について考察する。
 
1 ・アンケート送付数;日本国内の国公立大学および私立大学 817校 [国公立大学194校・私立大学623校]
・回答数;107校(回収率:13%)[国公立大学30校・私立大学77校]
・調査時期;2022年7月~10月  ・調査方法:手交・郵送による調査票の送付・回収
「野村不動産ソリューションズ 法人営業本部 CRE 情報部 ニッセイ基礎研究所と共同で大学の不動産戦略におけるアンケートを実施」

2. 大学経営における不動産戦略の位置づけ

2. 大学経営における不動産戦略の位置づけ

まず、大学経営における不動産戦略の位置づけを確認したい。本調査で「中長期計画等の内容」について質問したところ、「カリキュラム・教育改革・学習支援」(88%)が最も多く、次いで「社会連携、地域連携事業」(87%)、「財務改善および財政計画」(82%)、「校舎、施設設備の整備・拡充」(81%)が多かった(図表-1)。

日本私立学校振興・共済事業団「学校法人の経営改善方策に関するアンケート」(2018年4月実施)によれば、「学校法人の中長期計画の内容」について、「財務・財政計画」(91%)が最も多く、次いで「施設・設備の整備・拡充」(89%)、「カリキュラム・教学改革」(88%)となっている。

学校運営において、校舎や保有施設の整備は、財政計画やカリキュラム策定等とともに、重要な位置づけにあると言える。

また、本調査では、「キャンパス移転や拡充、サテライトキャンパス設置」との回答が22%を占めた。今後、約2割の大学がキャンパス再編を予定していることが分かった。
図表-1 中長期計画等の内容

3. 保有施設の整備方針

3. 保有施設の整備方針

本章では、大学の保有施設の整備方針に関して、「(1)保有施設に関する現状認識」、「(2)施設の新設・改築の実施方針」、「(3)施設整備に期待する効果」の3点を確認する。
(1) 保有施設に関する現状認識
本調査で「保有施設についての現状認識および問題意識」について質問したところ、「施設の老朽化が進んでおり、対処を考えている」(77%)が最も多かった(図表-2)。
図表-2 保有施設についての現状認識および問題意識
文部科学省「国立大学等施設の経年別保有面積」(2022年5月時点)によれば、国立大学の保有施設面積約2,900万㎡のうち、経年が40年以上の施設(面積)は45%を占めている(図表-3)。また、日本私立学校振興・共済事業団「今日の私学財政」によれば、建物の減価償却比率50%以上の法人は、2016年度の180法人から2020年度の271法人へと増加している(図表-4)。私立大学においても、保有施設の老朽化が進んでいる。こうした現状から、約8割の大学で老朽化した校舎等への対応が課題であることが分かった。

また、「未利用・低利用となっている施設がある」との回答も約4割に達した(図表-2)。

会計監査院「平成21年決算監査報告」によれば、一部の国立大学に対して、未利用施設および未利用地について、合理的な理由がない場合には具体的な売却等の処分計画を策定するよう要求している。その後、一部の国立大学は未利用地等の売却を実施したものの、利用頻度の低い施設の有効活用に関して問題意識を持つ大学が、依然として多いことがうかがえる。今後、資産の有効活用の観点から、大学が資産売却等を計画し、不動産市場の売り手として存在感が増す可能性がある。
図表-3 国立大学等施設の経年別保有面積/図表-4 建物の減価償却比率の分布状況(私立大学)
(2) 施設の新設・改築の実施方針
本調査で「施設の新設・改築の実施方針」について質問したところ、「施設の新設を過去5年以内に実施済み、もしくは現在、実施中」が43%、「施設の改築を今後、検討している」が43%、「施設の改築を過去5年以内に実施済み、もしくは現在、実施中」が36%、「施設の新設を過去5年以内に実施済み、もしくは現在、実施中」が32%を占めた(図表-5)。
図表-5 保有施設の新設・改築の実施方針
大学改革支援・学位授与機構「大学基本情報」によれば、国公立大学は、過去10年(2013年度~2022年度)で年間約14法人(全体の1割)が保有施設の新築・改築を行い、建築総面積は平均で約5万m2となっている(図表-6)。

「当面、新設・改築の予定はない」は約2割にとどまっており(図表-5)、多くの大学が保有施設の整備を継続的に実行する方針であることが分かった。
図表-6 国公立大学 新築・改築を行った法人数と建築総面積
(3) 施設整備に期待する効果
本調査で施設の新設や改築を実施(検討)している大学2に対して、「施設整備に期待する効果」について質問したところ、「教育・研究内容の拡充 」(82%)が最も多く、次いで、「入学希望者数の増加」(51%)が多かった(図表-7)。
図表-7 施設整備等の実施において、期待する効果
文部科学省「大学への進学者数の将来推計について」によれば、大学入学年齢にあたる18歳人口は2017年の120万人から2040年には88万人(対2017年比▲27%)へと減少し、大学進学者も2017年の63万人から2040年には51万人(対2017年比▲19%)へと減少する見通しである(図表-8)。少子化が進行し、大学進学者の減少が見込まれるなか、施設整備の効果として、学生の獲得を強く意識していることがうかがえる。
図表-8 大学進学者の将来推計
 
2 3-(2)「保有施設の設備法人」において、「当面、新設・改築の予定はない」と回答した大学を除く全ての大学が対象。
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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

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