2022年12月28日

気候変動指数の地点拡大-日本版の気候指数を拡張してみると…

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

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5――おわりに(私見)

本稿では、地域区分を設定して観測地点を増やすことで、気候指数の拡張を図った。指数の推移を通じて、各地点の長期的な気候変動の状況が示されるものとなっている。ただし、気候指数はまだ試作の域を出ておらず、日本全体の気候変動の状況を示すものとは言えない。今後も、観測地点の追加など、充実、改善を図る必要性があろう。引き続き、その改良に向けて取り組んでいくこととしたい。

また、気候変動問題が保険事業に与える影響をみていくために、北米で開発されている気候リスク指数のような、気候変動が人命や財産に与えるさまざまなリスクの定量化の試みも必要と考えられる。

地球温暖化を背景とした気候変動の問題は、今後ますます注目度が高まるものと考えられる。スーパー台風の襲来や、豪雨、南岸低気圧等による激甚災害など、急性リスクの懸念が高まっている。一方、南極やグリーンランドの氷床の融解、アフリカ山岳地域等の氷河の消失、ヨーロッパなどでの熱波や干ばつの発生など、慢性リスクの発生が、人々の生活に深刻な影響を及ぼし始めている。

こうしたリスクを定量的に示すために、引き続き、気候の極端さの指数化、定量化の動向について、ウォッチしていくこととしたい。

(参考)11都市と15地点の気候指数の推移

(参考) 11都市と15地点の気候指数の推移

1|11都市では、鹿児島、横浜、大阪の合成指数が高かった

(1) 札幌
札幌
札幌の合成指数は、2010年代以降ほぼ0.5~1.0で推移しており、2015年には1に迫る時期もあった。2022年夏季には0.71となっている。2000年代に比べて、2010年代は、参照期間からの乖離度が高まっている様子がうかがえる。特に、高温の指数は2022年に1.5を超過している。なお、風については、2001年に観測方法が変更されており動きが激しい。海面水位のデータはない。

(2) 仙台
仙台
仙台の合成指数は、2000年代以降0.5前後で推移しており、徐々に上昇している。2022年夏季には0.78となっている。高温の指数は1.5を超えて、2に迫っている。高温の指数が合成指数を上回って推移している状況は、北米やオーストラリアと同じ傾向となっている。

(3) 東京
東京
東京の合成指数は、2000年代以降0.5前後で推移しており、2013年には1に迫る時期もあった。2022年夏季には0.68となっている。この20年間で、参照期間からの乖離度が高まっている様子がうかがえる。特に、高温の指数は1前後にまで上昇している。高温の指数が合成指数を上回って推移している状況は、北米やオーストラリアと同じ傾向となっている。

(4) 横浜
横浜
横浜の合成指数は、2000年代以降騰勢を続けており、2022年夏季には1.33にまで上昇した。特に、高温の指数は2.5に迫る水準に上昇している。極端な高温の増加が指数として表れている。東京と近い位置にありながら、東京よりも高温の指数が大幅に高い点について、都市が太平洋岸に位置することの影響などをウォッチしていく必要があるものと考えられる。

(5) 新潟
新潟
新潟の合成指数は、2000年代以降0.5前後で推移しており、2022年夏季には0.72となっている。高温の指数が1を超えているものの、他の観測地点に比べると気候変動の極端さの進行は緩やかと見ることができる。

(6) 名古屋
名古屋
名古屋の合成指数は、長らくゼロ近辺で推移してきていたが、2020年に0.5を超え、2022年夏季には0.77に上昇した。高温の指数は徐々に上昇して2に迫る水準となっている。降水はゼロ近辺、海面水位は参照期間後にマイナス1程度に低下して、合成指数の上昇を抑える形となっていた。その後、2022年に海面水位がゼロ近辺に戻ったことで、合成指数が上昇した。

(7) 京都
京都
京都の合成指数は、2000年代はゼロ近辺で推移していたが、2010年代に入って上昇傾向となった。2022年夏季には0.83に上昇している。特に、高温の指数が上昇を続け、2019年以降1.5を超えて推移している。風の指数についても激しい上昇がみられる。

(8) 大阪
大阪
大阪の合成指数は、2000年代に0.5を超え、2012年には1を上回り、2022年夏季には1.31に上昇している。高温の指数も同水準となっている。特に、海面水位の指数が上昇しており、2012年には2を超えている。

(9) 広島
広島
広島の合成指数は、2000年代に0.5前後で推移し、2010年代後半に上昇した。2022年夏季には0.94となっている。高温の指数が2020年に1.5を上回る水準となって推移しており、合計指数の上昇要因となっている。

(10) 福岡
福岡
福岡の合成指数は、2000年代以降徐々に上昇し、2010年代後半には1を超える時期もあった。その後も1前後で推移し、2022年夏季には0.98となっている。特に、高温の指数は上昇を続けており、2を上回る水準に達している。

(11) 鹿児島
鹿児島
鹿児島の合成指数は、2000年代以降1をやや下回る水準で推移していたが、2016年には1を超え、2022年夏季には1.47となっている。その背景として、海面水位と高温の指数が高水準で推移していることが挙げられる。
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保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1992年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員

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